<ここまでの話>
「(第1話)きっかけ・・」
「(第2話)待ち合わせ・・」
「(第3話)イタメシ屋・・」
「(第4話)ワイン・・」
「(第5話)胸・・」
「(第6話)手・・」
「(第7話)電車・・」
「(第8話)携帯電話・・」
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私の手帳に彼女の電話番号をメモしてから、既に数日が過ぎていた・・
通常なら、人の電話番号などを手帳にメモしても、後で「この番号・・誰のだ?」と
解らなくなるのが常であり、今回も日にちが経つ毎に気持ちも薄れ、忘れていくものだと
考えていた節があったのだが・・ しかし・・ しかしだ・・
日に日に気になり、どうしても押さえが効かなくなっている自分を自覚していた・・
通常は手帳を開くのは、今週と来週程度だ・・ 過去のページを開く事は滅多にない・・
そう・・ 滅多に無い事なのに・・ 私は毎日のように彼女の電話番号が書かれたページを
開いてメモされている番号を目で追っていた・・
(やばいぞ・・ この状態は・・)自分で自覚はしていた・・
そして、この状況を脱出する方法が、2つしかないことも理解していた・・
1つは・・ 電話番号の事は忘れてしまう事・・ そして、もう1つは・・
彼女に電話をかける事・・ 単純な事である。
そんな、単純な二択なのに、どちらも選べない、なさけない自分がここに居るのだ・・
今日も一日が終ろうとしている・・ 私に対する課題は、今日も解決する事も無く、
ただ無駄に日数だけが過ぎていった・・
良く考えると「忘れる事が出来ない事が本当の問題」であるのに
「電話をかける理由が無い事」が、自分の中で一番大きな課題に膨らんでいたのだ・・
そんな単純な事にも気が付かない自分がいた・・
(上手く行ったのだろうか・・ その事を聞こうか?・・
しかし・・ 聞いてどうなるんだ? 何か私にできるのか?・・
いや・・ 私がするべき作業なのか? ・・
というか、突然電話をかけて、彼女の邪魔にならないか?
逆に気を使わせてはいけないだろう・・ というか、鬱陶しいと思われないだろうか?
いや・・ そんな事はないぞ・・ きっと彼女は私からの電話を待っている!・・
本当か? 本当に待っているのか? そんなに待っているなら、電話をしてくるはずだ・・
彼女は言ったじゃないか! また報告しますと・・ それを待つのが筋だ・・
でも・・ 一体、何時になったら・・ そうか! ひょっとしたら、忙しくて報告を
忘れているのでは・・ いや・・ 忘れているのではなく、連絡する暇もないとか・・)
私の頭の中で、意味の無い自分勝手な妄想が渦巻いている・・
ただ、自分の仕事も忙しかった事から、妄想する時間が短かった事が救いではあったが、
ちょっとした隙間に「電話をかける妥当性のある理由」を考えている自分がそこにいた・・
・・・
そんな毎日が、数週間過ぎていた・・
そんなある日、私は社内のある会議に参加していたのだが、外からの帰りであったため、
携帯電話のバッテリーが危うくなり、帰社と同時に携帯電話の充電を開始していた。
つまり、電話は自分の机上においたまま、会議に参加していたのだが・・
神様は本当に罪作りである・・
会議が終わり自分の机に帰って来た時、事務の女の子が
「あっ・・ 携帯が鳴っていましたが、電話を開いたら登録されていない番号からの着信
でしたので、そのままにしておきました・・」
「ああ・・ そう・・ ありがとう・・」
自分の携帯ではあるが、緊急の電話も入る事から、電話が鳴ってかけて来た人が
判明する場合は、電話に出て伝言を聞いておくように指示しているのだ・・
いつもの事である・・ (誰からだ?) 私は充電中の電話を取り、開いて見た・・
開いた瞬間に目に飛び込んだ数字の並びを見たとき、私の鼓動が数倍に大きくなった
事務の女の子に聞こえるのではないか?と思えるほどに・・
見間違えるはずも無い!
毎日目で追っていた番号が、携帯電話の液晶に表示されていた・・
あわてて廊下に飛び出て着信履歴の電話番号に電話をかける・・(今かけないと・・)
「・・・ ツー ツー ツー ガチャ・・」
「あっ! もしもし!・・ 私だけど・・ 電話をくれたみたいで・・・・」
「・・・ ただ今、お繋ぎすることはできません、発信音のあとにメッセージを・・」
(しまった・・ 遅かったか・・ )
私は電話を切って、しばし電話の画面を見つめていた・・
(落ち着け・・ 落ち着いて考えろ・・ 留守番電話に伝言を残すか?
