音楽と情報から見えてくるもの

ある音楽家がいま考えていること。アナリーゼ(音楽分析)から見えるもの。そして情報科学視点からの考察。

L'espace String Quartet: ブラームス作曲 クラリネット五重奏曲、他

2019-12-13 23:58:42 | 日本の音楽
最近、集中的にブラームスの楽曲を分析している中でどうしてもクラリネット五重奏の生演奏を聴きたくなって演奏会を探したところ、12月13日(金)に上野の奏楽堂で L'espace String Quartet という若いグループがこの曲を取り上げることを知り、さっそく聴きに出かけた。

プログラムの最初はハイドン作曲の弦楽四重奏曲 第74番「騎士」であった。ハイドンのSQの特徴の一つは爽快感にあると思う。本日の演奏は若者らしいテンポが春の野を駆け抜ける一陣の風のような心地よさを作り出しており、続く2つの重い曲の露払いとしての役目を果たしていた。

ヤナーチェックの弦楽四重奏曲 第1番は「トルストイのクロイツェル・ソナタに霊感を受けて」という副題を持ついわゆる標題音楽である。もちろん小説の筋を音楽で説明する類のものではなく、作曲者の受けたインスピレーションに基づく曲である。たった15分ほどの短い曲ではあるが様々な点でものすごく凝縮された内容を持っている。例えば冒頭の導入部では弱音器を付けた伴奏の中で弱音器を外したパートが交代で短いパッセージを奏してゆくのだが、ここでは弱音期の有無が新鮮な響きを効果的に作り出している。弱音器のこうした使い方は珍しい。続くテーマの演奏はシンフォニエッタ同様、ヤナーチェック・サウンド全開である。そしてフィナーレは心をえぐるような悲しみの中で音が消えてゆく。この内容の濃い曲をレスパスの若者たちは確かな個人技と息の合った演奏で見事にこなしていたとおもう。終曲では熱いものがこみ上げてきた。

1981年に作曲されたブラームスのクラリネット五重奏曲は彼の晩年の名作とされる。確かにそれまでのブラームス音楽の集大成になっているのだが、それだけではない。この曲でも彼は新しい音を求めて様々な試みを繰り出している。
L'espace SQと西崎智子(Cl)の演奏はこの密度の高い曲を鮮やかに解きほぐし、役割を与えられたすべての音がきちんと聞こえるようだった。つまり明解な解釈の基づくバランスの良い演奏だった。ただ、バランスを優先し過ぎたせいか、2楽章ではもっとClの音が浮き出てほしかった。あえて言えばもう一つ。第1楽章の第一主題と関連した激しいスタッカートで奏される経過句の部分にはもっと重みがあると良かった。この動機は2楽章や3楽章の主旋律を引き立たせる役目を持つものだからである。

こんなに楽しい、充実した内容の濃い演奏を聴くのは久しぶりである。もっと広く、多くの人にこの演奏を聴かせてあげたかった。

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