響庵通信:JAZZとサムシング

大きな好奇心と、わずかな観察力から、楽しいジャズを紹介します

続々気になる伝記映画

2020-05-02 | 音楽

ジェローム・カーンはマンハッタン生まれウエストチェスター歿のニューヨーカーである。
母から」ピアノを教わったカーンは高校時代に学園ミュージカルを作曲するなど早くから
音楽の素質があった。
ドイツ系ユダヤ移民の実業家で成功した父は息子がビジネスマンになることを強く望んだが、
説得に失敗し、ニューヨーク音大入学を許した。
カーンはさらに2年ほどドイツに遊学しロンドン経由でニューヨークに戻った。
しばらくの間はミュージカルのリハーサル・ピアニストや音楽出版社で
楽譜のプロモート演奏(ソング・プラッガー)をしていたが10代の終りごろにはイギリスで
作られたショーをアメリカ向きに改変を依頼されていた。
1913年ロンドンで上演されたミュージカル・コメディ『The Girl from Utah (ユタから来た娘)』に、
カーンが曲を書き加え翌年ブロードウェイで公演された。
作品は第1次世界大戦後最初にヒットしてブロードウェイ・ミュージカル全盛の先駆けになった。
新曲5曲のうち♪They Didn't Believe Me (みんな信じてくれない)は、彼のジャズスタンダード曲:第1号になっている。
1920年フローレンツ・ジーグフェルド(Florenz Ziegfeld Jr.:華麗なるミュージカル1を参照して下さい)は、
フォリーズのダンサー:マリリン・ミラーをミュージカルのスターにさせようと、
ブロードウェイで成果を上げているカーンに依頼し『Sally (サリー)』をプロデュースーした。
『サリー』は20 年代のブロードウェイ・ミュージカルとしては3番目に多い570公演を記録し、
主題歌♪Look for the Silver Lining は人気を博しスタンダード第2号となった。
1929 年に映画化(邦題『恋の花園』日本公開は昭和5年)された時も主演・唄は彼女だった。
 注:マリリン・ミラー、ジュディ・ガーランド、チェット・ベイカー3人のボーカルがYou Tubeでご覧できます
タイトルもストーリーも似たミラーのミュージカルがもう1本ある。
1925年フローレンツのライバル興業主チャールス・ディリンガムが製作した『Sunny (サニー)は、
カーンがオスカー・ハマースタインⅡと初めて仕事した作品でオトー・ハーバックも脚本・作詞に、
ダンスの振り付けにフレッド・アステアが加わり同じニュー・アムステルダム劇場で517公演を打ち上げ、
ミラーのシンデレラ物語が実った。

作曲家(m)と作詞家(w)はミュージカルの両輪だ。
カーンがミュージカルのコンプリート・スコアを書いたのは27歳半になってからである。
まだ作曲家中心で作詞家は無名に近くカーンンの片輪走行が5年ほど続く。
1910年代後半からガイ・ボルトン(『サリー』の脚本家)、P・G・ウォドハウス(イギリス人で後にアメリカに帰化
したユーモア小説家)、B・G・デシルバ(♪Look for the Silver Lining の作詞家)、
アン・コードウエル(1920年代に活躍した女性脚本家で『サリー』作詞家の一人)などの補助輪で
アービング・バーリンと競い合った。
そして、 1927年!
オスカー・ハマースタインⅡとコラボ!
最強両輪が駆動する。

