響庵通信:JAZZとサムシング

大きな好奇心と、わずかな観察力から、楽しいジャズを紹介します

【あ】で始まる気になる映画

2014-02-03 | 音楽

アルファベットは「A」から始まる。
「A」はローマ字入力のとき「あ」に変換される。
「あ」も五十音最初の文字である。
「あ」で始まる気になる映画がある…

【或る殺人】
1959年:米/コロムビア (モノクロ 160mins)
    劇場公開59年
    監督・製作:オットー・プレミンジャー
    原作:ロバート・トレイバー
    音楽:デューク・エリントン
    タイトル・デザイン:ソール・バス
    出演:ジェームズ・スチュアートリー・レミック

サスペンス小説「Anatomy of A Murder」(殺人の解剖学)の映画化。
ミステリー、サスペンスは筋書きが解ってしまうと元も子も無くすので、
ごく大雑把に…
“元地方検事で、仕事よりジャズと釣りが好きな弁護士(ジェームズ・スチュアート)が、
妻(リー・レミック)を〈レイプした男をピストルで射殺した夫の陸軍中尉〉を、
弁護する。
強姦か不倫か? 終身刑か無罪か?
証拠・証言を揃えた因縁の検事(ジョージ・C・スコット)と、
状況不利な弁護士の応酬…”
という傑作「法廷劇」である。

わが国で始まったばかりの(平成21年)裁判員制度に無関心ではいられない。
陪審員の適格な選任、弁護士・検事・裁判官がそれぞれの立場で陪審員に慎重であること、など啓発される。

デューク・エリントンが、
初めて映画のスコアを書き、サウンドトラックを担当した。
彼自身も演奏シーンに登場し、二言三言だけれどセリフもある。
エリントンは生涯に1000曲以上の作品を残したと云われているが、
調べてみると【A】で始まるタイトルだけで、61曲もあって驚いた。
「Anatomy of A Murder」もその1曲だけれど、
まったく知られていない。
そもそも(というほど物知りではない)映画自体、眼に止まらなかった。
59年といえば、『南太平洋/バリ・ハイ』『大運河/ゴールデン・ストライカー』などの映画がヒットした。
その前後でも『死刑台のエレベーター/カララの殺人~』(58年)、
『戦場にかける橋/クワイ河マーチ』『道/ジェルソミーナ』(57年)、
『黒いオルフェ/カーニバルの朝』(60年)、『危険な関係/危険な関係のブルース』(61年)などの映画音楽が流行している。
  注:『***/その映画の主題歌曲をさす』

切断された形代(かたしろ=紙の人形)デザインのクレジットタイトルをバックに、
「或る殺人」のメインテーマが、これから起ころうとする〈期待〉を、
波紋状に…高く…低く…大きく…拡げる。
3分前後のBGMながら、どの曲にもピアノ、トランペット、サックス、ベースなどのソロがフューチャーされ、ジャズ・ファンには嬉しいエリントン・オーケストラによる「組曲:或る殺人」になった。
劇中、エリントンがパイ・アイという役名で演奏する場面がある。
♪「ハッピー・アナトミー」~「モア・ブルース」(デューク・エリントン作曲)
ご愛嬌にスチュアートが連弾している。
左から、ジェームス・ジョンソン(ds)ジミー・ウッド(b)レイ・ナンス(tp)ジミー・ハミルトン(ts)、デユーク・エリントン(p)のクインテット演奏だ。

ラスト・シーンも「或る殺人」のテーマで締める…あらあら、
なんという…〈オチ〉に。

「或る殺人」のテーマで、ペギー・リーが「アイム・ゴナ・ゴー・フィッシン」(釣りに行く)の歌詞をつけて翌年(1960)キャピトル・レコードに録音した。
〈魚釣りにたとえて男を求める〉女心の内容で、映画の主題歌では、ないようだ。

エリントンが書いた映画音楽がもう1本ある。
【パリの旅愁】(原題:Paris Blues)
1961年:米/ダイアン・プロ (モノクロ 98mins)     
    劇場公開62年
    監督:マーチン・リット
    原作:ハロルド・フレンダー
    音楽:デューク・エリントン
        ルイ・アームストロング
    出演:ポール・ニューマン、シドニー・ポアチェ

