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日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

雪に戯れて (21)

2025年06月14日 04時25分14秒 | Weblog

 美代子は、お爺さんの話を渡りに船と、戸惑う大助を連れて二階に行くと、自室の隣の座敷に用意されていた布団を丸めて運び出して、自分の部屋のベットの脇に敷き、彼に
 「ハイッ 朋子さんが、洗濯しておいてくれた君の下着ョ。 着替えテェ~」
と差し出したので、大助は
 「少しの間、隣の部屋に行っていてくれないか」「女性の前で着替えるのは嫌だなぁ~」
と、きまり悪そうに呟くと、彼女は顔をくもらっせて
 「そんなことを言はないでぇ~」「わたし、外の方を見ているから、早くしなさいョ」
と言って窓の方を向いたので、彼は素早く着替え終わると、チラット盗み見していた彼女はニコッと笑いながら
 「大ちゃん、運動しているためか、腿と腰の筋肉が発達していて頼もしいヮ」
と言ったので、彼は
 「コラッ! 約束違反だぞ」「淑女らしく約束をまもれよ」
と照れ隠しを言うと、彼女は小さい声で悪戯っぽく
 「アラッ イイジャナイノ ナマデミルト トッテモ ミリョクテキダワ」
と口答えし、続いて間髪を入れずに
 「わたしの、ベットで休むのョ」
と言って、躊躇している彼を無理矢理、自分のベットに押しやり
 「わたしは、下に敷いたお布団で休むワ」
と呟いて,サッサと布団の上に座り込んでしまったので、彼は仕方なく美代子が普段使用しているベットに横たわり毛布をかぶるや、顔にかかる襟布に鼻を当てると臭いをかぎわけるように
 「美代ちゃんの臭いがプンプンするわ」
 「でも、なんと言うのか、これが直接嗅ぐ女性の臭いかぁ、いい臭いだナァ~」
と独り言を呟いて、思いだしたように
 「また、夕べみたいに潜り込んでこないでくれよ」「特別に話すこともないし、寝不足だわ」
と言いながらも横になると、彼女は
 「わたしの、臭いを脳に焼き付けておいてネ」
と言ったので、彼は
 「チエッ 僕、美代ちゃんの、犬みたいだな。愛玩用のペットでないぜ」
と文句を言いつつ、毛布をかぶってしまった。    

 美代子は、大助が夕べのお喋りで睡眠不足から、間もなく軽い鼾をかいてスヤスヤト眠ると、自分も引き込まれるように眠くなったが、我慢して布団の上に足を横崩しにして座り、彼にプレゼントしようと、暇をみては編みかけていた毛糸のネクタイを編み始めたが、ドアーをノックする音で部屋から顔を出すと、母親のキャサリンが話しかけようとしたので、人指し指を口に当てでシーッと合図して廊下に出ると、キャサリンが
 「いま、宿に行って、大助君が今日も家で休んで貰うことを、皆さんにお願いしてきたが・・」
 「お爺さんが、夕方、大助君のお友達を招待すると急に言い出し、食材の用意もしてなくどうするかテンテコマイだヮ」
と愚痴るので、彼女は
 「お母さん、心配することないわ」
と言うや、階下に降りて行った。
 
 キャサリンは、その後姿を見て、きちんと洋服を着ていたので安心したが、彼女はリビングで、お爺さんに
 「お母さんが、お爺さんの言いつけで、朝から飛んで歩き帰宅すると、今度はお友達を御招待するとの指図で、神経が大分お疲れのようだヮ」
と、少し文句がましく言うと、お爺さんは
 「春に、お前が東京に行ったとき、彼等にお世話になるから、そのためだっ!」
と厳しい顔をして半ば怒ったように
 「ワシが 準備をするからと言っておけ」
と言うなり、受話器を取って、馴染みの居酒屋のマスターに料理を注文していた。   

 キャサリンは、自分の至らないことで申し訳ない気持ちで切なくなり、思いあまって慣れ親しんでいる看護師の節子さんに相談したら、節子さんは
 「その様なことで心配していたら身が持たないゎ」
 「男女に拘わらず、人はお歳を召すと自然に我が強くなるものよ」
 「先生は、先生なりに考えてやっておられることなので、お好きなようにさせておけば良いのよ」
と、孫を愛する老人の心理を感単に説明し、優しく肩を叩いて慰めた。    
 お爺さんは、顔を出したキャサリンに
 「あのなぁ~、若い連中は、温かい御飯と味噌汁に味噌漬で腹一杯になれば満足するもんだ。なにをオタオタ心配しているんだ」
と、自分の若い時に重ねて、こともなげに話しをした。
 美代子は、そんなお爺さんの話を聞いて、いくらなんでもと思ったが、お爺さんのお陰で、今日も一日、大助君と一緒にいられると思うと憎めなかった。  

 夕方、丘陵を思うぞんぶん滑り捲くった健ちゃん達が、スキー場から戻って宿で休憩したあと診療所に顔を出すと、お爺さんは愛想よく彼等を招きいれて、賄いの小母さんに広い風呂場に案内する様に指示した。
 彼等は広くて窓外の竹林の眺めがいい浴場に入ると、六助が健ちゃんと昭二に
 「温泉も素晴らしいが、田舎の金持ちも贅沢な風呂場で凄いもんだなぁ」
と感心して身体を暖めていたら、大助が顔を覗かせて
 「お爺さんがまっているので・・」
と呼びにきたので、六助が
 「お前、とんでもない家の彼女と付き合っているんだなぁ」「何時頃、どんな理由で知り合ったのだ」
と、聞きながら風呂から上がったが、大助は問いかけに答えることもなく彼等を座敷に案内すると、健ちゃんが先になり恐るおそる座敷にはいった。

