白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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井山裕太-芝野虎丸戦(棋譜紹介)

2016年12月26日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
現在、ナショナルチームの強化合宿が行われています。
その中の対局の一部が、幽玄の間で中継されました。
本日ご紹介するのは、井山裕太六冠芝野虎丸三段の対局です!



1図(実戦白38)
井山六冠の黒番です。
白1と切った場面がテーマ図です。
成立するかどうか、非常に際どい切りですが、黒はどう対応したでしょうか?





2図(変化図1-1)
まず考えるべきは、切って来た白を取れないかという事です。
黒1~7が考えられますが・・・。





3図(変化図1-2)
黒も傷が多い姿です。
白1以下、当たり当たりとやって行って・・・。





4図(変化図1-3)
白4まで、脱出できます。
しかし、黒5となった姿は黒がやれるかと思いました。





5図(変化図1-4)
白1と渡りたくなりますが、すると黒6までとなります。
次に黒Aと打てば生きるので・・・。





6図(変化図1-5)
黒を取りに行くなら白1ですが、黒10まで、黒が攻め合い勝ちです。
一応、白にはもう少し粘る手段もありますが・・・、ややこしいのでそれは省略します。
ともかく、この進行なら黒がやれそうに見えるのです。

しかし、お気付きのように、これらの図は「変化図」です。
これで黒が行ける、と思ってしまうのは罠なのです。





7図(変化図2)
4図の後、白は左辺を渡らず、白1が冷静です。
黒2と突き出されてしまいますが、黒は左辺で眼を作れません。
白7となっては1眼しかなく、黒ピンチです。





8図(実戦黒39~黒43)
という訳で、いきなり白を取りに行くのは廃案です。
黒1、5と、左下に働きかけて行きました。
と言っても、隅で生きようという訳ではありません。





9図(変化図3)
白1と抜けば、黒2を利かしに行こうという事でしょう。
一見白Aと受けておいて、何でもないようですが・・・。





10図(変化図4)
白1と繋ぐと、黒6まで捕まってしまいます。
切った石を取られては、勿論白がいけません。





11図(変化図5)
9図の、白1と中の石を逃げれば、黒2と切ります。
白3の一手ですが、黒4と先手で傷を守る事ができます。
そして黒6と2子を動き出し、黒12までとなるとどうでしょうか。
右辺一帯が、大きな黒模様になった事を感じられるでしょう。

また、左辺の黒は〇の所に1眼あり、白△を取る手も残っています。
つまり殆ど生きているような石なので、こちらにも不安がありません。
こうなれば黒の捌きは成功、形勢も黒有利です。





12図(変化図6)
ちなみに、1図の状態でいきなり黒1から取りに行くのは無理です。
白10まで、脱出されてしまいます。
その後黒Aには白B、黒C、白Dです。

ですが、もし予め10の所に黒石があれば、白を取れているのです。
それが9図黒2です。





13図(実戦白44~白50)
そこで、実戦は白1と中央を助けました。
黒2と繋がれても、白3以下、「石塔絞り」の手筋で攻め合いに勝てるという訳です。





14図(実戦黒51~黒57)
白6まで、隅の攻め合いは白勝ちです(白2は黒3の1路右)。
黒7の逃げに回られたのは11図と同じですが、大きな違いがあります。
それは、左辺の黒に眼が無くなっているという事です。





15図(実戦白58~白64)
眼が無いので、黒6の守りが必要です。
白7の絶好点には、白が回る事ができました。
11図とは全く景色が違いますね。
見事な攻防でした。

この進行の意味を理解するのに、1時間ぐらいかかりました。
しかし、これは早碁でしょうから、両対局者は一手一手を数十秒で判断しているのです。
恐るべき読みの能力です。
この2人とは早碁を打ちたくないですね。

この後は大きな戦いになりましたが、井山六冠がチャンスを掴み、押し切りました。
隙の無い攻め方は、皆様のお手本にもなるでしょう。
ぜひ幽玄の間で、総譜をご覧ください。