いや・・ すでに、私の着信履歴が残っているだろう・・ 何度もかけるのは
おかしいだろう・・ うかつだったか・・ 電話を切るのではなかったか・・)
一体、何をしているのだろう、情けない・・ 中学や高校生でもあるまいし・・
ただ、心地よい高揚感が全身を駆け巡ってはいた。
・・・
その後、仕事が終るまでの間、電話が鳴ることは無かった・・
正しく言えば、電話は鳴ったが、彼女からでは無かったという事だが・・
電話が鳴るたびに、あわてて電話を取ってしまう・・
そんな私の行動に対し、事務の子が不審に思ったのか・・
「どうしたのですか? 緊急の用事でもあるのですか?
いつもは鳴ってっても、出ないことも多いのに・・ なんか変ですよぉ♪」
「あ~っ! ひょっとしたらぁ・・ い・い・ひ・と? ですかぁ?♪」
「え~っ♪♪ そうなの?」
「おいおい・・勝手な推測をするんじゃないの! おしゃべりは後にして 仕事仕事!」
とは言ったものの・・ 女の子はやっぱり敏感だ・・ (行動は注意しなくっちゃ・・)
少し冷静になった自分がいた・・ 女の子達に感謝だ!
しかし・・ 実は仕事も手に付いてはいなかったのだ・・
何度も社内のネットワークでの電子メールで、「電話の内容はなに?」と打っては
メール発信する直前で消している自分がいた・・
(電話もメールも同じだ・・ ここは男らしく彼女からの連絡を待つべきだ・・)
と・・考える自分がいた・・
帰宅途中も電話が気になる、いつもなら上着の内ポケットに入れているのだが、
マナーモードにしているのが常である事から、かかって来ても気付かない時がある
そのため、帰宅の最中は電話を手に持っていた・・
ふと、電車の中を観察すると、意外と手に持ったままの人が多いことに気が付いた・・
(そうか・・ みんな電話やメールを待っているのかな?・・)
つい、最近までは、携帯電話の依存症じゃないか! と思っていた自分がいて、
絶対に、そのような事態にはならない自負もあったのに・・ 今は、こちら側の世界に
自分が居る・・ ちょっと情けなくも感じ、つい、ほほが緩んでいた・・
(ほんと・・ バカだよなぁ・・)
そんな事を考えつつ、家の前まで帰って来てしまった・・
玄関の前で携帯を開く・・ やはり着信は無い・・
そのまま、電話の電源を切って、玄関の扉を開けた・・
・・・
次の日の朝、いつものように家を出た・・ 電車を待つ間に携帯を開く・・
・・・・ 着信あり・・・ やはり・・ 彼女からだ・・・
「神様のバカ!」私は小声でつぶやき、空を見上げた・・
空は、今にも泣き出しそうな曇り空だった・・・
「(第10話)存在・・」に続く・・・
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「(第5話)胸・・」
「(第6話)手・・」
「(第7話)電車・・」
「(第8話)携帯電話・・」
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私の手帳に彼女の電話番号をメモしてから、既に数日が過ぎていた・・
通常なら、人の電話番号などを手帳にメモしても、後で「この番号・・誰のだ?」と
解らなくなるのが常であり、今回も日にちが経つ毎に気持ちも薄れ、忘れていくものだと
考えていた節があったのだが・・ しかし・・ しかしだ・・
日に日に気になり、どうしても押さえが効かなくなっている自分を自覚していた・・
通常は手帳を開くのは、今週と来週程度だ・・ 過去のページを開く事は滅多にない・・
そう・・ 滅多に無い事なのに・・ 私は毎日のように彼女の電話番号が書かれたページを
開いてメモされている番号を目で追っていた・・
(やばいぞ・・ この状態は・・)自分で自覚はしていた・・
そして、この状況を脱出する方法が、2つしかないことも理解していた・・
1つは・・ 電話番号の事は忘れてしまう事・・ そして、もう1つは・・
彼女に電話をかける事・・ 単純な事である。
そんな、単純な二択なのに、どちらも選べない、なさけない自分がここに居るのだ・・
今日も一日が終ろうとしている・・ 私に対する課題は、今日も解決する事も無く、
ただ無駄に日数だけが過ぎていった・・
良く考えると「忘れる事が出来ない事が本当の問題」であるのに
「電話をかける理由が無い事」が、自分の中で一番大きな課題に膨らんでいたのだ・・
そんな単純な事にも気が付かない自分がいた・・
(上手く行ったのだろうか・・ その事を聞こうか?・・
しかし・・ 聞いてどうなるんだ? 何か私にできるのか?・・
いや・・ 私がするべき作業なのか? ・・
というか、突然電話をかけて、彼女の邪魔にならないか?
逆に気を使わせてはいけないだろう・・ というか、鬱陶しいと思われないだろうか?
