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パワハラ対策

2021年07月05日 | ハラスメント関係


今回も企業のハラスメント対策について説明したいと思います。





企業のハラスメント対策としては、

 ① セクシュアルハラスメント対策(すべての企業で義務化)

 ② 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策(すべての企業で義務化)

 ③ パワーハラスメント対策(令和2年6月1日から大企業が義務化。令和4年

   4月1日から中小企業も義務化


があります。



今回は、

 ③ パワーハラスメント対策(令和2年6月1日から大企業が義務化。令和4年

   4月1日から中小企業も義務化)


について解説したいと思います。











ちなみに今回の内容については、下記のパンフレットの内容を解説したものとなりま

す。詳細については下記のパンフレットをご参照ください!



(厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)





今回のブログはかなり長くなりますが、企業にとってハラスメント対策は非常に重要

な内容となるためどうか最後までお付き合いください!










根拠条文】

職場におけるパワーハラスメント対策については、労働施策総合推進法第30条の

2に以下のとおり規定されています

<労働施策総合推進法>

(雇用管理上の措置等)

第三十条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動で

あつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業

環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するた

めに必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対

応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他

不利益な取扱いをしてはならない。

<筆者解説>

上記の条文を要約すると、

労推法30条の2第1項では、「会社は労働者がパワハラの被害を受けないように

するため及びもし被害を受けた場合は適切な処置を行うための必要な措置を講じな

さいよ」

労推法30条の2第2項では、「会社は、労働者からパワハラの相談を受けたこと

に対してその相談をした労働者を罰する等の不利益な取扱いをしてはいけませんよ

。また、パワハラの事実関係の確認のために関係者から事情聴取を行った際に、パ

ワハラの事実があったこと等をその関係者が証言したことに対して、会社は証言を

行った者を罰するなどの不利益な取り扱いはしてはいけませんよ」

となります。









【パワハラ対策の対象企業】

 大企業は令和2年6月1日からパワハラ対策を講じる義務があります。

 中小企業(個人事業主を含む)は令和4年4月1日からパワハラ対策を講じる義

務が発生します(令和2年6月1日~令和4年3月31日は努力義務)。

 講じていない場合は行政からの指導を受ける可能性があります。


 大企業・中小企業の判定は以下の表から行います。

 

(厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法の施行にあたっての中小企業の範囲」)

※ 上記はパートタイム・有期雇用労働法における中小企業の範囲となっています

 が、労働施策総合推進法においても中小企業の範囲は同じとなります。














【パワーハラスメントの定義】

 では、「職場におけるパワーハラスメント」とは何かというと、

『職場(※1)において行われる、

  ① 優越的な関係を背景とした言動であって、

  ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

  ③ 労働者(※2)の就業環境が害されるもの       』

で、①~③までの要素をすべて満たすものをいいます。

なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指

導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。


(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2の(1))



 「① 優越的な関係を背景とした言動」とは、当該事業主の業務を遂行するに当

たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」

という)に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として

行われるものを指し、例えば、以下のもの等が含まれる。

  ・ 職務上の地位が上位の者による言動

  ・ 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富

    な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行う

    ことが困難であるもの

  ・ 同僚又は部下から集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難

    であるもの

(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2の(4))

 <筆者解説>

 パワハラの加害者となる者は通常、上司と思われているが、上司以外の同僚や部下

であってもパワハラの加害者となる場合があります。

 ちなみに、同僚や部下からのパワハラについては上記で示した通り、その同僚等が

知識や豊富な経験を有していたり、集団による行為が「優越的な関係を背景とした言

動」としてパワハラに該当するとなっていますが、該当するかどうかは最終的に裁判

でしか判断できないため、労働者から「同僚(又は部下)からパワハラを受けた」と

いう相談があった場合は「それはパワハラではない」と決めつけず、後程説明するパ

ワハラ対策を講じることが必要となります。

(講じていない場合は行政から指導を受ける可能性があります)



 「② 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは、社会通念に照らし、当該言

動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないものを指

し、例えば、以下のもの等が含まれる。

  ・ 業務上明らかに必要性のない言動

  ・ 業務の目的を大きく逸脱した言動

  ・ 業務を遂行するための手段として不適当な言動

  ・ 当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容

    される範囲を超える言動

 この判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の

問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業

務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為

者との関係性等)を総合的に考慮することが適当である。また、その際には、個々の

事案における労働者の行動が問題となる場合は、その内容、程度とそれに対する指導

の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることについても留意が必要である。

(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2の(5))

 <筆者解説>

 パワハラ行為の対象となる「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とは

「業務上明らかに必要性のない言動」や「業務の目的を大きく逸脱した言動」等が該

当しますが、では「業務上明らかに必要性のある言動と業務上必要性のある言動の境

界はどこか?」「業務の目的を大きく逸脱した言動とはどこまでを言うのか?」とい

ったことは、いろいろな要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動

の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況等)を加味しなければなら

ず、結局、裁判でしか確定しません。

 したがって、労働者から「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動を受けた」とい

う相談があった場合は、①でも説明しましたが、「それはパワハラではない」と決め

つけず、後程説明するパワハラ対策を講じることが必要となります。

(講じていない場合は行政から指導を受ける可能性があります)



 「③ 労働者の就業環境が害される」とは、当該言動により労働者が身体的又は精

神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に

重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じる

ことを指す。

 この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況で当

該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障

が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当である。

(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2の(6))

 <筆者解説>

 パワハラ行為を受けた結果「労働者の就業環境が害される」とは、「こんなパワハ

ラを受けたら被害者は、普通に仕事できないよね」と誰もが思うような言動を意味す

るとされていますが、これについても、世間一般でのとらえ方などは千差万別であり

、基準などはありません。

 したがって、「労働者の就業環境が害されたかどうかの判定」は、結局、裁判でし

か確定しません。

 したがって、労働者から「就業環境が害された」という相談があった場合は、①、

②でも説明しましたが、「それはパワハラではない」と決めつけず、後程説明するパ

ワハラ対策を講じることが必要となります。

(講じていない場合は行政から指導を受ける可能性があります)



