はにかみ草

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水野直樹編『生活の中の植民地主義』の論文

2008-07-30 17:37:23 | 公開
少し前に水野直樹・編『生活の中の植民地主義』の論文を読みました。

鄭 根埴(ちょん・ぐんしく)さんの論文「植民地支配、身体規律、「健康」」が一番面白かったので、少し感想を書きます。

筆者はソウル大学校社会学科教授で、日本の植民地支配下の朝鮮社会、特にハンセン病など医療・衛生問題、身体規律の問題を研究しています。この論文では、「植民地支配、身体規律、「健康」」というテーマで、身体の歴史性や近代的身体について述べています。
印象に残ったところを少し要約して引用します。(ページ数は本を参照してください。すみません。。)

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・「私たちの身体はただ自然的・生物学的なものではなく、歴史的なものであり社会的なものである。」

・「近代的身体は、近代国家の形成、資本主義の成立などと密接な関係がある。近代国家では、国家が必要とする軍事力、そして市場で要求される労働力をになう身体が必要となる。」

・「支配権力は人間を資源とみなし、すべての人間を労働力および軍事力として把握しようとした。長期的な戦争動員の必要性のために、次第に子どもや老人も政策対象となり、女性は労働力や男性のための性的道具、または人口資源を生む出産と育児の担当者と規定され、児童は将来の労働力、軍事力とみなされたため、母性と乳幼児保護が絶えず強調されることとなった。人的資源は長期的に使用されねばならないため、健康と衛生が強調された。また「悪の伝染」を防ぐための装置として「清潔」が衛生政策の中心を占めるようになり、日本でも朝鮮でも、身体規律と健康が「国民の義務」となった。 」

(*「悪の伝染」というのはハンセン病などのことだと思います。このためにハンセン病だと疑われた人々が、家族と引き離されて強制的に隔離されていったんですね。。優生思想というのは本当に恐ろしい。)


・「日本政府は、1938年4月に制定された国家総動員法にもとづいて、1939年7月に国民徴用令を交付した。兵力動員の増加によって産業労働力の供給は大幅に不足することとなったので、人口増加と国民体力の積極的な向上が急務となった。」

・「1941年、太平洋戦争の勃発とともに厚生運動はいっそう強化され、「健民運動」が大々的に展開された。ひとりひとりの身体は天皇制国家のため、女性の身体は出産のため、子供は良質の軍事力や労働力に成長するために、義務として健康であるべきものと規定された。これは「健兵」、「健民」、「健児」などの単語を重要な議題として浮上させ、「健母」という単語まで作り出された。この運動の目的は大東亜共栄圏の建設であった。「皇国民族の増強を図ること」が運動の根本であり、この言葉は、国防上、政治上、産業上、その他の部面で優秀健全な人のことをいい、「健全な皇国民族」の略称といえるものであった。

***引用おわりです***


この論文を読んで一番驚いたのは、「健康」という概念さえ、国家の軍事力と労働力のためにつくりだされた概念だということでした。

また、「健母」という語も同様の目的のもとにつくられた単語で、この単語で柳沢厚生労働大臣の「女性は産む機械」発言も思い出しましたが、彼一人をバッシングしても意味がなく、近代においてどのように人が国家の戦略のために利用されてきたかということを歴史的に問わなければ意味がないと感じました。