響庵通信:JAZZとサムシング

大きな好奇心と、わずかな観察力から、楽しいジャズを紹介します

続:気になる伝記映画

2016-04-03 | 音楽

マイティ・ファイブ(mighty five)と称せられるソングライターがいる。
 リチャード・ロジャース(詞:ロレンツ・ハート、オスカー・ハマースタインⅡ)
 ジョージ・ガーシュイン(詞:アイラ・ガーシュイン)
 コール・ポーター(作詞作曲)
 アービング・バーリン(作詞作曲)
 ジェローム・カーン(詞:オスカー・ハマースタインⅡ、オットー・ハーバック etc.)
5大作曲家のなかで、正編・続編(?)ともみられる稀な伝記映画がある。
別の制作会社・年度・スタッフ&キャストが撮った、コール・ポーターだ。

 【夜も昼も】 (原題:Night and Day)  
    1946年:米ワーナー・ブラザース (カラー 128mins)        
    劇場公開:51年

    監督:マイケル・カーティス
       音楽:コール・ポーター
       音楽監督:レオ・F・フォーズスタイン

        主な出演者
    ケーリー・グラント(コール・ポーター役)
    アレキシス・スミス(ポーター夫人リンダ役)
        モンティ・ウーリー(本人:教授役)
    ジニー・シムズ(キャロル役)
    ジェーン・ワイマン(グレイシー役)
    カルロス・ラミレス(本人:歌手)
    メアリー・マーティン(本人:歌手)
解説:
[アメリカの音楽家コール・ポータの半生をつづった伝記的映画。
作曲家を夢見ていた青年が、戦争に巻き込まれながらも音楽を捨てず、
やがてミュージカル作曲家として大成する。物語は、音楽家としての歩みと、彼の妻とのロマンスを絡めて描く] (allcinama)
映画データーベースallcinamaを引用したのは、伝記映画が記録や事実に基ずくものではなく、創作や脚色を交えるので、伝記的と的を射た叙述に共感したので…
映画を彩るエピソードを拾ってみよう。

●エール、エリート、エール
1915年、エール大学キャンパスでフットボール応援歌コンテスト。
マスコットのブルドッグ・ダンを先頭に、
胸に白字でYをデザインしたコバルトブルーのセーターに白パンツ、
ポーター率いるグリークラブが登場。
“ブルドッグはほえるんだ/ワオ、ワオ/エール大学の為に…”
エール大学在学中にポーターが作曲したファイトソング♪ブルドッグ、ブルドッグ
〈このシーン前後を詳しく見る…法学部
教授モンティ・ウーリーはフットボールの応援に夢中。
「ハーバードとかいう大学の学生に聴かせたい」と熱弁〉
 
Yは、エール大学正式名イエール(Yale)のイニシアル。
アイビーリーグのハーバード大とエール大は伝統的ライバル関係で、
The Gameと呼ばれているアメフトは世界三大学生競技として人気がある。
参考:世界三大学生競技は、
  ハーバード大対エール大のフットボール

  ケンブリッジ大対オックスフォード大のボートレース
  早大対慶大の野球

エール大学出身者クラブでショーの資金を募るウーリー&ポーター。
リスクが少ない不動産や債券しか出資をしないと渋る資産家に、ウーリーが、
「…これは芸術だ、彼はエールの学生です」
「なら話は別だ」

エール(応援)で始まった映画~エリート(学閥)、締めはエール(大学)。
同窓生たちは、「最後の演
奏にならないか心配だ」
翌日難しい手術のポーターを激励するコンサートを大学の講堂で開催。
2本の杖を突きステージにあがるポーター、拍手、拍手。

●ナイト・アンド・ディ・ファンタジー
ゴージャスな部屋、アンティーク柱時計、外は雨。
“内なる声が僕に語りかける~君…そう君なのだ”
♪As a voice within me keeps repeating …
               you you you
第1次世界大戦、曲想を練っていたポーター中尉が襲撃を受け脚を怪我する。
奇しくも野戦病院で看護師になっていたリンダと再会した。
前途に自信を失うポーターを作曲で立ち直らせようと、ピアノを用意する。
「ナイト・アンド・ディ」作曲のシーンだが、脚色が見事だ。
バースをそのまま【画】にしている。
♪Like the beat beat beat of the Tom Tom/
 映像:野営休憩中にモンゴル出の兵士がトムトムを叩き歌っている。
♪Like the tidk tick tick of the Stately clock/
映像:大きな柱時計がチクタクチクタク、10時にボーンボーン…
♪Like the drip drip drip of the raindrop/
映像:窓ガラスを打つ雨粒。

