働いているバヤイじゃない

酒とバイクとゴルフとプラモ

居酒屋Tの人々(2)

2015-06-19 20:03:15 | 
居酒屋Tにはアイドルがいる。
30代中盤くらいか。
常連とはほとんど顔見知りで、最初はいわゆる「同伴」で来店しているのかと思った。
いつもガラガラ声の人の隣にいて、テレビをぼんやりと見ている。
どうやら、スナックで働いていたらしいが、そこをやめた後も通い詰めているみたいだ。
最近はわれわれが行く週末にはほとんど顔を見ることがなくなり寂しいが、大将いわく平日には来店しているらしい。
よかった、よかった(何が)。

そのガラガラ声の主は60代くらいだろうか。二つ席が離れるともう何を言っているのか聞き取れない。
最近は、前述のアイドルとともにすっかり姿を見かけなくなった。大将によると故郷に帰ったとのこと。
ただ、その息子がしっかり親父の後を継いで常連になっている。
20代後半だと思うが、誰にでもため口なところがチョット鼻につく。
われわれとは一言くらいしか話したことはない。
先日、最近通うようになった建設関係の若き社長と意気投合し、果てのない業界口プロレスを展開していた。
若いって馬鹿だね。社会に出て少し自信を持つとああなってしまう。そんな自分を思い出した。

ときどき飼い犬を連れてくる体格のい40、50代の女性がいる。
とてもおとなしい犬なのでTにいても全く抵抗がない。
しかし、丸顔の自称元タクシー運転手は「オレ、食い物商売の店に動物連れてくるの嫌いなんだよね」と、聞いてもいないのにわれわれに訴えかけてくる。「大将が許しているからしようがないのでは」と言うと、「だって気持ち悪いでしょう」と食い下がる。知らんがな。
「早く仕事見つけないとな」とポツンと言って帰っていく。

その大人しい犬が、はちきれんばかりにしっぽを振る40代の男性がいる。
なんというか、ボーツとした風貌で、何の商売をしているのか謎だったが、最近、メンタル系の病院からTに通っていることを知った。
うそかホントか楽器の先生でもあるらしい。
前述の元タクシー運転手は「あれは女のヒモだな。だって犬があんなにしっぽを振るのは普通じゃない」と口が悪いことこの上ない。

俳優の蟹江敬三似の60代がいる。いつも瓶ビールばかり飲んでいる。「高くなっちゃうんだけど焼酎嫌いなんだ」とのこと。
語尾をいつも笑いで濁らせるしゃべり方をする。
先日、わが家のガレージをガラガラと開けると、ママチャリに乗った蟹江さんがふらふら走ってきてびっくり。
そういえば、この辺に友だちが住んでいて、Tで飲む時はいつも泊らせてもらっているといっていた。

以前、タクシーと蟹江に加え、長嶋似の3人がカウンターで並んで飲んでいて、みんな口が悪いもんだから喧嘩になりそうになったことがある。
しかも、その後にイミテーションのモワモワのコートを着たクシャおじさん似の人が現れ(この人も常連)、ちょっとイケ面の若い男を連れてきたもんだから、3人がかりで「どういう関係だ」とからかう、からかう。クシャおじさんは真っ赤になって怒ってまたもや一触即発の状況に。
われわれは帰り際、「仲良く飲まなきゃだめじゃない」と説教をして店を出た(笑)。
クシャおじさんは、その後もTで何度か見かけるが、作業服みたいのばかり着ているので、やはりあの日の彼はそうだったのかもしれない、と今は思う。

身長150cmだがやたらとしゃべり方がえらそうな60代がいる。われわれはチビッ子ギャングと呼んでいる。
いつも2~3人で飲んでいて、「おりゃあよぉ」などと巻き舌でしゃべる。
身長の低い人ほど自分を大きく見せる人っているでしょ? それの最たるもの。
以前、飲み過ぎたのか小上がりとカウンターの椅子の間にバッタリ倒れ挟まったまま立てなくなったことがある。
われわれは「すわ、チビッ子ギャングが大ピンチだ」と半笑い。
しかし、いつもカウンター越しに話していて仲良しだと思っていた大将は、チラ見しただけで、カウンターで何事もなかったかのように酒を飲み続けていた。
案外ドライな関係なのかもしれない。

居酒屋Tの人々(1)

2015-05-16 13:50:41 | 
月に3、4回行く近所の居酒屋にTがある。
昨日も大将に日本酒をしこたま飲まされた。

ここの常連、店員が何とも味わい深い人たちばかりで、書き留めることにした。

Tは札幌のとある繁華街から少し外れた場所にある。
店内はアンティークな看板や民芸品が飾ってあって、今は少なくなった良き昭和の居酒屋だ。
週末に妻と夕食にでかけることが多いのだが、ほとんど同じ顔ぶれがカウンターに並んでいる。

最初に紹介するのは「謎のカップル」。
男女とも60代と思われるが、どうやら夫婦ではないらしい。
男は会社経営者風で、ちょっと頑固。キンキン声で話す。女はときどきその態度をたしなめる。
男の度の行きすぎた態度が原因で喧嘩になることもある。
どちらかが一人でいるのを一度も見たことはないが、大将に聞くと別々に来店していて、「飲み友達」とのこと。
誘い合って来店しているのだろうか。

次に紹介するのは「小池さん」。顔がラーメン好き好き小池さんに似ているところから命名した。
小池さんは50代後半だろうか。
Tのメニュー看板をつくっているのが小池さんで、看板職人らしい。
顔に似合わず体は筋肉質でがっしりしているが酒は飲まず、静かにご飯を食べて帰っていく。
支払いをしているところを見たことがない。月極めの一括払いなのか、看板仕事とのトレードなのか。
以前飲食店を経営していた、と聞いたような気もする。

いつもダンディーなのが「ジョージクルーニー」。60代と思われる。Tの常連の中では数少ない普通の人だ(笑)。
言うまでもなく、ジョージクルーニーに似ているところから命名した。妻は若山富三郎に似ていると言う。
ウイスキーが好きで、メニューにないがジョニ黒を愛飲している。
常連の中で最初に声を掛けてくれたのが彼で「おたく達は静かでいいね」と褒めて(?)くれた。
騒いで飲んでいる人が嫌いらしい。ジョニ黒を振る舞ってくれたこともある。
そんな彼がしばらく姿を見せなかった時期がある。
店に現れると松葉杖をついている。事情は分からないが足を折って入院していたらしく、当初はすっかり年老いたように見えた。
最近は娘さんと待ち合わせていることが多い。彼女は40代だが独身で、酔うと自虐ネタを振りまく。妻とは同じ高校出身らしく盛り上がったこともある。建設資材の会社に勤めているらしく、会社のお金で海外旅行に行った話をしていたので景気はいいらしい。独身のままでも問題はないだろう。(続く)