パリで人気のジャズ・プレーヤー、
ラム・ボーエン(ポール・ニューマン)、
エディ・コック(シドニー・ポアチェ)と、
アメリカから2週間のバカンスを楽しみにやって来た、
白人女性リリアン・コーニング(ジョアン・ウッドワード)、
黒人女性コニー・ランプソン(ダイアン・キャロル)のラブ・ロマンス。

駅でナンパされた二人が、ラムとエディのライブを聴きにクラブに行き、
店が〈はねた〉後、自然に白人、黒人同士のカップルになる。
ラムとリリアンは夜を共にし、エディとコニーは朝まで語り通し…
互いに切れない仲に深まる。
ラムは「パリ・ブルース」の作曲を完成させたいので、
リリアンとアバンチュールどころではない。
リリアンは元々ラムのファンだったのでアメリカで一緒の生活がしたい。
コニーはアメリカで子を沢山持つ結婚を望み、
エディは人種差別を嫌いパリに住むことを主張。
大望と純愛、エスケープかアイデンティティーか?
「パリ・ブルース」スコアの結末は?
2日残して4人の選択は?

♪「A列車で行こう」(ビリー・ストレイホーン作曲)
トロンボーンを吹くポール・ニューマン(ラム・ボーエン役:吹き替えは映画『グレン・ミラー物語』で主演したジェームズ・スチュアートをゴースト演奏したマレイ・マクエッカン)のイントロ、
バルバラ・ラージェ(フランス人女優)のスキャット、
ギターを抱えたセルジュ・レジアニ(ジプシー役:イタリア出身フランスでシャンソン歌手・俳優)の顔も交じって、シドニー・ポアチェ(エディ役のテナーサックス奏者:吹き替えはポール・ゴンザルベス)と、
熱狂の客男女のオープニング。
デューク・エリントン・バンド・テーマで、お出迎えだ。
♪「ワイルド・マン・ムーア」(デューク・エリントン作曲)
ルイ・アームストロング(ワイルド・マン・ムーア役)が駅で歓迎に応えて演奏する。
(エリントン指揮するフランス・ビッグ・バンドにルイが後からオーバーダビングしたらしい)
♪「ムード・インディゴ」(エリントン、バーニー・ビガード作曲)
フランス人現役を含むセクステット。
クラブで演奏するラムのメランコリーなアピールに陶酔するリリアン。
♪「バード・ジャングル」(D・エリントン作曲)
焦燥と高揚…なんとなく不安な曲想。
麻薬を常用するギター奏者ジプシーを、ラムが、ペットの鳥を売買する市場に連れ出す。
片隅で老人が覚束なくギターを弾いている。
昔はフラメンコ・ギターの名手で今は売人に落ちぶれたファウスト・ムアを見せて、辞めさせようとする…
♪「パリ・ステアーズ」(D・エリントン作曲)
ラム=リリアン組とエディ=コニー組のパリ散策が始まり、常套的な名所めぐりが、まったく嫌味にならないエリントン・オーケストラ・アンサンブル。
とくに人種差別について深刻なエディ、コニーのシーンでは、♪「パリ・ブルース」が淡く流れている。
(ブルースが黒人問題の隠れた主題のように思えた)
♪「バトル・ロイヤル」(D・エリントン作曲)
{クラブ33}にムーア・バンドが演奏しながら参入する。
拍手、拍手で迎える満員の客。
「準備は?(ムーア)」「オーケイだ(ラム)」
ルイ・アームストロング(実写)のトランペットと、
エリントン・オーケストラ(アフレコ)のソロ回し…この映画のクライマックス。
ブリッジで♪「ギター・アモール」(D・エリントン作曲)をジプシーが演奏する。
  注:ジプシー(セルジュ・レジアニ)の演奏は、
    ジミー・ガーリー(パリで活躍中のアメリカ人ギタリスト)が代役。
    また、レジアニは実生活でもアルコール依存症に苦しんでいて、
    劇中の麻薬常用者の演技は迫真。
♪「パリ・ブルース」(D・エリントン作曲)
エディとコニーのデートに2度挿入されたトロンボーンとリード楽器の主題は、
打楽器とコラボレートして…ラムとリリアンの心情を暗示し…終章を飾る。