※1 「職場」とは「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働

   者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する

   場所であれば「職場に」含まれます。

   (「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2の(2))

    勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務

   の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断に当たっては

   、職務との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考

   慮して個別に判断されます(上記のほかにも、「出張先」「業務で使用する

   車中」「取引先との打ち合わせの場所(接待の席も含む)」等)

   <筆者解説>

    人事等のハラスメント対応に当たる方は、プライベートで起こったことだ

   から対応は不要と考えず、基本的には労働者からパワハラの申し出があれば

   対応しなければいけないものと認識しておいたほうが無難でしょう

※2 被害者となる「労働者」とは「正規雇用労働者のみならず、パートタイム労

   働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、会社が雇用する全て

   の労働者」をいいます。

    また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も

   自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。


   (「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2の(3))

   (労働者派遣法第47条の4)


    さらに、事業主は自社が雇用する労働者のみならず、個人事業主、インタ

   ーンシップを行っている者、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学

   生等に対する自社の労働者の言動についてもパワハラ防止措置をとることが

   望ましいとされています。

   (「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の6)

   <筆者解説>

    派遣労働者については、就業先が派遣先となるため、パワハラについても

   派遣先で発生する可能性があり、もし、派遣労働者からパワハラ相談を派遣

   元責任者や派遣元の営業担当者が受けた場合であっても、派遣元は派遣先と

   連携し、両社でパワハラ対策を行わなければいけません。

    もし、派遣元・派遣先が後で説明するパワハラ対策を怠っていた場合は労

   働施策総合推進法違反として行政から指導を受ける可能性があります。

    また、自社の労働者以外の「請負関係にある個人事業主」や「インターン

   シップ制度によって受け入れている者」「取引先の労働者」「就職活動のた

   めOB訪問に来ている就活生」等に対しても、パワハラ対策の対象となる自

   社の労働者ではないものの、自社の労働者がこれらの者に対して、もしパワ

   ハラをした場合、当然、自社に対して社会的責任の追及が及ぶ可能性も高い

   ため、自社の責任としてパワハラ対策の対象することが望ましいとしていま

   す。

※3 「パワハラを行う者」とは、事業主、上司、同僚に限らず、取引先等の他

   の事業主又はその雇用する労働者、顧客等も該当します

    (「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の7)

    自社の雇用する労働者以外の者からのパワハラにより、自社の労働者が就

   業環境を害することがないように、会社は①相談体制の整備、②被害者への

   配慮のための取組み、③顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止する

   ためのマニュアル作成や研修等を行うことが望ましいとされています。

   <筆者解説>

    いわゆる、「カスタマーハラスメント(カスハラ)」等への取組みも行ったほうがい

   いですよということです。





【パワーハラスメントの種類】

 「職場におけるパワーハラスメント」は『職場において行われる、①優越的な関

係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

③労働者の就業環境が害されるもの』で、①~③までの要素をすべて満たすもの

(客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導につ

 いては、職場におけるパワーハラスメントには該当しない)をいいます。

 個別の事案についてパワハラに該当するかどうかの判断に当たっては「業務上必

要かつ相当な範囲を超えた言動かどうか」及び「当該言動により労働者が受ける身

体的又は精神的な苦痛の程度等」を総合的に考慮して判断することとなります。

 職場におけるパワーハラスメントの状況は多様でありますが、代表的なパワーハ

ラスメントの言動の類型として以下のイ~への6項目が挙げられます。

 ただし、これらは限定列挙ではなく、イ~へ以外にもパワーハラスメントに該当

する可能性はあるのでご注意ください!


 イ 身体的な攻撃(暴行・傷害)

   ① パワハラに該当すると考えられる例

    ・ 殴打、足蹴りを行うこと

    ・ 相手に物を投げつけること

   ② パワハラに該当しないと考えられる例

    ・ 誤ってぶつかること

 ロ 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)

   ① パワハラに該当すると考えられる例

    ・ 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に

      関する侮辱的な言動を行うことを含む

    ・ 業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返

      し行うこと

    ・ 他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこ

      と

    ・ 相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相

      手を含む複数の労働者宛に送信すること

   ② パワハラに該当しないと考えられる例

    ・ 遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれ

      が改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること

    ・ その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った

      労働者に対して、一定程度強く注意をすること

 ハ 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

   ① パワハラに該当すると考えられる例

    ・ 自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり

      、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること

    ・ 一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させるこ

      と

   ② パワハラに該当しないと考えられる例

    ・ 新規に採用した労働者を育成するために短期間集中的に別室で研修

      等の教育を実施すること

    ・ 懲戒規定に基づき処分を受けた労働者に対し、通常の業務に復帰さ

      せるために、その前に、一時的に別室で必要な研修を受けさせるこ

      と

 ニ 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事

   の妨害)


   ① パワハラに該当すると考えられる例

    ・ 長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関

      係のない作業を命ずること

    ・ 新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレ

      ベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責す

      ること

    ・ 労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる

      こと

   ② パワハラに該当しないと考えられる例

    ・ 労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる

      こと

    ・ 業務の繁忙期に、業務上の必要性から、当該業務の担当者に通常時

      よりも一定程度多い業務の処理を任せること

 ホ 過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事

   を命じることや仕事を与えないこと)


   ① パワハラに該当すると考えられる例

    ・ 管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行

      わせること

    ・ 気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと

   ② パワハラに該当しないと考えられる例

    ・ 労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること

 へ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

   ① パワハラに該当すると考えられる例

    ・ 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたり

      すること

    ・ 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報に

      ついて、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること

   ② パワハラに該当しないと考えられる例

    ・ 労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒア

      リングを行うこと

    ・ 労働者の了解を得て、当該労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊

      治療等の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担

      当者に伝達し、配慮を促すこと

(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2の(7))







(厚生労働省「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」リーフレット)











