いちごわさびの徒然草

アニメ大好き! ガンダム大好き! そんなこんなを徒然なるままに・・

(第7話)電車・・ / [小説]甘い誘惑

2008-02-08 12:24:28 | [小説]甘い誘惑
<ここまでの話>
(第1話)きっかけ・・
(第2話)待ち合わせ・・
(第3話)イタメシ屋・・
(第4話)ワイン・・
(第5話)胸・・
(第6話)手・・
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彼女の手を握りしめたまま・・ 
私は何を話せば良いのか解らなくなり、無言の時が過ぎていった・・
ただ単に握った手に、彼女の湿り気を感じながら・・

電車は1つ目の駅に到着する・・ 反対のドアが開き、数名の乗客が
乗り込んできた・・ 反対側から押し付けられる・・
その時、今まで身動き出来なかった足を動かすチャンスが瞬間的に現れた・・
その瞬間に自分の都合の良い位置に足を踏み変えたのだが・・
不意に反対のドア側から強く押し戻されてしまった・・

その時・・

彼女の右足が、私の足と足の間に挟まった・・ というか・・
私の右足が、彼女の足と足の間に挟まったという方が正しいのかもしれない・・
本当に不意の出来事であるが、そのままの状態でロックされてしまったのだ・・
全身に彼女の体温を感じ、体中の血液が、私の体の一部を目指し走り出す。
ただ、今までは顔の下にあった彼女の頭は、私の右側の下方にあり、顔と顔の距離は
開いたので話はしやすくはなり、彼女が頭を上げて私を見上げていた・・

しかし・・ その顔は、何かを私に求めている困惑の顔でもあった・・

理由は解っている・・ この密着した体制を何とかしないと・・ 非常に調子が悪い・・
しかし、動こうとすると余計に都合が悪くなる・・ まずい・・
恐れている現象が既に始まっている・・ 本当にまずい・・ 落ち着け!!

(ええと・・ 円周率は 3.141592 65358979 32384626 ・・
 元素周期律は・・ 水兵リーベ僕の船、そう曲がるシップスクラ~ク・・
 あああ・・ クラーク博士ごめんなさい・・ 少年よ大志をいだけぇ~・・)

もう! 顔から火が出そうだ!
穴があったら入りたい・・とはこのような状況を言うのだろう、

しかし・・彼女には本当に悪いが・・ こんな体験は2度とは無いだろう・・ 
不謹慎にも神様に感謝する私もそこにいた・・
互いの汗でじっとりとはしていたが、繋いだ手はそのままでもあった・・
本当に「ずるい奴」になっていたのかもしれない・・

そのまま、2つ目の駅に着き・・ また逆のドアがあいた・・
ちょっと隙間が出来る・・ その瞬間に私は体を横に向けた・・
また、隙間が出来た事で、二人の間に距離が出来、極自然に繋いだ手も離れてしまった・・
(かなり残念ではあるが・・ 助かったぁ・・ が本音でもある ん?本音か?・・)

「混んでますね・・ 」 今まで無言だった彼女が話し掛けてきた・・

なんとか冷静さを取り戻そうとするが、「ああ・・」としか答える事が出来ず
気まずい空気だけが流れていた・・

私の心の中は悶々としていた・・
指の隙間から、白浜の砂のようにこぼれ落ちていった暖かいとても大切な物・・
そんな大事な物を無くしてしまったような感傷に襲われていたのだ・・ 

(彼女の手のぬくもりが欲しい・・ もう一度・・) 

私は彼女の手の位置に目線を落とし確認をした・・
(近い! すぐそこだ!)
私の手と彼女の手との距離はたったの2センチほどなのだ!
でも・・ 再度手を繋ぐような事は絶対に不可能なのだ・・
たった2センチなのだが、この2センチが20,000キロの彼方のように思えてならない・・
なにかきっかけさえあれば・・ と卑怯者に成り下がった私がそこにいた・・