残念ながら『パリの旅愁』では、エリントンの実写シーンはない。
アームストロングとエリントンの共演シーンも見当たらない。

『或る殺人』、『パリの旅愁』にはサントラ盤がある。

                 
  『或る殺人』               『パリの旅愁』
『或る殺人』のサントラ盤について、
1959年5月29日と6月1/2日にロサンゼルスで38曲 (別テイクを含む)録音されている。
#1の「メインタイトル&或る殺人」から#13までがオリジナルLPに収録されたもの。
#14&#24の「或る殺人」はシングル盤で発表されていた。
#15~#23までの未発表曲をボーナス・トラックとして加えた全25曲が、
現行のCD〈EU輸入盤〉『或る殺人』である。
サウンドトラックのため3分前後の演奏だが、一品料理の食べ放題。
#25「グランド・フィナーレ」はCDの14%を占める長尺、
リハーサル、インタビュー、ミュージックなど、
マエストロ・エリントンの生の声が聞ける。

『パリの旅愁』のサントラ盤について、
現在入手可能CD〈EU輸入盤〉全26曲構成のうち、
#1から#14までが『パリの旅愁』
エリントン・オーケストラは1961年5月2/3日、ニューヨークで7曲、
アームストロング演奏の2曲は、1960年12月14日、パリで録音。

「ギター・アモール」も同日、パリで録音されている…だが…★☆★☆★
『或る殺人』オリジナルLP相当分が(#15~29)追録されて、
《一挙両得》という驚き盤。
なお、#2.5.11&13は映画の中のオリジナル会話である。
#2「ユー・ノウ・サムシング」…知り合って直ぐライブに行くのは安っぽくみられる、とコニーがリリアンに言う。
「でも私は、お安くってもいいわ(リリアン)」
#5「ホワッツ・パリブルース?」…一夜を過ごしたリリアンが、書きかけの楽譜をみてラムに訊く、
「作曲もするの?」「音楽は生活そのものだ、あとのことは添え物」とラム。
#11「アイ・ワズント・ショッピング」…恋のしがらみを避けるラムは、
「おれは非売品だ」(一人の女に拘束されたくないので)
「買い物じゃないわ」と怒って帰るリリアン。
#13「ア・リターン・リザベーション」…エディがアメリカに戻る意思がないので、旅行の予定を切り上げ、飛行機の予約をするコニー。
「あいつらのせいで逃げ帰るの?」と不満ながらリリアンも同意する。
      日本語字幕(鈴木吉昭)参照

『FIRST TIME』(CBS・ソニー)というCDがある。

                                        Rec.1961.7.6  NY CBS Studio

デューク・エリントンとカウント・ベイシーの2大オーケストラが合同演奏するという、
最初で最後のアンビリーバブル企画。

1曲目「バトル・ロイヤル」…ベース(アーロン・ベル:DE=デューク・エリントン・メンバー)のカウントで右エリントンの重厚な仕掛け、左ベイシーの軽妙な受け、
tp→ts→bs→cl→tbの連続バトル。
エンディングはサム・ウッドヤード(DE) & ソニー・ペイン(CB=カウント・ベイシー・メンバー)のドラム頂上決戦だ。
♪2「トゥ・ユー」
3曲目「A列車で行こう」…ベイシーが休んで作曲者ビリー・ストレイホーン(DE)が座り、
エリントンと息の合ったピアノが弾む。
A.ベルが30人をまとめて牽引。
♪4「あなたに逢うまで」
5曲目「ワイルド・マン」が収録されて、これはもう、プレミア『パリの旅愁』というものだ。
速いテンポのラテン・リズムから次々繰り出すローレンス・ブラウン(tb)、ジョニー・ホッジス(as)、キャット・アンダーソン(tp)、ポール・ゴンザルベス(ts)のソロは、ベイシー側よりワイルドだったかな。
♪6「セグエ・イン・C」
♪7「B.D.B.」…B(ビル・C・ベイシー)D(デューク)B(ビリー・ストレイトホーン)のイニシアル。
8曲目、エリントン隠し味の効いたベイシーお家芸「ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド」で閉じる。
フランク・フォスター(CB) vs ポール・ゴンザルベス(DE)はブロウの重ね合い。
今度は、エリントン側のベース、ドラムスが退き、
エディ・ジョーンズとソニー・ペインで守る。
ジャンボ・オーケストラになってもフレディ・グリーン(g)の存在は大きく、3分13秒は短すぎる。

