白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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投了のタイミング

2016年07月03日 20時00分00秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
7/1の記事で、モヤッとした部分がありましたが解決しました。
追記しておきましたので、よろしければご覧ください。

さて、今回のテーマはその記事とも関連があります。
題して「投了のタイミング」です。
アマの方からよく頂くご質問に、「どういう時に投了すれば良いですか?」というものがあります。
実際、投了のタイミングが分からない方は多いようです。
指導碁を打っていてもそれは感じます。

ルールだけを考えればいつ投了しても良いですし、100目負けていても投了しなくても良いのです。
余談ですが、実は相手の手番でも投了する事が出来ます。
皆様の普段の対局を含め、日本で行われる対局の殆どは日本囲碁規約というルールに則って行われています。
その第11条にはこうあります。
対局の途中でも、自らの負けを申し出て対局を終えることができる。これを「投了」という。その相手方を「中押勝」という。
このように、投了に関して手番の記述はありません。
通常はわざわざ打ってから投了する事はありませんが、例外も考えられます。
自ら当たりに突っ込む等の大ポカをやってしまった経験はどなたでもお持ちでしょう。
最近はネット碁もありますから、クリックミスのケースも多いですね。
そういう時に相手は悩むものです。
「そんなポカに付け込むのも気が引けるけど、取れる石を取らないのも変だし・・・」
焦らした挙句に取って、喧嘩になってしまう事もあるかもしれません
そうならないよう、さっと投了して気持ち良く対局を終えるのも一つのマナーかなと思います。

さて、マナーの話が出ましたね。
どのタイミングで投了するか、それは結局の所マナーの問題なのです。
形勢が不利になり、挽回も困難になった時に負けを認めるのが投了です。
ただ、厳密に言えば100%負けが決まる状況と言うのはあり得ません。
相手が当たりに突っ込むかもしれない、時間が切れるかもしれない、倒れるかもしれない等々・・・。
しかし、それを期待するのは相手に失礼な事です。
たとえそういう意図が無かったにせよ、いつまでも投了しなければ相手にそう受け取られても仕方がありません。
お互いに気持ち良く対局を終えるために、自ら負けを認める事も必要なのです。

さて、それでは挽回困難な状況とはどんな時でしょうか。
一つはその時点での形勢の差です。
形勢を判断するための要素は、地の多さ、厚みの大きさ、弱い石の有無等色々あります。
しかし単純に言ってしまえば10目差より20目差、20目差より30目差の方が挽回が難しいと言う事です。
もう一つはそれが1局の中のどの段階かという事です。
例えば級位者同士であればミスは頻繁に出るので、序盤で50目離れたとしても安全なリードではありません。
勝負はまだまだこれからです。
しかしそれが戦いの終わった終盤だったらどうでしょうか。
逆転が不可能な事は両対局者とも分かっているでしょう。
そこで打ち続ける事はトラブルの元になりかねません。
投了して次の対局に行くべきでしょう。

ただし級位者と大雑把に言いましたが、例えば20級だったら終盤の50目差が分からなくても仕方ありません。
相手を馬鹿にしているわけではないのですから、そこは大目に見てあげましょう。
実際、私が指導碁を打っていても50目差になってしまう事はあります。
それが級位者の方なら打ち続けても全く問題はありません。
しかし、五段の方だったらどうでしょうか。
形勢判断が出来るのに投了しないという事が意味するのは・・・。
私も怒ってしまうかもしれません

プロの対局は勝負第一ですが、しかし囲碁は伝統文化でもあります。
プロ同士とは言えどもマナーは重要です。
伊田さんの投了はその点で素晴らしいのです。
アマの方同士ならまだ分からないでしょうが、このレベルでは逆転の目がないので投了しました。

しかしプロとは言えど人間ですから、いつも正しい判断が出来るとは限りません。
テレビ対局等、持ち時間が短いと大差の碁を最後まで打ってしまうケースが増えます。
それは形勢判断をする余裕が無いからです。
必死に頑張っていたものの気付いたら形勢は大差、しかし終局直前なので仕方なく最後まで打ってしまうという事は時々あります。
その場合恥じるべきは短い時間で形勢判断をする能力が足りなかった事で、マナー違反とは言えません。
相手もそれは理解しています。

棋力等で投了のタイミングは変わってきますが、大事なのは2人で対局を楽しむという意識を忘れない事です。
そういう気持ちは着手を通して相手に伝わるものです。
それが出来ていれば、たとえ投了のタイミングが遅れてしまったとしても気持ち良く対局を終える事が出来るでしょう。