【パワハラの判断基準】

 パワーハラスメントに該当するかどうかは、被害を受けた労働者が訴訟を起こ

し裁判で判決が出て初めて確定します。


 つまり、それまでは行政であってもパワハラに該当するかどうかは判断できま

せん。

 では、パワハラ対策として企業が行わなければならないことは何かというと、

後で説明する「パワハラを防止するための措置」及び「パワハラが発生した際の

対応」について労働施策総合推進法第30条の2第1項で定めています。

 したがって、企業が労働者からパワハラ相談を受けた場合はまずは、法律に沿

った対応を行うことが重要となります。

 法に沿った対応の結果、企業が「パワハラはなかった」という結論を出しても

法律違反とはなりません。


 企業の結論に対して納得できない場合は労働者が訴訟を提起してくる可能性も

ありますが、訴訟になった場合は、改めて、企業はパワハラがなかったことを証

明すればいいのです。

 また、訴訟になった場合であっても、企業が法に沿ったパワハラ対策が取られ

ていなかった場合は、そのことも判決に影響してくる可能性があります。


 まず、企業がしなければいけないことは、今から説明する「パワハラ防止措置

を実施する」ということになります。











【企業が実施しなければいけないパワハラ防止措置】

 企業が実施しなければいけないパワハラ防止措置は、大きく分けて次の2つ

に分類されます

(1)今すぐに実施しなければいけない事項

(2)労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなければいけない

   事項






(1)今すぐに実施しなければいけない事項


 企業がセクハラ防止措置としてすぐに実施しなければいけない事項は次の6

項目となります

① パワーハラスメントの内容、パワーハラスメントを行ってはならない旨の

 方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること


  → パワハラとは具体的にどういうことを指すのか、会社としてパワハラ

   は絶対許さないという意思表示についてチラシ等を作成し、自社のすべ

   ての労働者に周知します。

    周知方法については、就業規則のように、作成したものをファイルに

   入れて保管し「誰でも見ていいよ」というような周知方法ではなく、す

   べての労働者の目に必ず触れるような周知方法(すべての事業所におい

   て、そこに就業するすべての労働者が目にする場所にチラシを貼付する

   方法やすべての労働者にそのチラシをメールで送信する方法等)が必要

   とされています。   

② パワーハラスメントの行為者について厳正に対処する旨の方針・対処の内

 容を就業規則に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること


  → パワハラの行為者に対し厳正に対処する旨の方針及び具体的な処分方

   法をチラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。

    また、実際に行為者を処分するために会社の懲戒規定にパワハラを行

   った者に対する処分内容を規定します

    懲戒規定の記載例については上記、厚生労働省「職場におけるパワー

   ハラスメント対策が事業主の義務になりました!」パンフレットのp38

   を参照ください!

③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

  → パワハラの相談窓口を設置((例)相談窓口:人事課長)し、チラシ

   等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。

    相談窓口が形式的なものしか設置しておらず、実際の相談ができない

   ような場合は、相談窓口を設置していないとして行政から指導を受ける

   可能性があります。

    相談窓口担当者は「人事課」など、組織全体としても構いませんが、

   組織全体とする場合、その組織のすべての労働者が相談対応できない場

   合も、相談窓口を適正に設置していないとして行政から指導を受ける可

   能性があります。

    相談者の個人情報も扱うことから相談窓口の担当者は一定以上の役職

   者としておいたほうがよいでしょう。

④ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

 パワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対

 応すること


  → 相談窓口担当者が相談者に対し門前払いをしたり、しっかりと話を聞

   かなかった場合は適正に相談対応していないとして行政からの指導を受

   ける可能性があります。したがって、相談窓口担当者は相談者からの相

   談に些細なことでも耳を傾け相談対応に当たる旨を、チラシ等に記載し

   、自社のすべての労働者に周知します。

⑤ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周

 知すること


  → 相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属

   するものであることから、相談及び事後の対応に当たっては、相談者・

   行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じる旨を、チ

   ラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。

    なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病

   歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれます。

⑥ 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局

 の援助制度の利用等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を

 定め、労働者に周知・啓発すること


  → 労働者がパワハラ相談をしたこと、事業主からの事実関係の確認に協

   力したこと、労働局の紛争解決援助制度(労働局が実施するあっせん制

   度や調停制度)を労働者が利用したことを理由として解雇やその他の不

   利益な取扱いを労働者にしない旨をチラシ等に記載し、自社のすべての

   労働者に周知します。





上記のチラシ例は以下のような感じになります。



(大阪労働局「ハラスメントは許しません!チラシ例(改正法対応(パワハラ含む)、Powerpoint、イラスト入り)

(令和2年6月更新)」)






(2)労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなけれ

   ばいけない事項


 企業が労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなければいけな

い事項は次の4項目となります

① 事実関係を迅速かつ正確に確認すること

  → 労働者から相談を受けた相談窓口担当者は早急に、相談者及び行為者

   から事情を確認しなければいけません。

    相談者と行為者との主張が不一致であり、事実確認が十分にできない

   と認められる場合は第三者からも事実確認を行う必要があります。

    相談者から相談を受けたにもかかわらず、門前払いをしたり、相談者

   や行為者から事情確認もせず、「パワハラには該当しない」と相談窓口

   担当者が判断することは事実関係を迅速かつ正確に確認していないとし

   て、行政から指導を受ける可能性があります。

    相談者、行為者とされる者及び第三者からの事情確認の結果、「パワ

   ハラに該当しない」とする結論を会社が相談者に伝えることは法律上、

   特に問題ありません!
② 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に

 行うこと


  → 事実確認の結果、当該パワハラ行為が事実であった場合、会社は被害

   者と行為者を引き離すための配置転換や、行為者の謝罪、被害者の労働

   条件上の不利益の回復等の適正な措置を講じる必要があります。

③ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと

  → 事実確認の結果、当該パワハラ行為が事実であった場合、会社は行為

   者に対し、会社の就業規則に沿って必要な懲戒その他の措置を講じる必

   要があります。また、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者を引き

   離すための配置転換や、行為者の謝罪等の措置も講ずる必要があります。

④ 改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等

 の再発防止に向けた措置を講ずること


  → 事実確認の結果、当該パワハラ行為が事実であった場合、または事実

   が確認できなかった場合であっても、労働者に対して職場におけるパワ

   ーハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実

   施することが必要となります。













【まとめ】

 最後に、今回説明したパワハラ対策として企業がしなければいけないことを

まとめると、

 ① ハラスメント全般に対する相談窓口を決定する(至急)

