現代陶芸家の中で、無冠の巨匠と言って良い存在が、西岡小十でしょう。唐津焼の作家として、その力量はだれもが認めるところであるのに、なぜか人間国宝指定どころか、陶磁協会賞さえ受賞していないとは?
今回の作品はその人、西岡小十のぐい呑みと湯飲みです。
小十は大正6(1917)年、唐津に生まれました。小山富士夫と出会い、桃山時代の唐津焼を復元し、その技術を習得する道に、西岡小十は踏み出していきます。平成18年(2006)に八十九才で没。小山の援助を得て衣干山に築いた小次郎窯の呼び名から、小十と号しました。
小十の絵唐津ぐい呑み(92年黒田陶苑)
中里無庵亡き後、当然唐津焼の人間国宝は、西岡小十を除いていないと思っていました。西岡小十が、人間国宝に指定されなかったことで、唐津焼の人間国宝指定は、当分あり得ないことでしょう。
朝鮮唐津ぐい呑み(87年黒田陶苑)
人間国宝については諸説があり、西岡小十が、師である小山冨士夫の推挙打診を固辞したと言う話もあります。また、私の持っている現代陶芸を代表する作家の作品集などにも、小十が掲載されていないところを見ると、あえてそうしたものを拒否しているように思います。
河井寛次郎や北大路魯山人そして板谷波山など、何人かの陶芸家が、人間国宝推挙を断っている例があります。しかし、この3人のように中央で活躍した巨匠でなかった西岡小十の推挙固辞は、彼の作品を大切に後世に残すと言った点において、大きなマイナスとなったと思います。
絵唐津湯飲み(湯飲みの縁は、皮鯨となっています。87年黒田陶苑)
小十は、小次郎窯で斑唐津・朝鮮唐津・絵唐津・彫唐津・絵斑唐津・梅華皮唐津などの古唐津を復元して、瞬く間に唐津を代表する作家となりました。
鬼板を使い文様を描いた絵唐津の筆さばきは、並の陶芸家でないことを示しています。また小十の書画は、荒川豊蔵の影響を受け、陶芸家のものとしては、極めて上手い。私自身、小十の書を一幅持っています。
小十 箱書き
小十 箱書き
小十は、日本工芸会や日展などの団体には属さずに活動しました。陶芸ファン以外、一般にはその名前は知られていなかったように思います。自分の作品、まさに自分の分身・子供のような存在である作品を、より多くの人たちに知って欲しいという欲望はなかったのだろうか?作家として、もっと商業ベースに乗って、活動を行っても良かったのではないかと、私は思います。
小十に大きな影響を与えた、小山冨士夫 信楽ぐい呑み(87年黒田陶苑)
古山子(小山富士夫) 箱書き
唐津焼の作家として、記憶にとどめておきたい物故を含めた作家を載せて起きます。
まず、十二代中里太郎右衛門、のちの中里無庵です。古唐津の伝統を復興した唐津焼の巨匠。唐津焼の人間国宝に指定されました。
その子供の、十三代中里太郎右衛門。そしてその弟の、中里重利と中里隆。下になるに従って、自由な創作活動を行っているように感じます。
外には、徳沢守俊、藤ノ木土平などが挙げられます。
西岡小十の絵唐津茶碗(1986年 黒田陶苑)
唐津焼について、簡単にまとめておきたいと思います。
他の多くの窯場同様に、唐津焼は豊臣秀吉が朝鮮出兵の際に連れ帰った陶工たちによって始められました。当時画期的な技術として、「蹴轆轤」と「登り窯」がそれら陶工によって日本にもたらされました。
安土桃山時代に茶道が流行したことから発展し、「1楽2萩3唐津」と呼ばれるほどわび茶碗として定着。やきもののことを、東では「セトモノ」、西では「カラツモノ」と呼ぶほど、多くの人々に使われ親しまれました。
しかし江戸時代中期以降、茶陶を焼く御用窯を除き衰退しました。燃料の薪の濫伐による山野の荒廃や、伊万里等の磁器物に押されたというのが原因でした。明治維新によって藩の庇護を失った唐津焼は急速に衰退し、多くの窯元が廃窯となりました。
その後、人間国宝中里無庵が「叩き作り」など伝統的な古唐津の技法を復活させ、唐津焼の再興に成功。現在は約50の窯元があり、伝統的な技法を継承する一方で、新たな陶器作りが試みられています。
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