<ここまでの話>
【第1部】
「(第1話) から (第9話)までのリンク」
【第2部】
「(第10話)存在・・」
「(第11話)期待・・」
------------------------------------------------------------------------------
小さな温泉がある田舎の駅なのだが、降りる人達の数は意外と多い
そんな人達の中で、仲が良い夫婦連れが何故か目立っていた・・
(夫婦水入らずの温泉旅か・・ それも良い物だな・・)
などと考えながら、留守電でもよいので、一言『着いたよ♪』と彼女に電話を
しておこうと携帯電話を取り出したとき、手を振る見慣れた男と視線が合った・・
「遠路はるばる、お疲れ様です!」
「おう、ご苦労様・・ わざわざ出迎えてくれなくても良いのに・・
忙しいのでは無いのか?」
と、言いながら携帯電話を上着の内ポケットに押し込む・・
(さて・・ 仕事モードに切り替えないと・・)
「いや、そんな事はありません、今週分の作業は終了していますから♪」
「そうか・・ ありがとう♪ しかし、ここは久しぶりだ! 変らんな・・」
「そりゃ都会とは違います・・ ここでは時間もゆったりと進んでいます・・」
「そうだな・・
というか、この温泉街って・・ 意外と人気スポットなんだな・・
あのような夫婦連れを沢山見かける・・
週末利用の温泉旅行だろう・・ 流行っているのか?」
「いや・・ 夫婦じゃないです・・ あれは・・ あちらも違います・・」
「ん? 違うって? 夫婦じゃないのか? 仲もよさげだぞ?」
「よくご覧になってください・・
男性も女性も、それぞれ大きなバッグを持っていませんか?」
「そりゃ旅行だったら着替えなども要るだろう・・ バッグも必要では?」
「まぁそうですが・・
ではちょっとイメージください・・ 奥さんと2人で旅行・・」
「すまん・・ バッグだよな・・ イメージができん・・
最近は、家族全員で車で移動だからな、適当に分けてトランクにポイだ・・」
「そうですね・・ では、車じゃなく電車であれば、荷物はどうされます?
荷物は極力小さくしようと考えませんか?」
「そうだな・・ 着替えも少なく最小限の荷物にするだろうな・・」
「そうなんです♪・・
そして、良くある旅行用のかばんって大き目ではないですか?
荷物を少なくしたのに、バッグは大きくて・・
だったら、着替えなどは一緒にしてと考え、2人分の荷物を
1つにまとめてしまいませんか?」
「まぁ、そうなる事もあるだろうな・・」
「意外とそうなるようですよ、
奥様方は自分の小さなバッグは持ちますが、着替えなどは大きなバッグに入れ
旦那さんに持ってもらう・・ 夫婦だったらそういうものなんだそうです・・」
「そうか・・ 1人づつ別の大きなバッグって事は・・
同じ家から来たのではない!・・ って事になるのか!」
「そうなんです・・ 十中八九、あれは不倫旅行ですね♪
よくご覧になってください 男も女も別々に大きなバッグを持っています・・
そして・・ 夫婦って、あんなにベタベタするものでしょうか?
年も見たら離れているようにも・・ ちょいと不自然に見えませんか?
というか、本人たちは気付かれてはいないと思っているのでしょうが
客観的に見ると、意外にバレバレなんだと言う事です♪」
「鋭いな・・ そうか・・ ふ・・ 不倫なんだ・・」
「そうなんです、間違いなく不倫です!
まぁ不倫なんて私が見たら一目瞭然ですね♪
普通に考えても、夫婦で旅行するなら土曜日出発なんですよ♪
それが、金曜の夜からって・・ ちょっと考えただけでも不自然なんですよ」
2課の課長の口から思わず出てきた、不倫という単語にドキっとし、心が騒いだ・・
(不倫というのは、他人から見たらバレバレな物なのか?
というか、この課長・・ 要注意だ!
それとなく彼女の事を聞きたかったが・・ それは危険かもしれない・・
いや・・ ちょっと待て・・ 私は?・・ 私は不倫なのか?)