映画に登場したジャズ・ミュージシャンといえば、
アームストロングとエリントンが〈だんトツ〉だが、
同時に出演したのは、一度しかない・

【キャビン・イン・ザ・スカイ】
1943年:米/MGM  (モノクロ 99mins)
劇場未公開 DVDあり                          
    監督:ビンセント・ミネリ
    脚本:ジョセフ・シュランク
    音楽:バーノン・デューク作曲、
        ジョン・ラトゥーシュ作詞
    出演:エセル・ウオーターズ、リナ・ホーン
        エディ・ロチェスター・アンダーソン
        ルイ・アームストロングデューク・エリントン       

     注:DVDなどレナという表記が多いけれどここではリナとした

1940年初演ブロードウェイ・ミュージカル『天の安息所』(キャビン・イン・ザ・スカイ)の映画化。
南部の黒人の生活を描いた寓話で、主役のペチュニア(エセル・ウオーターズ)、悪魔の息子ルシファー・ジュニア(レックス・イングラム)は映画化にあたっても舞台と同じ役を演じている。
ビンセント・ミネリ監督は、1940年にMGMに入社するとガーシュウィン兄弟のミュージカル映画『ストライク・アップ・ザ・バンド』(バンドを打ち鳴らせ)のミュージカル場面を演出、『キャビン・イン・ザ・スカイ』全編を監督した。
51年には名作『パリのアメリカ人』、以後、『バンド・ワゴン』(53年)、『ブリガドーン』(54年)、恋の手ほどき』(58年)、『いそしぎ』(65年)、『晴れた日に永遠が見える』(69年)などなどミュージカル映画の傑作を残している。

“賭博とギャンブルから足を洗えないリトル・ジョー(俳優:エディ・ロチェスター・アンダーソン)が、顔役ドミノ(ジョン・ウイリアム・サブレット)に撃たれ重傷。
ジョーの魂をどっちに属させるか、悪魔の使いと神の国の将軍が争う。
信仰深く献身的なジョーの妻ペチュニア(女優:エセル・ウオーターズ)の祈りが通じ、6か月の猶予で夫が改心すれば天国に入れてもらえることになる。
悪魔の使いルシファー・ジュニア(レックス・イングラム)は、夫を堕落させるためセクシー女ジョージア・ブラウン(リナ・ホーン)に誘惑させる。
将軍ジェネラル(ケネス・スペンサー)は防ぎようがない…”

1943年(昭和18年)は第二次世界大戦中である。
日本が旗色悪くなって娯楽どころじゃなかった時代に、
オール黒人のファンタジー・ミュージカル映画を製作する余裕があった。
下線の5人と、ホール・ジョンソン聖歌隊の〈挿入歌〉から鑑賞してみよう。