いや・・ そんな事はないぞ・・ きっと彼女は私からの電話を待っている!・・
本当か? 本当に待っているのか? そんなに待っているなら、電話をしてくるはずだ・・
彼女は言ったじゃないか! また報告しますと・・ それを待つのが筋だ・・
でも・・ 一体、何時になったら・・ そうか! ひょっとしたら、忙しくて報告を
忘れているのでは・・ いや・・ 忘れているのではなく、連絡する暇もないとか・・)
私の頭の中で、意味の無い自分勝手な妄想が渦巻いている・・
ただ、自分の仕事も忙しかった事から、妄想する時間が短かった事が救いではあったが、
ちょっとした隙間に「電話をかける妥当性のある理由」を考えている自分がそこにいた・・
・・・
そんな毎日が、数週間過ぎていた・・
そんなある日、私は社内のある会議に参加していたのだが、外からの帰りであったため、
携帯電話のバッテリーが危うくなり、帰社と同時に携帯電話の充電を開始していた。
つまり、電話は自分の机上においたまま、会議に参加していたのだが・・
神様は本当に罪作りである・・
会議が終わり自分の机に帰って来た時、事務の女の子が
「あっ・・ 携帯が鳴っていましたが、電話を開いたら登録されていない番号からの着信
でしたので、そのままにしておきました・・」
「ああ・・ そう・・ ありがとう・・」
自分の携帯ではあるが、緊急の電話も入る事から、電話が鳴ってかけて来た人が
判明する場合は、電話に出て伝言を聞いておくように指示しているのだ・・
いつもの事である・・ (誰からだ?) 私は充電中の電話を取り、開いて見た・・
開いた瞬間に目に飛び込んだ数字の並びを見たとき、私の鼓動が数倍に大きくなった
事務の女の子に聞こえるのではないか?と思えるほどに・・
見間違えるはずも無い!
毎日目で追っていた番号が、携帯電話の液晶に表示されていた・・
あわてて廊下に飛び出て着信履歴の電話番号に電話をかける・・(今かけないと・・)
「・・・ ツー ツー ツー ガチャ・・」
「あっ! もしもし!・・ 私だけど・・ 電話をくれたみたいで・・・・」
「・・・ ただ今、お繋ぎすることはできません、発信音のあとにメッセージを・・」
(しまった・・ 遅かったか・・ )
私は電話を切って、しばし電話の画面を見つめていた・・
(落ち着け・・ 落ち着いて考えろ・・ 留守番電話に伝言を残すか?
いや・・ すでに、私の着信履歴が残っているだろう・・ 何度もかけるのは
おかしいだろう・・ うかつだったか・・ 電話を切るのではなかったか・・)
一体、何をしているのだろう、情けない・・ 中学や高校生でもあるまいし・・
ただ、心地よい高揚感が全身を駆け巡ってはいた。
・・・
その後、仕事が終るまでの間、電話が鳴ることは無かった・・
正しく言えば、電話は鳴ったが、彼女からでは無かったという事だが・・
電話が鳴るたびに、あわてて電話を取ってしまう・・
そんな私の行動に対し、事務の子が不審に思ったのか・・
「どうしたのですか? 緊急の用事でもあるのですか?
いつもは鳴ってっても、出ないことも多いのに・・ なんか変ですよぉ♪」
「あ~っ! ひょっとしたらぁ・・ い・い・ひ・と? ですかぁ?♪」
「え~っ♪♪ そうなの?」
「おいおい・・勝手な推測をするんじゃないの! おしゃべりは後にして 仕事仕事!」
とは言ったものの・・ 女の子はやっぱり敏感だ・・ (行動は注意しなくっちゃ・・)
少し冷静になった自分がいた・・ 女の子達に感謝だ!
しかし・・ 実は仕事も手に付いてはいなかったのだ・・
何度も社内のネットワークでの電子メールで、「電話の内容はなに?」と打っては
メール発信する直前で消している自分がいた・・
(電話もメールも同じだ・・ ここは男らしく彼女からの連絡を待つべきだ・・)
と・・考える自分がいた・・
帰宅途中も電話が気になる、いつもなら上着の内ポケットに入れているのだが、
マナーモードにしているのが常である事から、かかって来ても気付かない時がある
そのため、帰宅の最中は電話を手に持っていた・・
ふと、電車の中を観察すると、意外と手に持ったままの人が多いことに気が付いた・・
(そうか・・ みんな電話やメールを待っているのかな?・・)
つい、最近までは、携帯電話の依存症じゃないか! と思っていた自分がいて、
絶対に、そのような事態にはならない自負もあったのに・・ 今は、こちら側の世界に
自分が居る・・ ちょっと情けなくも感じ、つい、ほほが緩んでいた・・
(ほんと・・ バカだよなぁ・・)
そんな事を考えつつ、家の前まで帰って来てしまった・・
玄関の前で携帯を開く・・ やはり着信は無い・・
そのまま、電話の電源を切って、玄関の扉を開けた・・
・・・
次の日の朝、いつものように家を出た・・ 電車を待つ間に携帯を開く・・
・・・・ 着信あり・・・ やはり・・ 彼女からだ・・・
「神様のバカ!」私は小声でつぶやき、空を見上げた・・
空は、今にも泣き出しそうな曇り空だった・・・
「(第10話)存在・・」に続く・・・
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