「不倫はそんなに解り易いのか?」
「そうですね、まぁ都会の中であれば、木を隠すには森に・・って感じで
解りにくいですね、特に人が多い事で、常に見られる危険性から
不倫している人は警戒し演技している事も多くなりますので・・
でも、このような場所では開放感や知人も居ないって事が作用し
モロに行動に出てしまいます」
「そうか、油断大敵ってことだな?」
(さっきまでの私と同じかもしれん! 浮かれていた事は事実だ・・
人の振り見て我が振り直せ!か・・ 昔の人はいい事を言う・・)
「人の多さや、活動エリア内などは関係なく、リスクを伴う行動である限り
どこに居ても注意が必要であるはずなのに・・
開放感からか、リスクヘッジが甘くなるのは人間の性なんだと思います」
「言うなぁ・・ 君は評論家だな♪
先ほどもバッグで判断したし・・ 理由も論理的で妙に説得力がある」
「いえいえ・・ バッグの話は、この街に最初に来たときに宿泊した
旅館の仲居さんから聞いた話なんです、評論家なんて事はないですよ♪」
「しかし・・ そう言われて見ると・・ あの二人もそれっぽいな・・」
「ビンゴです♪、男性はネクタイにビジネススーツ・・
夫婦の旅行ならありえない格好です、それと女性の髪形・・ 盛っていますよね
完全にお水と思われます」
課長の口調が徐々に柔らかくなってきている・・
(こいつ意外と楽しい奴かもしれんな・・)
「そう言われるとほんとに多い・・」
「ですからホテルや旅館も、金曜の夜はどこも満員なんです
この温泉街は別名『不倫温泉』って呼ばれているそうで
都市部からも鉄道1本なので、週末の旅行には最適なんでしょうね・・」
「ほう・・不倫温泉なのか?・・、週末はそんなに混んでるのか?
って・・ おい! 私の宿はあるんだろうな?」
「大丈夫です、ご安心ください、まぁ急だったんですが
私やメンバーが宿泊しているビジネスホテルで、なんとか確保できました・・
本来であれば、露天風呂や混浴がある旅館でも取れれば良かったんですが
申し訳ありません・・ まぁ公共温泉に浸かることは出来ますが・・」
(何っ! 彼女と同じホテルなのか!!)
突然、彼女の姿や濡れた唇、そして手のぬくもりなどのイメージが浮かび上がる
課長の話を聞きながらも、脳裏では彼女との不倫温泉での妄想が暴走し
素敵な週末になる期待感で胸がどんどん膨らんでいった・・
(しかし、この切れ者課長と一緒だと、うかつな態度は危険だ
話が合うとついつい余計な事まで口を滑らせてしまう・・
この場に彼女が居なくて良かった・・ が・・ こ・・混浴ぅ?・・
彼女と混浴かぁ♪・・ いや・・ やっぱりそれは・・ いかんいかん・・)
あらぬ妄想で胸が膨らむばかりでなく股間も・・ 悲しい男の性だ
「いや、うん、私はビジネスで十分だ・・」
(まぁ、何であろうと
彼女と不倫温泉で、同じ宿って・・ こりゃ最高じゃないか♪)
「ほんと、ビジネスで申し訳ありません・・
では・・ 立ち話も何ですから・・ ホテルはちょっと離れていますので、
荷物を預けるより先に、ちょいと一杯引っ掛けますか?
お腹もお空きでしょうから、この近所で食べていきましょう!」
(そういえば・・ 彼女は電話で『駅に着いた』と言っていたな・・
ビジネスホテルへは電車で異動なのか?
まぁ・・ この辺は旅館や観光ホテルが主だから仕方がないか・・
電車の本数も少ないだろうし・・ タクシー利用も往復では無駄だな・・)
「解った、ビジネスホテルだと期待した郷土料理にもありつけんしな
チェックインして、またここまで戻るのも大変だし・・
なにか美味しい店が近くにあるのか?」
「任せてください! お客さんに教えてもらった店があります!