 ② ハラスメントチラシを作成し、すべての職場の職員が目にしやすい場所

  にチラシを貼る(至急)

 ③ 就業規則の懲戒規定にパワハラ(セクハラ、マタハラ、育児ハラスメント

  についても規定)をした場合の懲戒処分を規定する(速やかに)

 ④ 相談窓口の担当者に相談者から相談があった場合の対応方法の研修を実

  施する(遅滞なく)


   対応方法としては、以下の内容をしっかりと担当者に説明する

    ・決して相談者に対して門前払いをしない

    ・相談者から必ず話を聞く

    ・行為者から必ず話を聞く

    ・関係者から話を聞く(場合によって)

    ・事情聴取の結果を相談者に伝える(パワハラがなかったと会社が判

     断した場合はその旨を伝える)

    ・パワハラが事実と会社が判断した場合、被害者に対する配慮措置を

     行う(被害者の配置転換等、出来るだけ被害者の希望に沿うように

     する)

    ・パワハラが事実と会社が判断した場合、加害者(行為者)に対する

     懲戒処分等の措置を行う

    ・再発防止に向けた措置(ハラスメント研修等の実施)を行う


 ⑤ 会社のハラスメント対応に納得しない労働者から訴訟を起こされた場合

  、又は起こされそうな雰囲気を感じた場合は、早急に弁護士に相談する


  → 訴訟に発展しそうな場合や泥沼化しそうな場合はすぐに弁護士さんに

   相談しましょう。

    費用を気にして弁護士さんへの相談が遅れると、状態がより悪化する

   可能性があります!























 

『労働者派遣契約の結び方』をご購入いただいた方は今回の改正後の様式をダウンロードしていただけます!

拙著「労働者派遣契約の結び方」をご購入いただいた方につきましては、令和3年1月と4月に行われた派遣法改正に対応した派遣関係書類を税務経理協会様のホームページからダウンロードしていただけます。

本書は、3年間、大阪労働局の需給調整事業部(派遣法の指導監督を行っている部署)で需給調整事業専門相談員として派遣会社や派遣先の企業、社労士や弁護士の方からの相談業務を担当していた筆者が、労働者派遣法のことが全く分からない方や派遣業務が未経験の方でも簡単に派遣関係書類が作成できるよう、記載例も掲載しわかりやすく解説させていただいています。

派遣元の担当者の方や派遣先の担当者の方、社会保険労務士の先生方など派遣業務に携われる方は是非、ご一読ください!

本書は専門書のため、ジュンク堂書店、紀伊国屋書店等の大型書店にてお買い求めいただけます!





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(資料)

  厚生労働省 「派遣労働者の同一労働同一賃金」サイト

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

 厚生労働省 「労働者派遣事業関係業務取扱要領(2021年4月)」

 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/all.pdf

 厚生労働省 「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(労働者派遣業界編」

 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000501271.pdf

 厚生労働省 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和2年度適用)」

 https://www.mhlw.go.jp/content/000595429.pdf

 厚生労働省 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和3年度適用)」

 https://www.mhlw.go.jp/content/000685419.pdf




妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策

2021年06月28日 | ハラスメント関係


今回も企業のハラスメント対策について解説したいと思います。





企業のハラスメント対策としては、

 ① セクシュアルハラスメント対策(すべての企業で義務化)

 ② 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策(すべての企業で義務化)

 ③ パワーハラスメント対策(令和2年6月1日から大企業が義務化。令和4年

   4月1日から中小企業も義務化)

があります。







今回は、

 ② 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策(すべての企業で義務化)

について解説したいと思います。









ちなみに今回の内容については、下記のパンフレットの内容を解説したものとなりま

す。詳細については下記のパンフレットをご参照ください!



(厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)



今回のブログはかなり長くなりますが、企業にとってハラスメント対策は非常に重要

な内容となるためどうか最後までお付き合いください!











【根拠条文】

 「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策」の根拠条文

は、「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント対策」と「職場における育

児休業等に関するハラスメント対策」の2つに分かれます。

 「職場における妊娠・出産等に関するハラスメント対策」は男女雇用機会均等法

に規定されており、「職場における育児休業等に関するハラスメント対策」は育児

介護休業法に規定されています。

 このように法律は異なるのですが、「職場における妊娠、出産等に関するハラス

メント対策」と「職場における育児休業等に関するハラスメント対策」の取組内容

は殆ど同じ内容となるので、パンフレット等でも一体的な取組として記載されてい

ます。





職場における妊娠、出産等に関するハラスメント対策については、男女雇用機会均等

法第11条の3に以下のとおり規定されています

<男女雇用機会均等法>

(職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)

第11条の3 事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する

当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定

による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことそ

の他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動

により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者から

の相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な

措置を講じなければならない。

2 第11条第2項の規定は、労働者が前項の相談を行い、又は事業主による当該

相談への対応に協力した際に事実を述べた場合について準用する。

<筆者解説>

上記の条文を要約すると、

均等法11条の3第1項では、「会社は女性労働者が妊娠したこと、出産したこと

、労基法第65条第1項の休業(産前休業)を会社に請求したこと、産前産後休業

を取得したこと等に対して、その女性労働者が他の労働者から言動による嫌がらせ

等の被害を受けないようにするため及びもし被害を受けた場合は適切な処置を行う

ための必要な措置を講じなさいよ」

均等法11条の3第2項では、「女性労働者から妊娠したこと、出産したこと、産

前休業を会社に請求したこと、産前産後休業を取得したこと等に対して、その女性

労働者が他の労働者から言動による嫌がらせ等の被害を受けたことを会社に相談し

たことに対して、その女性労働者を罰する等の不利益な取扱いをしてはいけません

よ。

 また、当該嫌がらせの事実関係の確認のために関係者から事情聴取を行った際に

、嫌がらせの事実があったこと等をその関係者が証言したことに対して、会社は証

言を行った者を罰するなどの不利益な取り扱いはしてはいけませんよ」となります

 「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント対策」の対象者は女性労働者

限定となります。また、上司又は同僚からの言動による嫌がらせ等が対象となりま

す。







職場における育児休業等に関するハラスメント対策については、育児介護休業法法

第25条に以下のとおり規定されています

<育児介護休業法>

(職場における育児休業等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置

 等)