 皆が料理が並べられた大きなテーブルを囲んで座り、健ちゃんが一通り挨拶すると、お爺さんは早速お酒を薦めながら、美代子から聞いて全てを承知していたが、そこは老練なお爺さんは彼等の手前知らない振りをして 
 「町でも乱暴者で名高いあの三人の連中、今朝、早くから汗を流して、診療所前の雪掻きをしておったが、あなた方がどの様な教育をしたかは知らんが効果的面だわ」
と感心して話をしたあと、お酒を呑みながら、健ちゃんから自衛隊の訓練の話を聞いたり、自分の軍歴や俘虜になってイギリスに行ったことなどエピソードをまじえて愉快そうに話していた。
 老医師は、健ちゃん達の話に引き込まれていた、美代子とキャサリンに
 「ホレッ ボヤットしてないでお酌をしてあげなさい」
と指図し、キャサリンと美代子が、一人一人に丁寧に挨拶をしながらお酌をしたが、そのうちに、お爺さんは
 「この春、孫娘が上京する予定ですが、なにしろ世間知らずな田舎者ですので、遠慮なく指導して下さい」
と、両手をテーブルについて軽く頭を下げて丁寧にお願いすると、健ちゃんが
 「先生。そんなに御心配なさらないで下さい」 「大丈夫ですよ。大助が付いていれば・・」
 「勿論、僕等で役に立つことがあったならば、喜んでお手伝いさせて頂きますが」
と、わざと大助の名前を出して答え、それが、お爺さんの意図する的を射たのか顔をほころばせて喜んでいた。 

 美代子は、皆の手前、最初は畏まって遠慮気味にしていたが、雰囲気に慣れるに従い、彼女が何をしでかすかと、キャサリンがハラハラと心配して見守るのをよそに、大助の隣に何時の間にか座ったのか、慣れ親しんだ態度で笑顔を絶やさずに楽しそうに上京後のこと等を話かけていた。 
 そんな二人を見て、健ちゃんも、大助の膝を叩いて
 「俺には少しばかり気になることもあるが・・」「お前は幸せな奴だ、羨ましくなるよ」
と、遠慮気味の彼を元気ずけていた。
 昭二と六助は、予期もしない歓待に戸惑っていたが、適度に酔いが廻ると饒舌になり、六助が
 「学校が休みの日は、俺達町内の青年会に是非参加してくださいよ」
 「なにしろ、町内大会の野球では連戦連敗で、運動神経抜群の貴女に入ってもらえれば心強いですわ」
 「大助君の姉の珠子さんや、僕の家に下宿しているフイリッピン人の看護師に、小中学生の女性も参加して賑やかですよ」
と 、お世辞ながらも率直に町内の若者達の様子を話して、お爺さんと美代子の不安を巧みに払拭して安心させていた。

 美代子は、珠子さんと聞いて少し緊張感が心をよぎったが、外国の人も仲間に入っていると聞き楽しそうだし、上京後の生活を頭に描いて、是非参加したい気持ちにかられた。
 美代子が、珠子と聞いて緊張したのは、彼女とは昨年の夏、大助と初めて河で遊んだとき、顔だけは見合せたが言葉を交すこともなかったが、大助と親しくなるにつけて、彼女が彼の家庭を母親に代わって家事を任されていることを知り、姉弟でも彼にとっては厳しい姉であると、彼と逢うたびに聞かされていたので、自分達の交際を認めてくれるかしらと思ったからである。
 或る時、美代子は看護師の節子さんに珠子さんのことを聞いたことがあったが、節子さんは
 「普通にお友達として交際していれば、自然と仲良くしてもらえるわょ」「娘の理恵子も下宿当初は緊張していたゎ」
と笑って答えてくれたので、彼女はその言葉を聞いて上京したあとの生活の未来が開けた気持ちになった。 

 暫く御馳走になり、健ちゃん達は大助を連れて、家族に見送られて帰るべく玄関に出ると、美代子は何時もの様に、大助と別れるとなると、それまでの陽気さが途端に消えうせて、キャサリンが前に出るように促しても拒んで母親の背中に顔を隠し手首だけ出して振っていた。 
 お爺さんは、そんな彼女の様子を見て苦々しく
 「普段、威張りよっているくせに、また、そんなメソメソした顔をして・・」
と言って、見送りに出た看護師の朋子さんに顎をしゃくって見せ苦笑していたが、朋子さんは自分にも恋人がおり彼女の寂しさが痛いほど判り切なくなった。
 大助も、そんな美代子の姿に胸を締め付けられるようになったが、皆が、大助達二人の間柄を勝手に 想像して囃し立てていたので、健ちゃん達の会話に気分を紛らわせていた。
 日の暮れた山里は冷気が漂い風も強く、彼等も彼女の感傷的な様子を気にすることもなく宿への帰路を急いだ。

 

  

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