●ホール・ジョンソン聖歌隊
バイオリン、ビオラ奏者・作編曲家・作家のフランシス・ホール・ジョンソンが、1925年9月に、ホール・ジョンソン黒人聖歌隊を設立した。
ラジオで人気を博し、20本以上のハリウッド映画に出演している。
しかし、
『懐かしのスワニー/1939年フォックス』(アメリカ民謡の父と呼ばれたスティーブン・フォスターの伝記映画)、
『群集/41年ワーナー』(アカデミー監督賞を3回も獲得したフランク・キャブラ製作・監督)、
『運命の饗宴/42年フォックス』(『舞踏会の手帖』『巴里の空の下セーヌは流れる』などのジュリアン・デュビビェ監督作品)以外、
日本公開は、ない。
物語は、教会の礼拝から始まる。
♪「リル・ブラック・シープ」(ハロルド・アーレン曲:E.Y.ハーバーグ詞)…
聖歌隊のコーラスに数人の男性が歌い継いで最後に、エセル・ウオーターが捧げる。
♪「オールド・シップ・オブ・シオン」(黒人霊歌)…
〈懺悔〉のシーン、ケネス・スペンサー(牧師と神の国の将軍の二役)のバリトンとコーラス。
♪「キャビン・イン・ザ・スカイ」(バーノン・デューク曲:ジョン・ラトゥーシュ詞)…
太い樹の下でエセルとエディ・アンダーソンが歌い、二人を囲む聖歌隊のコーラス。
そのほか、クライマックス・シーン♪「シャイン」のバック・コーラスにも登場する。
●エセル・ウオーターズ(1896.10.31-77.9.1)
5歳のとき教会歌手、17歳でハーレムのリンカーン劇場のスターになる。
30年~50年代にかけ11本の映画出演があり、73年にグラミー賞《名声の殿堂》を受賞。
♪「ハピネス・イズ・ア・ジャスト・シング・コールド・ジョー」(アーレン、ロジャー・イーデンス曲:ハーバーグ詞)…
瀕死状態の夫が息をふきかえし、神のご加護に感謝して、ベッド際で唄う。
後に、夫が浮気したと誤解し、ロッキング・チェアに坐って泣きながら再び唄う。
♪「テイキング・ア・チャンス・オン・ラブ」(バーノン、テッド・フェッター曲:ラトゥーシュ詞)…
誕生日にサプライズ・プレゼントされ、嬉しくって唄いだす。
ファヤード・ニコラスのタップ・ダンス、夫の感情豊かな踊りも、素晴らしい。
ファヤード・ニコラスは、『キャビン・イン・ザ・スカイ』と同年に製作されたリナ・ホーンの出世作『ストーミー・ウエザー』で驚異的なタップ・ダンスを演じたニコラス兄弟の兄である。
♪「ハニー・イン・ザ・ハニーコム」(バーノン曲:ラトゥーシュ詞)…
終盤に、敬虔なイメージを捨て華麗に変身した妻の啖呵、唄、奔放な踊り。
●エディ・ロチェスター・アンダーソン(1905.9.17-77.2.28)
子供のころ大声で新聞売りをして、そのため〈かすれ声〉になった。
その独特な声で、歌と踊りで、エセルと同じ年代に映画界で活躍した黒人先駆者。
「キャンピン・イン・ザ・スカイ」「テイキング・ア・チャンス・オン・ラブ」を歌うほか、
♪「ライフ・フル・オブ・コンシクェンス」(アーレン、イーデンス曲:ハーバーグ詞)…
ハンモックで〈くつろいでいる〉とき、
悪魔の指示で来たリナ・ホーンとデュエット。
●リナ・ホーン(1917.6.30-2010.5.9)
コットン・クラブでスカウトされ、オーディションでミネリと逢った。
映画界入りをしたが黒人に与えられる決まった役は嫌いだった。
ハリウッドを去りブロードウェイで活躍。
数々のグラミー賞を得ている。
♪「ライフ・フル・オブ・コンシクェンス」のシーンでは、
ハリウッドで最初のセックスシンボル黒人女性(白人の父、黒人の母)の誘惑ぶりが、見どころの一つ。
本編で、リナが入浴シーンで唄う♪「エイント・イット・ザ・トゥルース」は、鋏を入れられている。
余計なお節介だが、DVDでおまけに追録されている。
しかし、テレビドラマ『水戸黄門』シリーズの〈あの〉程度だった。
エリントン出演の『天国』で鉢合わせた彼女と本妻の、
♪「ハニー・イン・ザ・ハニーコム」(蜂の巣の中の蜜)対決。
●ジョン・ウイリアムス・サブレット(1902.2.19-86.5.18)
ボードビル・パフォーマー、ダンサー、歌手でテレビ史初の黒人アーティスト。
リズム・タップの父と呼ばれ、マイケル・ジャクソンも彼の8小節フレーズを研究した。
♪「シャイン」(セシル・マック曲:フォード・ダブニー、リュー・ブラウン詞)…
裏社会の顔役ジョンは『天国』で女達にせがまれ、表情たっぷりに歌い、ステッキをバトンのように操るタップ・ダンス…手拍子をもらい…得意芸を見せる。