第25条 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業

、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又

は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう

、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の

雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対

応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他

不利益な取扱いをしてはならない。

<筆者解説>

上記の条文を要約すると、

育介法25条第1項では、「会社は労働者が育児休業や介護休業等を取得したこと

等に対して、その労働者が他の労働者から言動による嫌がらせ等の被害を受けない

ようにするため及びもし被害を受けた場合は適切な処置を行うための必要な措置を

講じなさいよ」

育介法25条第2項では、「労働者から育児休業や介護休業等を取得したこと等に

対して、その労働者が他の労働者から言動による嫌がらせ等の被害を受けたことを

会社に相談したことに対して、その労働者を罰する等の不利益な取扱いをしてはい

けませんよ。また、当該嫌がらせの事実関係の確認のために関係者から事情聴取を

行った際に、嫌がらせの事実があったこと等をその関係者が証言したことに対して

、会社は証言を行った者を罰するなどの不利益な取り扱いはしてはいけませんよ」

となります。

 「職場における育児休業等に関するハラスメント対策」の対象者は男女労働者

となります。これは、育児休業・介護休業等は女性労働者のみならず男性労働者

も取得できるためです。また、上司又は同僚からの言動による嫌がらせ等が対象

となります。



















【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの対象企業】

 中小企業、大企業、個人事業主、法人等、労働者を雇用するすべての事業主はこ

れから説明する妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策を講じる義務が

あります。

 講じていない場合は行政からの指導を受ける可能性があります!



















【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの定義】

 では、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」とは何かというと『職

場(※1)において行われる上司・同僚から(※2)の言動(妊娠・出産したこと

、育児休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した女性労働者(※3)や

、育児休業等を申出・取得した男女労働者(※3)の就業環境が害されること』を

いいます。

 なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的に見て、業務上の必要性に基づ

く言動によるものはハラスメントには該当しません。

<筆者解説>

 つまり、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、「職場で、労働者

が妊娠や出産後の体調不良等により業務を行えないことや、産前産後休業や育児休

業、介護休業等の制度を利用したことにより上司や同僚から受けた言動により被っ

た精神的・肉体的被害」のことをいいます。



※1 「職場」とは「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働

   者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する

   場所であれば「職場に」含まれます。

※2 加害者となる労働者は、「セクハラ対策」のところでは「事業主や上司、同

   僚に限らず、取引先の労働者等も含む」としていましたが、「妊娠・出産・

   育児休業等に関するハラスメント」では、「上司又は同僚」となります。

※3 被害者となる「労働者」とは「正規雇用労働者のみならず、パートタイム労

   働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、会社が雇用する全て

   の労働者」をいいます。

    また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も

   自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。

   (労働者派遣法第47条の2、労働者派遣法第47条の3)

    さらに、事業主は自社が雇用する労働者のみならず、個人事業主、インタ

   ーンシップを行っている者、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学

   生等に対する自社の労働者の言動についても妊娠・出産等に関するハラスメ

   ント防止措置をとることが望ましいとされています。

   <筆者解説>

    派遣労働者については、就業先が派遣先となるため、妊娠・出産・育児休

   業等に関するハラスメントについても派遣先で発生する可能性があり、もし

   、派遣労働者から妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの相談を派

   遣元責任者や派遣元の営業担当者が受けた場合であっても、派遣元は派遣先

   と連携し、両社で妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策を行わ

   なければいけません。

    もし、派遣元・派遣先が後で説明する妊娠・出産・育児休業等に関するハ

   ラスメント対策を怠っていた場合は男女雇用機会均等法又は育児介護休業法

   違反として行政から指導を受ける可能性があります。

    また、自社の労働者以外の「請負関係にある個人事業主」や「インターン

   シップ制度によって受け入れている者」「取引先の労働者」「就職活動のた

   めOB訪問に来ている就活生」等に対しても、妊娠・出産等に関するハラス

   メント対策の対象となる自社の労働者ではないものの、自社の労働者がこれ

   らの者に対して、もし妊娠・出産等に関するハラスメントをした場合、当然

   、自社に対して社会的責任の追及が及ぶ可能性も高いため、自社の責任とし

   て妊娠・出産等に関するハラスメント対策の対象することが望ましいとして

   います。

















【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの種類】

「職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」は大きく分けると

1⃣ 制度等の利用への嫌がらせ型

2⃣ 状態への嫌がらせ型

の2つに分類されます。





1⃣ 制度等の利用への嫌がらせ型

 次に掲げる制度又は措置(制度等)の利用に関する言動により就業環境が害され

るものをいいます。

【男女雇用機会均等法が対象とする制度又は措置】

 ① 産前休業

 ② 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)

 ③ 軽易な業務への転換

 ④ 変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び

   休日労働の制限並びに深夜業の制限

 ⑤ 育児時間

 ⑥ 坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限

【育児介護休業法が対象とする制度又は措置】

 ① 育児休業

 ② 介護休業

 ③ 子の看護休暇

 ④ 介護休暇

 ⑤ 所定外労働の制限

 ⑥ 時間外労働の制限

 ⑦ 深夜業の制限

 ⑧ 育児のための所定労働時間の短縮措置

 ⑨ 始業時刻変更等の措置

 ⑩ 介護のための所定労働時間の短縮等の措置

【ハラスメントの内容】

 上記の男女雇用機会均等法又は育児介護休業法に規定する制度・措置を労働者が

利用したことに対し、下記の(1)~(3)のハラスメントを行った場合に、『制

度等の利用への嫌がらせ型』に該当します。

(1) 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの

    労働者が、制度等の利用の請求等(措置の求め、請求または申出をいう)