●煙が身にしみる
ポーター最初のブローウェイ・ミュージカルは、
『まずアメリカを見よ(See America First)』だ。 
初日、幕が上がる、
♪ユー・ドゥ・サムシング・トゥー・ミー
“君といると幸せな気分になる~” 男女大勢の出演者が合唱。
ピンクのドレス:グレイシーが男性ダンサーとアクロバチックにタップを踊る。
と、突然!
数人の男が劇場に走って入り客に耳打ち、
観客が一人・二人と立ち、三人・四人退場する。
「何があったんだ」
街頭では大勢の通行人が号外を取り合っている。
             〔ルシタニア号 撃沈される〕
公演は中止。
「珍しい話だ、オープニングと最終日が同じだなんて」
ポータが無人の客席を振り返って慨嘆。
祝賀会の予定だったレストランに向かう途中、
リンダが高級シガレットケースをプレゼント。
「字が彫ってあるから返品できないわ」
ケースの裏に銘、
   《「まずアメリカを見よ」 その記念に リンダ》
*ルシタニア号事件:
 第1次世界大戦中、イギリス豪華客船ルシタニア号が航行中、
 1915年5月7日ドイツの潜水艦によってアイルランド沖で無警告撃沈され、
 1198人が犠牲になりそのうち128名はアメリカ人で有名人も含まれていた。
 まだ参戦していなかったアメリカで世論が開戦に傾くきっかけになった。
*映画『夜も昼も』のプロットで、事件のせいで初日と千秋楽が同じ日に描かれているけれど、
 ミュージカル『まずアメリカを見よ』の初演は、1916年
 だが2週間で打ち切られているので、成功作ではなかったのは事実。

 2個目は、
リンダがフランスの興行主に有利な条件でプレゼンテーション。
旧知の歌手が唄ってくれたが、客の反応はイマイチ。
「君の詞は難しくて洗練され過ぎてる…アメリカでなら、きっと」断られる。
リンダの出資がバレ、感謝はするがお節介「自分の力でやるよ」とコール。
「力になれないなら、(恋は)終わったみたいね」
別れ際に「受けとって」と新しいシガレットケース。
「字はいらなかったわね」…刻まれたのは
   《愛をこめて リンダ》
*ここで唄われた曲が…微妙,
ポーター最初のブロードウェイ・ヒット『5千万人のフランス人』から
♪アイム・アンラッキー・アト・ギャンブリング(ついてないギャンブル)」

3個目にまつわるシーンもある。
いずれもリンダの心情を無言で語る必須のアクセサリーになった。

ブロードウェイの寵児となりハリウッドに進出したポーターの名曲が続く。
19曲目の♪マイ・ハート・ビロングス・トゥ・ダディは、
『私に任せて(Leave It to Me)』の稽古シーンで、
コーラスガールの中から抜擢したメアリー・マーチンが唄っている。
*メアリー・マーチン:ミュージカルの女王。
実際に1938年のミュージカル『リーブ・イット・トゥ・ミー』で鮮烈デビューした。
ロジャース&ハマースタイン2世の『南太平洋』『サウンド・オブ・ミュージック』ほかに主演している。
なおミュージカル・スター:ジーン・ケリーのブロードウェイ初舞台も『リーブ・イット・トゥ・ミー』だった。

20曲目の♪ビギン・ザ・ビギンも5分を超える絢爛シーン。
農夫姿のカルロスが歌う甘い旋律、
氷上を滑るように踊るゾーリッチ(男性)とムラトバ(女性)。

*カルロス・ラミレス:コロンビア出身テノール歌手。
『姉妹と水兵』『世紀の女王』『錨を上げて』などのミュージカル映画に出演。

乗馬中、事故にあって重傷を負う~療養中も作曲を続ける~
難しい手術を受ける前日のエール大学講堂のフィナーレ!
           リンダは!!!、
                   ◇◇◇

