音楽と情報から見えてくるもの

ある音楽家がいま考えていること。アナリーゼ(音楽分析)から見えるもの。そして情報科学視点からの考察。

展覧会の展示方法についてー浮世絵の場合

2017-08-21 23:16:46 | 展覧会
先日(2017年8月17日)すみだ北斎美術館に 『開館記念展Ⅳ「北斎×富士 ~冨嶽三十六景 富嶽百景 揃いぶみ~」』を観に行った。到着したのは午後3時頃であったが、週日にもかかわらず多くの鑑賞者で賑わっていた。

北斎美術館は『地域へ、世界へと北斎に関する情報を発信し、成長し続ける美術館』を基本理念とする公営の美術館である。美術館としては展示スペースは広くない。しかし北斎の浮世絵を中心に展示するという基本方針から考えれば、80点余(第III期)の作品を展示できれば充分であろう。1~2時間かけてゆっくり鑑賞できる点数だと思う。

今回の企画展示では作品が全て額装され、壁掛け展示されていたので、近づいて絵の細部までゆっくり鑑賞する事ができた。浮世絵は本来手に取って見ることを前提にして制作されており、大判と呼ばれる一般的なサイズは縦横39×26㎝である。役者絵なら画面一杯に顔や姿が描かれているので、離れて見ても問題ないが、浮世絵風景画は近づかないと細部が分からない。ガラスケースに入れられた北斎の神奈川沖波裏を見ても、船酔いしている冨士講の人たちは分からないだろう。鑑賞環境という意味では、今回の展示は適度な照明もあり、非常に良かった。

北斎美術館の常設展示室は暗いがケースの中は十分な照度があり、絵は見やすい。ただ、ガラスケースに隔てられ、距離はいかんともしがたい。そばに絵の細部を拡大表示する説明用ディスプレイが設置されているが、やはり本物に近づいて見たい。
その点、原宿にある太田浮世絵美術館の2階の平台は絵まで30㎝に近づく事ができ、細部まで鑑賞できる優れた展示方法である。平台の欠点は壁掛けよりもスペースを必要とすることだろう。この二館のように展示スペースが狭い美術館では主催者のなるべく多くの作品を展示したいという思い、たくさん見たいという鑑賞者の要求があり、残念ながら平台を全面的に採用するわけにはゆかないのだろう。

ところで、太田浮世絵美術館の1階展示室は薄暗いうえに反対側の展示照明がガラスケースに反射して鑑賞環境としては最悪である。浮世絵の場合照明を明るくすると作品が退色するという問題があり、部屋やケース内の照明をあまり明るくできないという制約があることは誰でも承知している。ならば、ガラスケースの反射防止やケース内の照明の当て方をもっと工夫してほしい。太田美術館の場合には改善の余地が充分あると考える。

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