   をしたい旨を上司に相談したことや制度等の利用の請求等をしたこと、制度

   等の利用をしたことにより、上司がその労働者に対し、解雇その他不利益な

   取扱いを示唆することです。

   ● 典型的な例

    ・ 産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みを取るならやめても

      らう」と言われた。

    ・ 時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は

      昇進しないと思え」と言われた。

   <筆者解説>

    ここは、「解雇その他不利益な取扱いを示唆したこと」がポイントとなり

   ます。例えば『制度の利用を労働者が上司に相談したことに対して、上司か

   ら「休みを取るならやめてもらう」と言われた』というように、実際に不利

   益な取扱いを行う前に上司が部下の労働者に対して制度の利用をさせないよ

   う示唆した場合は妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当しま

   す。

    ちなみに、『示唆』ではなく、妊娠・出産・育児休業等の利用を申し出た

   ことによる、

    ① 解雇すること

    ② 期間雇用者の契約更新をしないこと

    ③ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数

      を引き下げること

    ④ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするよう

      な労働契約内容の変更を強要すること

    ⑤ 降格させること

    ⑥ 就業環境を害すること

    ⑦ 不利益な自宅待機を命ずること

    ⑧ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと

    ⑨ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと

    ⑩ 不利益な配置の変更を行うこと

    ⑪ 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係

      る労働者派遣の役務の提供を拒むこと

   は、ハラスメントではなく、労働者に対する不利益な取扱いとして、男女雇

   用機会均等法第9条第3項、育児介護休業法第10条等で禁止されており、

   もし会社が上記のような不利益な取扱いを労働者に対して行った場合は、行

   政から指導を受ける可能性が高くなります。

    妊娠、出産、育児休業等を契機としたこれらの不利益取扱いは、妊娠、出

   産、育児休業等を取得したのち1年以内に行われた場合は契機としたものと

   みなされます。

(2) 制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの

    以下のような言動が該当します。

     ① 労働者が制度等の利用の請求をしたい旨を上司に相談したところ、

       上司がその労働者に対し、請求をしないように言うこと

     ② 労働者が制度の利用の請求をしたところ、上司がその労働者に対し

       、請求を取り下げるように言うこと

     ③ 労働者が制度の利用の請求をしたい旨を同僚に伝えたところ、同僚

       がその労働者に対し、繰り返し又は継続的に、請求をしないように

       言うこと

     ④ 労働者が制度利用の請求をしたところ、同僚がその労働者に対し、

       繰り返し又は継続的に請求等を取り下げるよう言うこと

   ● 典型的な例

    ・ 育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休

      業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない

      状況になっている

    ・ 介護休業について請求する旨を周囲に伝えたところ、同僚から「自分

      なら請求しない。あなたもそうすべき」と言われた。「でも自分は請

      求したい」と再度伝えたが、再度、同様の発言をされ、取得を諦めざ

      るを得ない状況になっている

(3) 制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの

    労働者が、制度等の利用をしたところ、上司・同僚がその労働者に対し、

   繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすることをいいます。

    「嫌がらせ等」とは、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、又は

   専ら雑務に従事させることをいいます。

   ● 典型的な例

    ・ 上司・同僚が「所定外労働の制限(残業を拒否できる制度)をしてい

      る人にはたいした仕事はさせられない」と繰り返し又は継続的に言い

      、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業するうえで看過で

      きない程度の支障が生じている

    ・ 上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えてい

      ない。迷惑だ」と繰り返し又は継続的に言い、就業をする上で看過で

      きない程度の支障が生じている。



2⃣ 状態への嫌がらせ型

 女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害さ

れるものをいいます。

【対象となる事由】

 ① 妊娠したこと

 ② 出産したこと

 ③ 産後の就業制限の規定により就業できず、又は産後休業をしたこと

 ④ 妊娠または出産に起因する症状(つわり、妊娠悪阻、切迫流産、出産後の回

   復不全等、妊娠または出産をしたことに起因して妊産婦に生じる症状)によ

   り労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下

   したこと

 ⑤ 坑内業務の就業制限若しくは危険有害業務の就業制限の規定により業務に就

   くことができないこと又はこれらの業務に従事しなかったこと

【ハラスメントの内容】

 上記の対象となる事由に労働者が該当した場合で、下記の(1)(2)のハラス

メントを行った場合に、『状態への嫌がらせ型』に該当します。

(1) 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの

    女性労働者が妊娠等したことにより、上司がその女性労働者に対し、解雇

   その他の不利益な取扱いを示唆することです。

   ● 典型的な例

    ・ 上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらう

      しかない」と言われた。

   <筆者解説>

    ここは、「解雇その他不利益な取扱いを示唆したこと」がポイントとなり

   ます。例えば『上司に妊娠を報告したところ、上司から「他の人を雇うので

   早めに辞めてもらう」と言われた』というように、実際に不利益な取扱いを

   行う前に上司が部下の労働者に対して不利益な取扱いをする可能性があるこ

   とを示唆した場合は妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当し

   ます。    

    ちなみに、『示唆』ではなく、妊娠・出産・育児休業等の利用を申し出た

   ことによる、

    ① 解雇すること

    ② 期間雇用者の契約更新をしないこと

    ③ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数

      を引き下げること

    ④ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規雇用社員とするよう

      な労働契約内容の変更を強要すること

    ⑤ 降格させること

    ⑥ 就業環境を害すること

    ⑦ 不利益な自宅待機を命ずること

    ⑧ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと

    ⑨ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと

    ⑩ 不利益な配置の変更を行うこと