【五線譜のラブレター】 (原題:De-Lovely)
      2004年:米MGM(カラー 125mins)
      劇場公開:2004年

     監督:アーウィン・ウィンクラー
  音楽:コール・ポーター

  主な出演者
  ケビン・クライン(コール・ポーター役)
  アシュレイ・ジャッド(妻リンダ役)
  ジョナサン・プレイス(演出家ガブリエル役)
  ケビン・マクナリー(ジェラルド・マーフィ役)
  サンドラ・ネルソン(サラ・マーフィ役)
  アラン・コーデュナー(モンティ・ウーリー役)
  ピーター・ポリカープ(ルイス・B・メイヤー役)
  キース・アレン(アービング・バーリン役)

解説:
[数々の名作ミュージカルや映画音楽を手掛けた偉大な作曲家コール・ポーターと彼の妻リンダとの不滅の愛を描いたミュージカル・ラブ・ストーリー…] (allcinema)
またallcinemaを引き合いにしたが、
これは続編というより『夜も昼も』で触れていない、両性愛のポーターとそれを認めて結婚したリンダを描いた別伝メロドラマ(音楽と物語という意味の)である。
ちかごろ関心たかまる《LGBT》を理解できる作品であるかもしれない。
年老いたポーターと演出家が回想を軸にして過去と現実が交差する複雑な展開、脚本の妙か日本字幕の巧みさか気の利いたセリフ、監督の悪戯心を解く面白さ…
ポーター・フィルモグラフィーで断トツ最多28曲で構成され、
セリフの中で「歌は下手」と云いながらポーター役:クラインが独唱・合唱15曲も歌い、
ダイアナ・クラールなど本名で出演の歌手が大勢登場する。
最後に信じられない歌声…

●アービング・バーリンとの交友
ベニスにいるポーターをバーリン夫妻が訪れる。
リンダがスランプの夫のために呼び寄せたのだ。
鍵盤を拾い歌詞をつけているポーター、
「迷惑かな」バーリンが声をかける、
「アメリカきっての作曲家が来訪とは、嬉しいな」
「初めて生で聞けたよ、完成したら聴きたい」
スタンダード・ランキングNo.8 
♪What is This Called Love  誕生。
バースからポーターの弾き語り、ワン・
コーラス のあとツー・コーラス目からレマーが歌う、最初の観どころ。
*レマー(男性):本人出演だがロンドン生まれの歌手以上は不明。

ポーターのもとにバーリンから電報がきて、ニューヨークに来るよう推薦。
「自信がない」というポーター、「あなたならできる」リンダ。
ミュージカル『パリ』は、ポーター最初のブロードウェイ・ヒット作になった。
♪Let's Do It (Let's Fall In Love)
時代を戻したモノクロ効果を挟みアラニス・モリセットが唄う。
公演初日、スタンディングオベーション。
「何とか出来たな」ポーター、リンダ「あなたへ」シガレットケースを…裏に、
           “『パリ』恋をしましょう”
*アラニス・モリセット(女性):フランス系カナダ人歌手・俳優。1996年グラミー賞3部門受賞。
〈トラディショナルやニューオリンズを除いてジャズのスタンダード曲で最も古いのは、1911年バーリンの♪アレキサンダーズ・ラグタイム・バンドで、
『パリ』の♪レッツ・ドゥ・イット(1923年)より遥か前、しかもその間にスタンダード入りを10曲も書いている。ポーターにとってバーリンは巨匠だった〉

●♪「ナイト・アンド・ディ」の本籍
リハーサル中の主役が「高音から低音まで音域が広すぎて歌えない」と渋る。
演出席のポーターが飛び出そうとする…隣のモンティ・ウーリーが、こう云った。
「彼は役者だ 歌手じゃない、曲が難しい、アステアに歌わせろ
気を静めたポーターは「恋する気分で一緒に歌おう」と、
ワンフレーズずつ指導する。
『五線譜の~』ウーリー(アラン・コーデュナー)は、ほとんど脇役だが、
ここのセリフは要チェック(*^_^*)
 
♪Night and Dayは、1932年ブロードウェイ・ミュージカル『陽気な離婚(原題:The Gay Divorce)』で
ガイ・ホールデン役のフレッド・アステアの創唱。
34年映画化でもアステアが歌っている。
       