物語の発端になった『天国』で、波乱の結末を迎える…
《一夜限り出演:デューク・エリントン・バンド》
店前に行列ができ、男女がリンディ・ホップ・ダンスを踊っている。
ドアの内から聴こえてきたのは、
♪「シングス・エイント・ホワット・ゼイ・ユーズド・トゥ・ビー」(マーサー・エリントン曲:テッド・パーソンズ詞)…「昔はよかったね(邦題)」で知られるこの映画の主題曲だ。
15秒ほどテーマだけのサウンド、
エリントンの姿は、まだである。
♪「ゴーイング・アップ」(D.エリントン作曲)…
オールバックで白のタキシードスーツ、
いつもどおり〈はんみ〉に構えカメラ目線のクールなエリントン。
店内は満員、ペアで踊るアクロバチックなダンス。
ミディアム・ショットのローレンス・ブラウンが挑戦するように右手をスライドさせる。
  *ジャズ・クラブ・シーンではトロンボーンが〈画〉になる。
♪「シャイン」を踊る顔役の後ろで、微笑しながら指揮をするエリントン。

ところで、ルイ・アームストロングは、何処(いずこ)に。

安直に無頼に暮らすか、勤勉で信仰で生きるか。
地獄に陥れたい悪魔、善人として引き上げたい将軍。
悪魔は頭に角があり〈黒〉の軍服、
将軍は〈白〉い正装服。
悪魔たちは、夫を堕落させようと作戦会議を開く。
  *エリントンが出演しているジム・ヘンリーの店『天国』
   悪魔の会議室は『地獄ホテル・アイデァ部』という設定。
やはり頭に角が生えているアームストロングが、
ピエロ姿でトランペットを鳴らしながら踊り回っている。
「騒ぎをやめろ」と悪魔の隊長ルシファー・ジュニアが怒鳴り、
手下にアイデァを出させる場面。
ディビッド・ミーカーの『ジャズ・イン・ザ・ムービー』によると、
♪「エイント・イット・ザ・トゥルース」(リナ・ホーンがカットされた同じ曲)をアームストロングも演奏したけれどプリントされなかった、という。
まさか、ワンコーラスも鳴らない(とても吹いている代物ではない)このショットが、
「エイント・イット…」とは思えない。
アームストロングが〈トランぺッター〉という役名で演奏じゃなくっても、
オーバーな道化ぶりに徹した演技をしたところに、
プロの覚悟が感じられる。

せっかくエリントン、アームストロングがクレジットされていたのに、
共演はおろか、片手落ちな演奏で、残念。

映画は、黒人に対する認識が誤っているとして南部の映画館がボイコットしたため、
興行成績はMGMの期待通りにはいかなかったようである。
しかし、主題歌の、
♪「ハピネス・イズ・ア・ジャスト・シング・コールド・ジョー(幸福なジョー)」
♪「テイキング・ア・チャンス・オン・ラブ(恋のチャンスを)」は、
ジャズのスタンダード・ナンバーになり、
特に、後者は、有名シンガーの銘唱盤(ここだけの造語)が多い。

[筆者の独り言]
ボーカルほど恣意性の強いジャンルはないので、ここでは、
フランク・シナトラが歌う「恋のチャンス」(編曲・指揮:ネルソン・リドル、1954年録音)をご推薦させていただく。

 

                                       We'll have a Happy ending now
                                               Taking a chance on love 

                       END