夢
お正月明けて今日から新学期だというのに寝坊をした。
学校が始まるということすら、いや、自分が高校生だということすら忘れていて、制服を探して大騒ぎをしている。時間割も無い、上履きも無い、引き出しにジャージだけたくさん種類があって、どれかわからない。最新のは足首にファスナーが付いていたことを思い出してそれを紙袋に入れた。白地に赤と青のライン入り。
他の物もとにかくカバンに詰めて家を飛び出す。
ゴミ収集車の音楽が聴こえて家に引き返す。
「お母さん‼️今日燃えるゴミの日‼️」
と、叫んでまた出直す。
時計を見たら8時半、遅刻確定。
何故寝坊をしたのだろう。
冬休みの間、母親が入院していて、自分が家事全てをやっていた。
そう、私はヤングケアラー。
バスが来ない、そうだ!父からお年玉をもらったのが袋に入ったままある。タクシーに乗ろう!
タクシーに乗ったが、しばらくすると道が混んできて止まってしまった。
雪が降ったようで道が凍結している。
『遅刻の理由を電車が遅れた事にできるかな…?でも、私は雪が降るたびに遅れる電車(湖西線)通学じゃないしなぁ〜』
運転手が、遠回りになるが今来た道を逆行して違う道を行けば少しは早く着くというので、仕方ない、そうして下さいと頼む。
それからタクシーはオートバイになったりヘリになったりしてとにかく進む。
空から雪の街を見下ろす。
右前方に立山連峰が迫ってくる。
真っ白な立山だ。
「綺麗ねぇ、ここまで来たらもうすぐよ!運転手さん早く早く!」と頼む。
「まかしときなって」
「この辺りで良いか?」
という声で気が付いて周りを見ると、違う。ここじゃ無い。
「大学生じゃなかったのか?」
「制服着てるでしょ!○○高校‼️」
「そうだったね」
「あっちの方角だから」
「わかった!」
「始業時間は何時だ?」
「8時半…8時45分だったかな」
「9時の学校もあるよな?」
「久しぶりだからわからなくなっちゃったけど、どのみち遅刻だから…」
見覚えのある通りに来たので
「ここで良いです!」
「あいよ!7万円〜」
「……?」
空を飛んだしなぁ……
財布には、五千円札とレシートの束。
そうだ!お年玉袋!
袋を慌てて破ると、なんと、外国のお金やら一圓札など旧札ばかり。
『おとうちゃん……』
これでは支払えない。
運転手は黙っている。
「運転手さん、ごめんなさい、お金が無いです。必ず連絡しますから…」
と懇願すると、丸まった布切れを放り投げてきた。
「そこに連絡先が書いてあるから」
汚らしいハンカチを恐る恐る広げると左下に電話番号と名前、それから時間帯が印刷されていた。
「9時以降にしてくれ」
謝ってタクシーを降りて、振り返って叫んだ。
「おじさん3万円にまけて‼️」
運転手はニヤリとしたような気がする。
歩きながら思った。
『都内から家まで深夜時間帯にタクシー乗っても3万円(高校生が何故知っているのか?)、だから高すぎるわ、あゝそれでも空を飛んだからなぁ…』
それより大変なことに気づいた。
ここは学校まで相当遠い商業施設の中だ。歩く歩く、遠い、足が重くなる。
一体何時だろう?腕時計を見ると10時半。
お昼頃には着くだろうか、こんな大変な思いをして大遅刻をして、それでも登校する意味があるのだろうか。
団体で歩いている子供達に巻き込まれた。
小さなエレベーターの前で待つ。
扉が開いたのは少し離れた別のエレベーターで、乗ったのは4人。
すごく揺れる。
4人でバランスを取るため立ち位置を調整し合う。
そして思い出す。
こっちに乗ると道路の反対側だ…小さなエレベーターに乗るべきだった。
男の子が、
「これハワイに行った時に買った服なんだぞ〜」
と、自慢している。
シャツの前面が丸く切り込まれていてその下に描かれた顔が見えるというデザインだった。北京五輪のマスコットみたいな顔。
「そうなの〜良かったねぇお正月にハワイに行ったんだ〜」
と、相手をしている自分。
一階に着いて私は飛び降りた。
床より1メートルほど上から。
すると、エレベーターがブランコみたいになってしまい、他の人が降りられない。
仕方ない、揺れる鉄のエレベーターを手で抑えるが力が足りない。小さな子が落ちかける。
助けを求めて何とか解決できてまた歩き始める。
歩く歩く…
重い足をとにかく前に出して…まだまだ遠い道のりを。
『学校…行くのやめようかなぁ…今頃家に連絡が入っているだろうなぁ…お母さんは、娘はもうとっくに家を出ましたって返事してるだろうし、私はサボった事になってるだろうなぁ…』
遠い遠い先を眺めている気分になって、虚しくなって、何の意味があるのだろう…なんて思って…
目が覚めた。