「マッキーのつれづれ日記」

進学教室の主宰が、豊富な経験を基に、教育や受験必勝法を伝授。また、時事問題・趣味の山登り・美術鑑賞などについて綴る。

マッキーの時事随想:大江健三郎死去

2023年03月21日 | 時事随想

 平和や反核、護憲を訴えてきた大江健三郎が2023年3月3日、老衰のため88歳で亡くなりました。数々の文学賞を受賞し、1994年には川端康成に次ぐ日本人2人目のノーベル文学賞受賞者になりました。また、『ヒロシマ・ノート』、『沖縄ノート』などのルポルタージュや新聞、雑誌などでの社会的発言でも注目を浴び、核問題をはじめ現代日本のさまざまな課題へ向き合ってきました。ノーベル文学賞受賞が発表された当時の理由は、「詩的な言語を使って、現実と神話の入り交じる世界を創造し、窮地にある現代人の姿を、見るものを当惑させるような絵図に描いた」というものです。なんだかちょっと難しいですが、大江さんの文学が描く“現代性”が評価の理由になったようです。村上春樹には若干欠けている社会的な問題を取り上げている点が、ノーベル賞受賞の重要な点だったと私は考えています。

 実は、私が十代の終わり頃、私に影響を与えた人物の一人が、大江健三郎でした。ただし、大江健三郎の小説と言うよりは、彼のエッセイ集が読みやすく理解できました。たぶん、私の現在の思考も、その当時の考え方の延長にあるように思います。『厳粛な綱渡り』『鯨の死滅する日』『我らの狂気を生き延びる道を教えよ』などのエッセイ集は、共感できる内容でした。ただ、大江健三郎の小説を、日本人でさえどれだけの数の人が読んで、影響を受けたのか考えると、ちょっと悲観的になります。簡単に言えば、エッセイの論理的な考えは理解しやすいのですが、残念ながら小説は多くの人たちには読み辛いと思われます。

 日本人でノーベル文学賞にノミネートされた受賞者以外では、賀川豊彦・谷崎潤一郎・西脇順三郎・三島由紀夫などが挙げられます。また、安部公房・井上靖・島津祐子などが候補者として取り上げられていたと言われています。また、以前は井上靖が、近年では村上春樹が毎回有力候補者として話題に登り、応援者がノーベル文学賞発表を集まって待っている姿が報道されます。スエーデン・アカデミーが文学作品を把握できるためには、作品が翻訳されているかどうかが重要です。そうした意味で、日本文学をもっと積極的に世界に発信することが重要となります。三島由紀夫は、左翼と理解され、その結果川端康成が受賞したと言われています。三島の失意はとても大きかったそうです。太宰治が、芥川賞を欲しくて選考委員に長文の懇願の手紙を書いた話は有名です。作家たちが、ビッグな賞を欲しがるのは、自分の作品の公的な評価がほしいからであり、文学史に名前を刻みたいからであり、経済的な安定が欲しいからなのでしょう。

 十代の終わり頃に、吉本隆明・埴谷雄高・高橋和巳・大江健三郎などを愛読していた時期があります。加えて『十八史略』『三国志』『平家物語』が私の現在のアイデンティティを形成していると言っても良いでしょう。そうした人たちの書籍は、多くの書籍に埋もれて、大江健三郎のエッセイ集を探しましたが、表面には見当たりません。読んだ書籍を古本屋で売ったりしたことも有りましたが、やはり手元においておきたいと思うのが本音です。上記の人達の本は、とてもじゃないですが売ることなどできません。ただ、こうした人達の本は、子どもたちには読まれずに何処かに堆積しているのでしょう。私の青春の思い出をたっぷりと含みながら。

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