    ⑪ 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係

      る労働者派遣の役務の提供を拒むこと

   は、ハラスメントではなく、労働者に対する不利益な取扱いとして、男女雇

   用機会均等法第9条第3項で禁止されており、もし会社が上記のような不利

   益な取扱いを労働者に対して行った場合は、行政から指導を受ける可能性が

   高くなります。

    妊娠、出産、育児休業等を契機としたこれらの不利益取扱いは、妊娠、出

   産、育児休業等を取得したのち1年以内に行われた場合は契機としたものと

   みなされます。

(2) 妊娠等をしたことにより嫌がらせ等をするもの

    女性労働者が妊娠等したことにより、上司・同僚がその女性労働者に対し

   、繰り返し又は継続的に嫌がらせ等をすること。

   ● 典型的な例

    ・ 上司・同僚が「妊婦はいつ休むか分からないから仕事は任せられない

      」と繰り返し又は継続的に言い、仕事をさせない状況となっており、

      就業をする上で看過できない程度の支障が生じている

    ・ 上司・同僚が「妊娠するなら忙しい時期を避けるべきだった」と繰り

      返し又は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生

      じている















【妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの判断

 基準】

 部下が休業するとなると、上司としては業務の調整を行う必要があります。妊娠

中に医師等から休業指示が出た場合のように、労働者の体調を考慮してすぐに対応

しなければならない休業について、「業務が回らないから」といった理由で上司が

休業を妨げる場合はハラスメントに該当します

 しかし、ある程度調整が可能な休業等(例えば、定期的な妊婦検診の日時)につ

いて、その時期を調整することが可能か労働者の意向を確認するといった行為まで

がハラスメントとして禁止されるものではありません。

 ただし、労働者の意を汲まない一方的な通告はハラスメントとなる可能性があり

ますので注意してください。

【ハラスメントに該当しない業務上の必要性に基づく言動の具体例】

 ① 「制度等の利用」に関する言動の例

   ・ 業務体制を見直すため、上司が育児休業をいつからいつまで取得するの

     か確認すること

   ・ 業務状況を考えて、上司が「次の妊婦検診はこの日は避けてほしいが調

     整できるか」と確認すること

   ・ 同僚が自分の休暇との調整をする目的で休業の期間を尋ね、変更を相談

     すること

   ※ 制度等の利用を希望する労働者に対する変更の依頼や相談は強要しない

     場合に限られます

 ② 「状態」に関する言動の例

   ・ 上司が、長時間労働をしている妊婦に対して、「妊婦には長時間労働は

     負担が大きいだろうから、業務分担の見直しを行い、あなたの残業量を

     減らそうと思うがどうか」と配慮する

   ・ 上司・同僚が「妊婦には負担が大きいだろうから、もう少し楽な業務に

     変わってはどうか」と配慮する。

   ・ 上司・同僚が「つわりで体調が悪そうだが、少し休んだ方が良いのでは

     」と配慮する

<筆者解説>

 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当するかどうかは、被害を受

けた労働者が訴訟を起こし裁判で判決が出て初めて確定します。

 つまり、それまでは行政であっても妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメン

トに該当するかどうかは判断できません。

 では、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策として企業が行わなけ

ればならないことは何かというと、後で説明する「職場における妊娠・出産・育児

休業等に関するハラスメントを防止するための措置」及び「職場における妊娠・出

産・育児休業等に関するハラスメントが発生した際の対応」について男女雇用機会

均等法第11条の3第1項及び育児介護休業法第25条第1項で定めています。

 したがって、企業が労働者から妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント相

談を受けた場合はまずは、法律に沿った対応を行うことが重要となります。

 法に沿った対応の結果、企業が「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

はなかった」という結論を出しても法律違反とはなりません。

 企業の結論に対して納得できない場合は労働者が訴訟を提起してくる可能性もあ

りますが、訴訟になった場合は、改めて、企業は妊娠・出産・育児休業等に関する

ハラスメントがなかったことを証明すればいいのです。

 また、訴訟になった場合であっても、企業が法に沿った妊娠・出産・育児休業等

に関するハラスメント対策が取られていなかった場合は、そのことも判決に影響し

てくる可能性があります。

 まず、企業がしなければいけないことは、今から説明する「妊娠・出産・育児休

業等に関するハラスメント防止措置を実施する」ということになります。















【企業が実施しなければいけない妊娠・出産・育児休業等に

 関するハラスメント防止措置】

 企業が実施しなければいけない妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防

止措置は、大きく分けて次の2つに分類されます

(1)今すぐに実施しなければいけない事項

(2)労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなければいけない

   事項



(1)今すぐに実施しなければいけない事項

 企業がセクハラ防止措置としてすぐに実施しなければいけない事項は次の6項

目となります。

① 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの内容、妊娠・出産・育児休業

 等に関する否定的な言動が職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラス

 メントの発生原因や背景となり得ること、妊娠・出産・育児休業等に関するハラ

 スメントを行ってはならない旨の方針、制度等の利用ができることを明確化し、

 管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること

  → 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは具体的にどういうこと

   を指すのか、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動が職場における

   妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生原因や背景となり得る

   こと、制度等の利用ができること、会社として妊娠・出産・育児休業等に関

   するハラスメントは絶対許さないという意思表示についてチラシ等を作成し

   、自社のすべての労働者に周知します。

    周知方法については、就業規則のように、作成したものをファイルに入れ

   て保管し「誰でも見ていいよ」というような周知方法ではなく、すべての労

   働者の目に必ず触れるような周知方法(すべての事業所において、そこに就

   業するすべての労働者が目にする場所にチラシを貼付する方法やすべての労

   働者にそのチラシをメールで送信する方法等)が必要とされています。   

② 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの行為者について厳正に対処す

 る旨の方針・対処の内容を就業規則に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・

 啓発すること

  → 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの行為者に対し厳正に対処

   する旨の方針及び具体的な処分方法をチラシ等に記載し、自社のすべての労

   働者に周知します。

    また、実際に行為者を処分するために会社の懲戒規定に妊娠・出産・育児

   休業等に関するハラスメントを行った者に対する処分内容を規定します。

    懲戒規定の記載例については上記、厚生労働省「職場におけるパワー

   ハラスメント対策が事業主の義務になりました!」パンフレットのp38

   を参照ください!