ジェローム・カーンの伝記映画がある。

『雲流るるままに』(原題;Till The Clouds Roll By)
    1946年;米MGM (カラー 173mins) 日本未公開(日本語字幕DVDあり)
  監督:リチャード・ホーフ  ビンセント・ミネリ(ジュディ・ガーランド場面)
    原案:ガイ・ボルトン  作曲:ジェローム・カーン  作詞:多数
  主な出演者:ジューン・アリスン(ジェイン役)
          ルシール・ブレマー(サリー・ヘスラー役)
          ジュディ・ガーランド(マリリン・ミラー役)
          キャサリン・グレイスン(マグノリア・ホークス役)
          バン・ヘフリン(ジェイムス・ヘスラー役)
                          リナ・ホーン(ジェリー・ラバーン役)
                          バン・ジョンソン(バンドリーダー役)
                          トニー・マーティン(ゲイロード・ラベナル役)
                          ダイナ・ショア(ジュリア・サンダース役)
                          バージニア・オブライエン(エリー・マエ役)
                          ロバート・ウォーカー(ジェローム・カーン役)
                          ドロシー・パトリック(カーン妻:エバ役)
                          ハリー・ヘイドン(チャールズ・フローマン役)
                          ポール・ラングトン(オスカー・ハマースタインⅡ役)
                          ポール・マクシー(ビクター・ハーバート役)
                                    ───
                          フランク・シナトラ     シド・チャリシー
あらすじ
ブロードウェイで絶賛を浴びた『ショウ・ボート』開幕の夜、タクシーで祝賀パーティに向かうカーンの回想から映画は始まる。
若き日のカーンは編曲家ヘスラー、ちょっとおませな娘サリーと家族同様の環境で作曲に励んでいた。
やがてヘスラー一家はロンドンに移住、孤独になった彼はなかなか芽が出なかった。
ニューヨーク、ロンドンに劇場を持つ大物プロデューサー:チャールス・フローマンがロンドンに向かうのを、 追った──
ロンドンでは2つの幸運を得ることになる。
ゲイエティー劇場の舞台でブランコのアイデアをフローマンが注目し認められ、
ひょんなことから恋人エバと知り合った。
フローマン製作『ユタから来た娘』成功の後、
“あわや”の事件を免れ、次々喝采を浴び続けた。
成人しミュージカル・スターを目指すサリーの挫折そして家出、心労の父、
ヘスラー一家の不運が後半の山場。
自分を見失ったカーンが立ち直ったのは、一冊の本だった。

観どころ・聴きどころ
●ハマースタインが─これこそ─今のミュージカルを改革すると確信して置いていった、
一冊の小説をもとにした歴史的作品『ショウ・ボート』冒頭シーン…
オーケストラボックスをゆっくりパンして幕が上がった舞台。
Cotton Blossom (m:ジェローム・カーン、w:オスカー・ハマースタインⅡ)
     *以下別記なきときはカーン、ハマースタイン
  ♪さあミシシッピに行こう  さあみんで出港だ
出港準備で賑やかな大勢の男女コーラスと群舞。
Where's The Mate for Me ?
波止場でゲイロード(トニー・マーティン)が遠くを見つめるように
  ♪僕の運命の人は何処にいるかと
最初に声をかけたのはマグノリア(キャサリン・グレイスン)
  ♪もしも私があなたをあいしているとすれば…
Make Believe
  
