鶯や舌があぶない糊の桶
鶯や巣には本尊を懸(かけ)残し
うぐひすや堤をくだる竹の中
うぐひすや何ごそつかす薮の霜
鶯や野中の墓の竹百竿(ひやくかん)
鶯や耳は我が身の辺(ほと)りなる
鶯や茨くゞりて高う飛ぶ
うぐひすや梅踏(ふみ)こぼす糊盥(のりだらひ)
うぐひすや笠ぬひの里の里はづれ
うぐひすや賢(かしこ)過たる軒の梅
鶯や柏峠(かしはたうげ)をはなれかね
うぐひすや家内揃ふて飯(めし)時分
鶯や餅に糞する縁のさき
鶯や柳のうしろ藪の前
鶯や竹の子藪に老(おい)を鳴
うぐひすの笠おとしたる椿哉
うぐひすを魂(タマ)にねむるか矯柳(タウやなぎ)
住みなれて藪椿いつまでも咲き
住みなれて藪椿なんぼでも咲き
南無地蔵尊、こどもらがあげる藪椿
水音の藪椿もう落ちてゐる
藪椿、号外のベルがやつてくる
藪椿ひらいてはおちる水の音
雪がつみさうな藪椿の三つ四つ
犬がほえる藪椿のつそりと乞食で
馬が尿する日向の藪椿
落ちては落ちては藪椿いつまでも咲く
おのれにこもる藪椿咲いては落ち
元日の藪椿ぽつちり赤く
さびしさのはてのみちは藪椿
梅と椿とさうして水が流れてゐる
梅はなごりの、椿さきつゞき
(薬師院)
人声もなく散りしいて白椿
紅椿白椿花好きな御隠居さんで
借せといふ貸さぬといふ落椿
号外のベルが鳴る落椿
酔ひたい酒で、酔へない私で、落椿
(敬治君に)
あんたがくるといふけさの椿にめじろ
そこら一めぐりする椿にめじろはきてゐる
椿が咲いても眼白が啼いても風がふく
眼白あんなに啼きかはし椿から椿
生垣も椿ばかりでとしよりふうふ
椿を垣にして咲かせて金持らしく
笠へぽつとり椿だつた
潮騒の椿ぽとぽと
椿ぽとり豆腐やの笛がちかづく
椿ぽとりとゆれてゐる
椿またぽとりと地べたをいろどつた
ぬくうてあるけば椿ぽたぽた
日向の椿がぽとりと水へ
ぽつとり椿が雨はれたぬかるみ
うらは椿の落ちたまま
がらくたを捨てるところ椿の落ちるところ
くもりおそく落ちる椿の白や赤や
咲いては落ちる椿の情熱をひらふ
椿おちてゐるあほげば咲いてゐる
椿おちてはういてたゞよふ
椿のおちる水のながれる
椿は落ちつくして落ちたまゝ
水あれば椿落ちてゐる
あすは入営の挨拶してまはる椿が赤い
鴉が啼いて椿が赤くて
椿赤く思ふこと多し
椿赤く酔へばますます赤し
ぬかるみ赤いのは落ちてゐる椿
ふりかへる椿が赤い
藪かげ椿いちりんの赤さ
藪で赤いのは椿
藪の椿の赤くもあるか
椿が咲いたり落ちたり道は庵まで
椿が咲いても眼白が啼いても風がふく
椿咲きつづいて落ちつく
梅はなごりの、椿さきつゞき
椿ひらいて墓がある
ひらくよりしづくする椿まつかな
山の椿のひらいては落ちる
夕日いつぱいに椿のまんかい
雨の椿の花が花へしづくして
こどもはなかよく椿の花をひらうては
酒がどつさりある椿の花
椿の花、お燗ができました
わかれしなの椿の花は一輪ざしに
いちりん挿しの椿いちりん
こちらをむいて椿いちりんしづかな机
玉人(タマスリ)の座右にひらく椿かな
椿折(をり)てきのふの雨をこぼしけり
ばらばらとあられ降過(ふりすぐ)る椿哉
古井戸のくらきに落(おつ)る椿哉
(ある隠士のもとにて)
古庭に茶筅花さく椿かな
曉のあられ打(うち)ゆく椿哉
無為(あぢきな)や椿落(おち)うづむにはたずみ
(張良讃 嘆息ス此ノ人去リテ 䔥条トシテ徐泗ノ空シキヲ)
沓(くつ)おとす音のみ雨の椿かな
育つとも見へず花咲(さく)椿かな