・・・

二人は無言のまま、電車は3つ目の駅に到着し、私達が乗っている側のドアが開いた。
入り口近くの私は、他の乗客の人ごみに押され、駅のホームに流れて行く・・

彼女は? 人ごみに押されながら私は出てきたドアを振り返った・・
彼女はドアの戸袋側に移動し、車両の中に留まっていた
私が彼女を目で捕らえた時、彼女も私を視認はしたが、今度は車両に乗り込む人に紛れ
見えなくなってしまった・・

ドアが閉まる・・ その閉まるドアを、ただ見つめ・・ 走り去る電車を見送っていた・・

なんだ・・ この結末は?・・ 消化不良じゃないか・・ 落ちがないじゃないか・・
いや・・ なにかを期待していたのか? 仕事じゃないか? ・・

(そうだ・・ これで良いんだ・・ これで・・ )

そう自分に言い聞かせ、
走り去る電車の赤いテールライトに背を向け、私は歩き出した・・・

・・・

次の日の午前中に彼女からの依頼があった、内部監査に対する調整を行った・・
そして、その内部監査を担当する監査員に、なぜそのプロジェクトを監査対象に
設定したのかを説明し、あとは内部監査の結果を待つだけの日を何日か過ごしていた・・

会社で仕事をしていると、その多忙さで仕事には没頭できるのであるが・・
あの日以来、私の心の中に何かが生まれている事を感じていた・・

テレビや雑誌などで「不倫」の言葉を聞いたり見たりすると、その内容に興味が
出てしまうのだ・・ 意識をしていない・・ と心で否定するのだが・・
実際にそのような事象に、全く興味も無かった自分が、確実に変化し興味を持っている
事を認識もしていた・・

今まで、あまり好きではなかった、タレントの石田純一に、親近感をも感じている・・

「不倫は文化か・・」 と、つい口が滑り、声に出してしまう・・

それを聞いていた女子社員が・・
「えぇ~ ♪ 不倫されているのですかぁ~?♪」と、面白そうに顔を覗き込んできた

「いや・・ 石田純一だっけ・・ そんな事を言ってるなぁ・・って 君はどう思う?」

「私ぃ? 私は嫌ですね・・ 絶対に!」
ほう・・ 見た目は軽い感じの子なのだが・・ 見た目では判断出来ないのだなぁ・・

「そうかしら?」 と、隣の女子社員が割り込んできた・・
こちらは、不倫にはほど遠い感じの、よく出来るキャリアウーマンタイプの子なのだが・・

「私は、お互いに合意の上だったら・・ ちょっとぐらいなら良いかなぁ・・って・・」

へぇ・・ そうなんだ・・ ホントに人の考え方なんて解らないものなんだ・・

「うそぉ! 絶対駄目よ! 結婚できないのよ!」

「結婚だけがゴールじゃないでしょ?・・」

「先輩!・・ ひょっとしたら?・・」

「しらないわよ!♪ でも、『文化』っていう表現はアリかな?って・・」

「ふ~ん・・ そうなんだ・・」

と会話は私から離れ、彼女たちの間で盛り上がりつつあった丁度その時、
突然、私の携帯電話が鳴った・・ 携帯を開くと知らない電話番号である。
個人の電話ではあるのだが、よく移動している事もあり、会社のメンバーには
知らせてある電話番号だ・・ 何かあって、誰かが掛けて来たのだろう・・
何も考えず、電話を取った・・

「はい、もしもし・・」

「・・・ 私です・・ わかりますか?・・ 」 か・・ か・・ 彼女からだ!!

思わず、私は椅子から転げ落ちそうになってしまった!

「えっ・・ ちょ・・ちょっと待ってくださいね・・」

私は慌てて席を立ち、部屋を出て廊下に飛び出す・・
オフィスの女の子達が、何故か嬉しそうな顔で見合わせ、好機の目で私を見ていた・・

(第8話)携帯電話・・」に続く
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