         
【コンチネンタル】(原題:The Gay Divorcee)                                               

     1934年:米RKO(モノクロ 107mins)
        劇場公開:35年

       監督:マーク・サンドリッジ
       主な出演者:
       フレッド・アステア
       ジンジャー・ロジャース

原題がミュージカルの『Gay Divorce(離婚)』から『Gay Divorcee(離婚女性)』に変わる。
離婚しようとしているミミ(ジンジャー・ロジャース)を一目惚れしたガイ(フレッド・アステア)が騒動に巻き込まれ、愛をつかむドタバタ喜劇。
ミュージカル・ナンバーからは♪ナイト・アンド・ディが使われているだけだが、
アステアがバースからエモーショナルに歌って、スタンダード曲中の名曲になった。

●ライオンと道化師
敷地内を数人の記者を従え黒のフレーム眼鏡男が、ポーターに、上から目線で云う。
「おかしな歌はおかしく、小細工はいらん できるか?ン!」
ム!とするが♪Be aClown(ピエロになろう)を歌い、眼鏡男を踊らせる。
男を殴り往復ビンタを張ったり、海賊船長に仕立てるなどコミカルなショー。
*♪Be a Clownは48年の映画『踊る海賊』の主題歌
〈なんてこった!大胆な演出〉
ピーター・ポリカープ演じる眼鏡男は、MGM映画会社創立者の一人で、ハリウッドの最高権威者のルイス・バート・メイヤーだ。
メイヤー氏没後とはいえ、
同じライオンが吼えるマークMGMの『五線譜のラブレター』でこんな【画】!!

●ゲスト女性シンガー
♪Begin the Beguine
シェリル・クロウがブルージーに唄う…伴奏のファゴット、トランペットが優しく悲しい。
♪Just One of Those Things
ダイアナ・クラールの唄が弱音化されるのは残念…ピアノ、ギターがモダン・ジャズだ。
♪Love for Sale
ビビアン・グリーンがゲイのパーティーを耽美に…歌詞と背景が妖しく。
“~恋のスリルを求めるなら~”
♪Ev'ry Time We Say Goodbye
まさに曲名どおりのシーン…純真ナタリー・コールが唄う。

●双・イン・ラブ
ケーリー・グラント、ケビン・クラインのあいだにもう一人ポーターを演じた俳優がいた。
53年のMGM映画『キス・ミー・ケイト』のロン・ランデリ、だがファーストシーンだけの出番。
シェークスピアの『じゃじゃ馬ならし』を翻案した『キス・ミー・ケイト』はポーターのミュージカルで最高のヒットだった。
フィナーレは主題歌「ソーイン・ラブ」
余命を限られたリンダにポーターが主題歌♪So in loveを弾き語る。
“不思議な気持ち でも僕の真実~”
「この曲は僕には歌えん」、リンダ「最後まで私の為に歌って」
二人のシーンと劇場をカットバックしながらポーターがフルコーラス歌う。
〈ジュリアード音楽院卒、1981年トニー賞受賞の実力をクラインが聴かせる〉
リンダが行けなかったニュー・センチュリー劇場公演、
絶賛の中、彼女の代理人からいつもの祝い品を受け取る。
三つの菱形枠にKISS ME KATEの文字がデザインされたシガレットケースだった。
場面は変わり病床。
「私の命はそう長くない」やつれたリンダ。
「パリ時代からの同志だよ、よく生きた」
 ポーターからの言葉とプレゼントが、アメイジング!
〈ここは映画をご覧になる方の楽しみに内緒にしておく〉
10分40秒の余韻に♪エブリタイム・ウイ・セイ・グッバイ…ナタリー・コールが重なる。

ファーストシーンと同じ薄暗がりの部屋、
ポーターが最終曲「イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト」を弾き語る。
“夜の静けさの中で~”
真珠の首飾り黒いドレスのリンダがそっと傍に、
“私があなたを愛するように~” スイートにデュエット。
       ─暗転─
エンド・ロールにサプライズ。
        

        コール・ポーター本人の歌♪ユーア・ザ・トップ。
        “~君は最高 君はコロシアム 君は最高~”

               ─終─