地酒もあって、安くて美味しくて、週末は娘さんが店を手伝うので
大人気ですよ・・ ひょっとしたら部長さん達も来ているかもしれませんね・・」
「そうか! 地酒が旨い店か?・・ ん? ひょっとしたら駅裏の・・」
(明日、彼女と行こうと思っていた店なんだが・・ まさか・・)
「そうです! 駅裏です! 既にご存知でしたか? 良く行くんですよ!」
(危なかった・・ ばったり出会ったりすると言い訳も出来ない・・
彼女と行く別の店を探さないといけないな・・)
頭で考えている事とは全く別の話が出来る・・ 人間とは不思議な動物だ・・
「5年前に行った事があると思う・・ 娘さんって・・ 小学生だった娘か?」
「今、高校2年生って言ってましたから・・ 多分間違いないですね♪」
「そりゃ楽しみだ♪」
何とか不倫の話から他の事に話題をそらせ、地酒の旨い郷土料理屋に向かった・・
(さて・・ 彼女への電話は様子を見つつだな・・
メールアドレスを知っていたら・・ ごまかしながらでも連絡できるのに・・)
などと考えている事は秘密だが・・
「(第13話)男のロマン・・」に続く・・・
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「(第10話)存在・・」
「(第11話)期待・・」
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小さな温泉がある田舎の駅なのだが、降りる人達の数は意外と多い
そんな人達の中で、仲が良い夫婦連れが何故か目立っていた・・
(夫婦水入らずの温泉旅か・・ それも良い物だな・・)
などと考えながら、留守電でもよいので、一言『着いたよ♪』と彼女に電話を
しておこうと携帯電話を取り出したとき、手を振る見慣れた男と視線が合った・・
「遠路はるばる、お疲れ様です!」
「おう、ご苦労様・・ わざわざ出迎えてくれなくても良いのに・・
忙しいのでは無いのか?」
と、言いながら携帯電話を上着の内ポケットに押し込む・・
(さて・・ 仕事モードに切り替えないと・・)
「いや、そんな事はありません、今週分の作業は終了していますから♪」
「そうか・・ ありがとう♪ しかし、ここは久しぶりだ! 変らんな・・」
「そりゃ都会とは違います・・ ここでは時間もゆったりと進んでいます・・」
「そうだな・・
というか、この温泉街って・・ 意外と人気スポットなんだな・・
あのような夫婦連れを沢山見かける・・
週末利用の温泉旅行だろう・・ 流行っているのか?」
「いや・・ 夫婦じゃないです・・ あれは・・ あちらも違います・・」
「ん? 違うって? 夫婦じゃないのか? 仲もよさげだぞ?」
「よくご覧になってください・・
男性も女性も、それぞれ大きなバッグを持っていませんか?」
「そりゃ旅行だったら着替えなども要るだろう・・ バッグも必要では?」
「まぁそうですが・・
ではちょっとイメージください・・ 奥さんと2人で旅行・・」
「すまん・・ バッグだよな・・ イメージができん・・
最近は、家族全員で車で移動だからな、適当に分けてトランクにポイだ・・」
「そうですね・・ では、車じゃなく電車であれば、荷物はどうされます?
荷物は極力小さくしようと考えませんか?」
「そうだな・・ 着替えも少なく最小限の荷物にするだろうな・・」
「そうなんです♪・・
そして、良くある旅行用のかばんって大き目ではないですか?
荷物を少なくしたのに、バッグは大きくて・・
だったら、着替えなどは一緒にしてと考え、2人分の荷物を
1つにまとめてしまいませんか?」
「まぁ、そうなる事もあるだろうな・・」
「意外とそうなるようですよ、
奥様方は自分の小さなバッグは持ちますが、着替えなどは大きなバッグに入れ
旦那さんに持ってもらう・・ 夫婦だったらそういうものなんだそうです・・」
「そうか・・ 1人づつ別の大きなバッグって事は・・
同じ家から来たのではない!・・ って事になるのか!」
「そうなんです・・ 十中八九、あれは不倫旅行ですね♪
よくご覧になってください 男も女も別々に大きなバッグを持っています・・
そして・・ 夫婦って、あんなにベタベタするものでしょうか?
年も見たら離れているようにも・・ ちょいと不自然に見えませんか?
というか、本人たちは気付かれてはいないと思っているのでしょうが
客観的に見ると、意外にバレバレなんだと言う事です♪」
「鋭いな・・ そうか・・ ふ・・ 不倫なんだ・・」
「そうなんです、間違いなく不倫です!
まぁ不倫なんて私が見たら一目瞭然ですね♪
普通に考えても、夫婦で旅行するなら土曜日出発なんですよ♪
それが、金曜の夜からって・・ ちょっと考えただけでも不自然なんですよ」
2課の課長の口から思わず出てきた、不倫という単語にドキっとし、心が騒いだ・・
(不倫というのは、他人から見たらバレバレな物なのか?
というか、この課長・・ 要注意だ!
それとなく彼女の事を聞きたかったが・・ それは危険かもしれない・・
いや・・ ちょっと待て・・ 私は?・・ 私は不倫なのか?)
