東京新聞の原発事故取材連載記事「レベル7第十部、二年後の迷走」2と3は、原子力規制委員会の今を取材している。
敦賀原発、東通原発と、原発施設の活断層の指摘をした原子力規制委員会。だが、ことは簡単に進まないのだった。
規制委員会委員長代理の島崎邦彦氏が、敦賀原発を下見した際、原電は原発の試掘溝で見つかったズレを、知らせなかったのだという。
調査当日に、専門家がズレの近くに差しかかっても、説明しようとしなかった。
「原電は問題ない場所で(調査の)時間を使おうとしていた。問題のズレは、われわれが気づかなければ、そのままおしまいになるところだった」
とチームの一員の鈴木康弘・名古屋大教授は振り返った。
このズレは、活断層と全員一致で判断された。
(敦賀原発の直下に活断層)
しかし、増田博原電副社長は、それに納得せず、規制委事務局の名雪哲雄氏に公開質問状を出し、その後2ヶ月間に名雪氏と8回接触。名雪氏から秘密裏に公表前の報告書案を入手した。
名雪氏は、これが発覚した後、更迭された。
2年経って、あの事故は、原発関係者にとって忘却の彼方なのか。
原電の、安全を無視した原発存続への強い執念は、あまりに哀しい。
と同時に、事務局審議官の裏切りは、自分の立場への認識の甘さの現れ。
(画像:東京新聞)
東通原発のある下北半島の東方沖に全長100キロを超える巨大断層、大陸棚外縁断層がある。この断層が動いた時、M8クラスの地震が起きる可能性が指摘されている。
池田安隆・東大准教授は、旧原子力安全委員会の委員として、2010年、東通原発の耐震審査に参加した際、この断層の危険性を何度も指摘したが、東北電力は聞く耳を持たなかったという。
東通原発の断層を調べる専門家チームの一人で、深い地下の構造を専門にする佐藤比呂志東大地震研究所教授から、前述の島崎委員長代理(写真のマイクを持っている人)に、「4億円あれば、下北半島を輪切りにして調べられます」というメールが届いた。
島崎委員長代理は、東北電力への再三の警告を無視された池田東大准教授の無念も理解していたし、敦賀原発では断層のズレをスルーしようとした原電の態度を身を持って知っている。
電力会社から出される電力会社にとって都合のいいデータではなく、独自の解明の必要があると、この申し出を受け入れた。
しかし、事務方から「予算がない」「事業者がやるべき調査だ」などという後ろ向きの返事が多く、未だそれができないでいるという。
目先の事なかれ主義で、取り返しのつかないことが起こってしまったら、という想像力がなさすぎる。
テレビで、航空機のコックピット仕様の操縦シミュレーションの機械が1台20億円と言っていた。パイロットの操縦技術を高めるという安全のための最も基本的な投資なのだから、航空会社はそれを当然と考える。
同様に、下北半島の地層が輪切りで見られるという最新の技術は、地盤の安全性を知る上で画期的だ。事務方がなぜお金を惜しむのか、わたしには理解できない。
規制委員会委員には、今後も学者としての誇りをもって、理性的な正しい判断をして、圧力や壁に負けないで頑張って欲しいと思う。
と同時に、事務方(官僚)の人たちにも、「原発事故を起こしてはならない」という使命のある組織の一員だという強い自覚を持って、何事にもあたって欲しいと心から願う。