いちりんのその水仙もしぼんだ
暮れるまへの藪風の水仙の白さ
徹夜ほのぼの明けそめし心水仙に
菜の花を水仙に活けかへて待つ(敬君に)
抱壺君の訃報に接して
抱壺逝けるかよ水仙のしぼるるごとく
落葉の、水仙の芽かよ
こんなところに水仙の芽が、お正月
掃きよせ掃きよせた落葉から水仙の芽
日あたり水仙もう芽ぶいたか
雪折れの水仙のつぼみおこしてやる
やうやうにして水仙のつぼみ
風を聞きをり水仙の香のほのかなる
とりとめもなく考へてゐる水仙のかほり
死にたいときに死ぬるがよろしい水仙匂ふ(或る夜の感懐)
ぱつとあかるく水仙がにほふ私の机
つゝましいちやぶ台で水仙ほのか
雪ふりつもる水仙のほのかにも
卓上の水仙花
一りん咲けばまた一りんのお正月
こゝのあるじとならう水仙さいた(清丸さんに)
霜、水仙は折れて咲いてゐる
窓は高く鎖されて水仙咲けり
戻れば水仙咲ききつてゐる
藪かげほつと水仙が咲いてゐるのも
お正月がくるかたすみの水仙ひらいた
お正月の、投げざしの水仙ひらいた
北朗作るところの壺の水仙みんなひらいた
けさをひらいた水仙二りん
机上水仙花
あすはお正月の一りんひらく
いちにちいちりんの水仙ひらく
おちつくまゝに水仙のひらく
陽がさせば水仙はほつかりひらき
朝日まぶしい花きるや水仙
霜晴れほのかに匂ふは水仙
暮れきらないほの白いのは水仙の花
先祖代々菩提とぶらふ水仙の花
何を食べてもにがいからだで水仙の花
水仙いちりんのお正月です
水仙一りんのつめたい水をくみあげる
水仙けさも一りんひらいた
水仙こちらむいてみんなひらいた
水仙に掃き寄せつ癖の胸はりぬ
水仙ひらかうとするしづけさにをる
水仙ほのかな障子のうちの照り曇り
水仙ほのと藪凪げる真昼歩く鳥
梅水仙王一亭(おういつてい)の応接間
破蕉龍(はしようりゆう)を失して水仙玉をはらめり
三汀の墓は質素や水仙花
日についでめぐれる月や水仙花
繪の如き黄色き日あり水仙花
水仙に春待つ心定まりぬ
水仙の一花心のまゝにいけ
水仙や母のかたみの鼓箱
水仙や表紙とれたる古言海(こげんかい)
水仙を生け終へ軸を掛け終へて
水仙を剪りたる日よりみぞれけり
水仙を剪りに書堂を下りけり
水仙を捨て寒菊に替へんとす
水仙を尚誰れ彼れのもたらせし
獺祭書屋
古書幾巻水仙もなし床の上
移居十首ののうち
軸の前支那水仙の鉢(はち)もなし
蛸壺に水仙を活けおほせたり
仏壇に水仙活けし冬至哉
唐筆の安きを売るや水仙花
草 庵
春寒き寒暖計や水仙花
筆洗(ひつせん)の水こぼしけり水仙花
古寺や大日如来(だいにちによらい)水仙花
水仙に狐(きつね)あそぶや宵月夜(よひづきよ)
水仙や寒き都のこゝかしこ
水仙や花やが宿の持仏堂
水仙や美人かうべをいたむらし
水仙や鵙(もず)の草ぐき花咲(さき)ぬ
宗任(むねとう)に水仙見せよ神無月