♪もしも信じることができたならば…もしもでなく愛している (デュエットで)
トニー・マーティンは“華麗なるミュージカル4:【我が心に君深く】で触れているが、
高校時代から歌手として活躍。
ポピュラー・ソング「ストレンジャー・イン・パラダイス」では奇しくも同じ名前の
トニー・ベネットと人気を分け合っている。
30年代後半にトニー・マーティンの芸名でハリウッド映画に出演。
『Follow the Fleet (艦隊を追って)』(RKO:1936)では
フレッド・アステアとのダンスが絶賛された。
キャサリン・グレイスンは12歳からオペラ歌手を目指し
10代の終りにソプラノ歌手・女優としてMGM映画入りした。
ミッキー・ルーニー主演の『Andy Hardy's Private Serectary』(1941:未公開)で
デビューした彼女はジーン・ケリー、フランク・シナトラ、ハワード・キールなど
男性歌手と共演が多い、
彼女が活躍した40年代から50年代のMGM作品は日本未公開が多いのは残念だ。
“華麗なるミュージカル2”で紹介したフィナーレの印象が鮮烈の【ジーグフェルド・フォリーズ】は、
第2次世界大戦下の事情があったにせよ40年以上経って…1989年に」公開された。
その【ジーグフェルド・フォリーズ】で本物の白馬に跨って美しく頼もしく一点凝視に
オープニング・ナンバーを唄ったバージニア・オブライエンが、
黒白ストライプスとグリーンのコスチュームで…
Life Upon the Wicked Stage (直訳:不道徳な舞台生活)を唄う。
  ♪薄汚い舞台の人生は──女の夢ではないのよ
一途に唄ったあとの、笑みが魅力。
女優で歌手のオブライエンも1940年代MGMミュージカル映画に多数出演しているが、
ジューン・アリスン主演『姉妹と水兵』(1944:48公開)、
ジーン・ケリーの『デュバリーは貴婦人』(1943:51公開)他2本だけ。
Can't Help Lovin' Dat Man (直訳:あの人を愛するのは抑えられない)
  ♪ねえ 聞いて頂戴   私はまだ見ぬ彼を愛している
髪と右肩に藤色の飾り物を付け薄藤色ドレスのリナ・ホーンが、
映画『キャビン・イン・・ザ・スカイ』の“妖艶を純情”に上書きした好演。
6年後に、一旦
決まった映画『ショウ・ボート』の役をエバ・ガードナーに差し替えられ、
この曲を唄うことなど知る由もないだろうが、表情が潤んでいる。
16歳でコットン・クラブの舞台に立ったリナ・ホーンは、20歳のとき美人ジャズ歌手として
ミュージカル映画デビューした。
彼女も40年代から50年代中頃まで殆ど未公開だがMGM映画十数本に出演している。
特に1943 年の『キャビン・イン・ザ・スカイ』と
MGM在籍中唯一他社作品『ストーミー・ウエザー (20thFox)』
オール黒人キャストで注目さ
れた。(共に日本語字幕DVDあり)
Ol' Man River
出港前の波止場で白いハンカチを握りしめ立ったまま歌うケイレブ・ピーターソン、
  ♪あの
川の流れは  何か知っているはずなのに
  ♪何も言わない  ただ静かに流れて行く
大勢の関係者達もコーラスで、
  ♪人生にうんざりだ… 生きることには疲れるが  死ぬのは怖い
  ♪それでもあの川は流れて行くのさ (大合唱)
スタンディングオベーションのなか、幕が降りる。
ケイレブは「このシーンで知られる」のみという経歴不祥だけれども、
朴訥(ぼくとつ)な歌声は『ショウ・ボート』に、彼在りを記憶させる。
●徐々に作品と名前が知られて『ユタから来た娘』の2年後、
プリンセス劇場
3番目の『Oh,Boy !(オー、ボーイ!)』が463公演の大ヒットになった。
1幕目に用意された曲が
──これ。
Till the Clouds Roll By (w:ガイ・ボルトン&P・G・ウォドハウス)
  ♪雨が音を立てて降り出す
白、赤のレインコートを着たレイ・マクドナルド、ジューン・アリスンの相合傘デュエット、
…水溜まりをビシャ・バシャ…跳ね上がる水しぶき…平気、
大勢のカップルも…ビシャ・バシャ…手にした傘を空中に投げ…戻ってくるのを…
スモール・ブーメラン・キャッチ。
MGM自慢の雨と傘『Singin' in the Rain(雨に唄えば)』)と天秤にかけられる楽しいシーン。
レイ・マクドナルドとジューン・アリスンは続く、
カーン1910年代のミュージカルとしては平均以上の公演数になった
『Leave It to Jane (ジェインにお任せ)』から2曲

Cleopattere (何語か知らないがアルファベット列からクレオパ**と解る)
~Leave It to Jane (w:P・G・ウォドハウス)
赤白縦縞ジャケット白パンツの男性群、
水色ブラウス赤色縦縞スカートの女性群コーラスとアリスンのコールアンドレスポンス(掛け合い)。
  ♪ジェインに任せて…コーラス
  ♪どうして私ばかりに…アリスン
  ♪どんな問題でも彼女にかかれば  朝飯前よ…コーラス
いったいどうやって問題解決したのか教えて?
歴史上の有名な女性を参考にしたの
Cleopattere
  ♪昔むかしナイルのほとり  女王が住んでいました
ハスキーボイスとコミカルな振り付けのアリスン、シェエラザードを舞う。
Leave It to Jane
  ♪ジェインにお任せあれ  彼女は賢いのさ
群舞の中心で…アリスンとマクドナルドが手を組み、軽快なステップ。
マクドナルドはタップダンサーとだけで詳しいキャリアは不明だが、
ブロドウェイに4回の足跡がありその中に、驚きのミュージカルがあった。