「不倫はそんなに解り易いのか?」
「そうですね、まぁ都会の中であれば、木を隠すには森に・・って感じで
解りにくいですね、特に人が多い事で、常に見られる危険性から
不倫している人は警戒し演技している事も多くなりますので・・
でも、このような場所では開放感や知人も居ないって事が作用し
モロに行動に出てしまいます」
「そうか、油断大敵ってことだな?」
(さっきまでの私と同じかもしれん! 浮かれていた事は事実だ・・
人の振り見て我が振り直せ!か・・ 昔の人はいい事を言う・・)
「人の多さや、活動エリア内などは関係なく、リスクを伴う行動である限り
どこに居ても注意が必要であるはずなのに・・
開放感からか、リスクヘッジが甘くなるのは人間の性なんだと思います」
「言うなぁ・・ 君は評論家だな♪
先ほどもバッグで判断したし・・ 理由も論理的で妙に説得力がある」
「いえいえ・・ バッグの話は、この街に最初に来たときに宿泊した
旅館の仲居さんから聞いた話なんです、評論家なんて事はないですよ♪」
「しかし・・ そう言われて見ると・・ あの二人もそれっぽいな・・」
「ビンゴです♪、男性はネクタイにビジネススーツ・・
夫婦の旅行ならありえない格好です、それと女性の髪形・・ 盛っていますよね
完全にお水と思われます」
課長の口調が徐々に柔らかくなってきている・・
(こいつ意外と楽しい奴かもしれんな・・)
「そう言われるとほんとに多い・・」
「ですからホテルや旅館も、金曜の夜はどこも満員なんです
この温泉街は別名『不倫温泉』って呼ばれているそうで
都市部からも鉄道1本なので、週末の旅行には最適なんでしょうね・・」
「ほう・・不倫温泉なのか?・・、週末はそんなに混んでるのか?
って・・ おい! 私の宿はあるんだろうな?」
「大丈夫です、ご安心ください、まぁ急だったんですが
私やメンバーが宿泊しているビジネスホテルで、なんとか確保できました・・
本来であれば、露天風呂や混浴がある旅館でも取れれば良かったんですが
申し訳ありません・・ まぁ公共温泉に浸かることは出来ますが・・」
(何っ! 彼女と同じホテルなのか!!)
突然、彼女の姿や濡れた唇、そして手のぬくもりなどのイメージが浮かび上がる
課長の話を聞きながらも、脳裏では彼女との不倫温泉での妄想が暴走し
素敵な週末になる期待感で胸がどんどん膨らんでいった・・
(しかし、この切れ者課長と一緒だと、うかつな態度は危険だ
話が合うとついつい余計な事まで口を滑らせてしまう・・
この場に彼女が居なくて良かった・・ が・・ こ・・混浴ぅ?・・
彼女と混浴かぁ♪・・ いや・・ やっぱりそれは・・ いかんいかん・・)
あらぬ妄想で胸が膨らむばかりでなく股間も・・ 悲しい男の性だ
「いや、うん、私はビジネスで十分だ・・」
(まぁ、何であろうと
彼女と不倫温泉で、同じ宿って・・ こりゃ最高じゃないか♪)
「ほんと、ビジネスで申し訳ありません・・
では・・ 立ち話も何ですから・・ ホテルはちょっと離れていますので、
荷物を預けるより先に、ちょいと一杯引っ掛けますか?
お腹もお空きでしょうから、この近所で食べていきましょう!」
(そういえば・・ 彼女は電話で『駅に着いた』と言っていたな・・
ビジネスホテルへは電車で異動なのか?
まぁ・・ この辺は旅館や観光ホテルが主だから仕方がないか・・
電車の本数も少ないだろうし・・ タクシー利用も往復では無駄だな・・)
「解った、ビジネスホテルだと期待した郷土料理にもありつけんしな
チェックインして、またここまで戻るのも大変だし・・
なにか美味しい店が近くにあるのか?」
「任せてください! お客さんに教えてもらった店があります!
地酒もあって、安くて美味しくて、週末は娘さんが店を手伝うので
大人気ですよ・・ ひょっとしたら部長さん達も来ているかもしれませんね・・」
「そうか! 地酒が旨い店か?・・ ん? ひょっとしたら駅裏の・・」
(明日、彼女と行こうと思っていた店なんだが・・ まさか・・)
「そうです! 駅裏です! 既にご存知でしたか? 良く行くんですよ!」
(危なかった・・ ばったり出会ったりすると言い訳も出来ない・・
彼女と行く別の店を探さないといけないな・・)
頭で考えている事とは全く別の話が出来る・・ 人間とは不思議な動物だ・・
「5年前に行った事があると思う・・ 娘さんって・・ 小学生だった娘か?」
「今、高校2年生って言ってましたから・・ 多分間違いないですね♪」
「そりゃ楽しみだ♪」
何とか不倫の話から他の事に話題をそらせ、地酒の旨い郷土料理屋に向かった・・
(さて・・ 彼女への電話は様子を見つつだな・・
メールアドレスを知っていたら・・ ごまかしながらでも連絡できるのに・・)
などと考えている事は秘密だが・・
「(第13話)男のロマン・・」に続く・・・
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