カーン=ハマースタインのような最強コンビが
リチャード・ロジャース(m)=ロレンツ・ハート(w)である。
ハマースタインとハートは同い年、
7歳年下ロジャースの三人はニューヨーク生まれでコロムビア大学出身。
友人からロジャースを紹介されたハートは、
ミュージカル『A Lonely Romeo (1919)』で一緒にブロードウェイ・デビューした。
初めは楽曲提供だったが、
3作目『Garrick Gaieties (1925)』から二人の
ショーがスタートした。
幸先よく「Manhattan」「Mountain Greenery」がスタンダード曲になった。
以来ハートが48歳で亡くなるまで最長チームが続いた…で、
話は元にもどる。
その18年間には数々の公演で数々のスタンダード曲も生まれていたが、
1作品中最も多くの名曲を残した1937年の『Babes in Arms (抱かれたベイビー)』に
マクドナルドの名があった。
1941年からジュディ・ガーランド、ジューン・アリスンのMGM映画に数本共演していたり
するものの日本公開は僅か。
  注:未公開主演映画の『Born To Sing』で流麗なタップダンスがYou Tubeでご覧できます
     (Virginia Welder and Ray McDonald at 2A.M.) 
●一躍有名になったマリリン・ミラーを演じるジュディ・ガーランドが、
先ずは裏通りのホテルで皿洗い係:サリー、
膨大な食器類、吊り下げられた鍋、鍋、鍋、フライパン、フライパン
腕をまくり上げせっせと仕事、
いつかはバレリーナとして
有名になりたい、
Look for the Silver Lining (w:バディ・デ・シルバ)
  ♪希望の光を探すのよ
この映画の一番地味な演出、ガーランドのひたむきさが…光明だ
次はサーカスのスター、
疾走する
白馬に立って(スタントマンだろうけれど凄い)サークルを回るサニー、
象の曲芸などを挟み、
恋におちたサニーが黄色のドレス、黄色のスカーフを持ち礼装の男性コーラスを従え、
Who ? (w:オトー・ハーバック&ハマースタイン)
  ♪誰が私の心を盗んだの?
シンプルなセットを絢爛に魅せる声量豊か、あでやか、かつ、アップテンポに、唄い…踊る。
●フィナーレ
指揮者がタクトを振り下ろす。
ラベンダー色いっしょくの背景に白づくめの…オーケストラ団員、踊り子、男女コーラス、
「オール・マン・リバー」が静かに流れる。
アップリケ風のプログラム・カードでカーン珠玉のスタンダード曲、 さあ進行!
Yesterdays (w:オトー・ハーバック)
  MGM 混成コーラス
Long Ago (w:アイラ・ガーシュウィン)
  キャサリン・グレイスン
A Fine Romance (w:ドロシー・フィールズ)
  バージニア・オブライエン
All the Things You Are
  トニー・マーティン
トニー・マーティンは、『我が心に君深く』の【恋人よ我に帰れ】もそうだが、
“おいしいところ”が似合うかも。
All the Things You Are は、
カーン=ハマースタイン・コンビ最後のミュージカル
『Very Warm for May (1939)』 の主題曲…で、
英文サイト:JazzStandards.com によるジャズスタンダード・ランキング…第2位!
因みに「イエスタデイズ」もベスト10ちゅう第9位。
五大ミュージカル作曲家ではジョージ・ガーシュウィン:「サマータイム」(3位)、
リチャード・ロジャース:「マイ・ファニー・バレンタイン」(6位)、
コール・ポーター:「恋とは何でしょう」(8位)
 
Why Was I Born ?
   リナ・ホーン

          〈おおとり〉は〈やっぱり〉
白い花飾りをなびかせ白いドレスのダンサー達が、ぐるっと回る、
白いティンパニーを白いマレットで、ド・ド・ド・・・・
白い多角形台にせり上がる白い靴、白いパンツ、白いヘチマ襟のスーツ…
Ol' Man River
  ♪川の流れは   あの川の流れは
30代になったばかり若き…フランク・シナトラ
  ♪なにか知っているはずなのに   なにも言わずに流れ行く
 〈筆者の独り言〉
今の今まで「オール・マン・リバー・」は黒人男性に限ると決めつけていた。
ごめんよ シナトラさん、いつものクルーナーじゃあない、真情吐露!
  ♪それでもあの川の流れは  ただ静かに
          …両手を左右に広げて絶唱…
                ♪流れ行く

      雲をバックに全体が、天空の舞台のようになり
                ENDマーク

                (♪は 日本語字幕:飯田ひろみ から引用)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 





 

すとーみー