③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

  → 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの相談窓口を設置((例)

   相談窓口:人事課長)し、チラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知

   します。

    相談窓口が形式的なものしか設置しておらず、実際の相談ができないよう

   な場合は、相談窓口を設置していないとして行政から指導を受ける可能性が

   あります。

    相談窓口担当者は「人事課」など、組織全体としても構いませんが、組織

   全体とする場合、その組織のすべての労働者が相談対応できない場合も、相

   談窓口を適正に設置していないとして行政から指導を受ける可能性がありま

   す。

    相談者の個人情報も扱うことから相談窓口の担当者は一定以上の役職者と

   しておいたほうがよいでしょう。

④ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントにに該当するか否か微妙な場合

 であっても、広く相談に対応すること

  → 相談窓口担当者が相談者に対し門前払いをしたり、しっかりと話を聞

   かなかった場合は適正に相談対応していないとして行政からの指導を受

   ける可能性があります。したがって、相談窓口担当者は相談者からの相

   談に些細なことでも耳を傾け相談対応に当たる旨を、チラシ等に記載し

   、自社のすべての労働者に周知します。

⑤ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周

 知すること

  → 相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属

   するものであることから、相談及び事後の対応に当たっては、相談者・

   行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じる旨を、チ

   ラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。

⑥ 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局

 の援助制度の利用等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を

 定め、労働者に周知・啓発すること

  → 労働者が妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント相談をしたこ

   と、事業主からの事実関係の確認に協力したこと、労働局の紛争解決援

   助制度(労働局が実施するあっせん制度や調停制度)を労働者が利用し

   たことを理由として解雇やその他の不利益な取扱いを労働者にしない旨

   をチラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。

上記のチラシ例は以下のような感じになります。



(大阪労働局「ハラスメントは許しません!チラシ例(改正法対応(パワハラ含む)、Powerpoint、イラスト入り)

(令和2年6月更新)」)



(2)労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなけれ

   ばいけない事項

 企業が労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなければいけな

い事項は次の5項目となります

① 事実関係を迅速かつ正確に確認すること

  → 労働者から相談を受けた相談窓口担当者は早急に、相談者及び行為者

   から事情を確認しなければいけません。

    相談者と行為者との主張が不一致であり、事実確認が十分にできない

   と認められる場合は第三者からも事実確認を行う必要があります。

    相談者から相談を受けたにもかかわらず、門前払いをしたり、相談者

   や行為者から事情確認もせず、「妊娠・出産・育児休業等に関するハラ

   スメントには該当しない」と相談窓口担当者が判断することは事実関係

   を迅速かつ正確に確認していないとして、行政から指導を受ける可能性

   があります。

    相談者、行為者とされる者及び第三者からの事情確認の結果、「妊娠

   ・出産・育児休業等に関するハラスメントに該当しない」とする結論を

   会社が相談者に伝えることは法律上、特に問題ありません!

② 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に

 行うこと

  → 事実確認の結果、当該妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

   行為が事実であった場合、会社は被害者と行為者を引き離すための配置

   転換や、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復等の適正な

   措置を講じる必要があります。

③ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと

  → 事実確認の結果、当該妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

   行為が事実であった場合、会社は行為者に対し、会社の就業規則に沿っ

   て必要な懲戒その他の措置を講じる必要があります。また、事案の内容

   や状況に応じ、被害者と行為者を引き離すための配置転換や、行為者の

   謝罪等の措置も講ずる必要があります。

④ 改めて職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントに関す

 る方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講ずること

  → 事実確認の結果、当該妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

   行為が事実であった場合、または事実が確認できなかった場合であって

   も、労働者に対して職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラ

   スメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改めて実施する

   ことが必要となります。

⑤ 職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの原因や背景

 となる要因を解消するための措置を講ずること

  → 事業主は、職場における育児休業等に関するハラスメントの原因や背

   景となる要因を解消するため、業務体制の整備など、事業主や制度等の

   利用を行う労働者その他の労働者の実情に応じ、必要な措置を講じなけ

   ればならないこと(派遣労働者にあっては、派遣元事業主に限る)

 <筆者解説>

  ⑤の規定はセクハラ対策やパワハラ対策には無い取組となります。

  妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因には、妊娠し

 た労働者がつわり等の体調不良のため労務の提供ができないことや、労働能

 率が低下すること等により、周囲の労働者の業務負担が増大することなどが

 考えられます。

  そのため、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを予防するため

 に、妊娠等した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切

 な業務分担の見直しや、業務の点検を行い、業務の効率化を図ることを会社

 に義務付けています。











【まとめ】

 最後に、今回説明した妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策と

して企業がしなければいけないことをまとめると、

 ① ハラスメント全般に対する相談窓口を決定する(至急)

 ② ハラスメントチラシを作成し、すべての職場の職員が目にしやすい場所

  にチラシを貼る(至急)

 ③ 就業規則の懲戒規定に妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

  (セクハラ、パワハラについても規定)をした場合の懲戒処分を規定する

  (速やかに)

 ④ 相談窓口の担当者に相談者から相談があった場合の対応方法の研修を実

  施する(遅滞なく)

   対応方法としては、以下の内容をしっかりと担当者に説明する

    ・決して相談者に対して門前払いをしない

    ・相談者から必ず話を聞く

    ・行為者から必ず話を聞く

    ・関係者から話を聞く(場合によって)

    ・事情聴取の結果を相談者に伝える(セクハラがなかったと会社が判

     断した場合はその旨を伝える)

    ・セクハラが事実と会社が判断した場合、被害者に対する配慮措置を

     行う(被害者の配置転換等、出来るだけ被害者の希望に沿うように

     する)

    ・セクハラが事実と会社が判断した場合、加害者(行為者)に対する

     懲戒処分等の措置を行う

    ・再発防止に向けた措置(ハラスメント研修等の実施)を行う

 ⑤ 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを予防するために、妊娠

  等した労働者の周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう、適切な業務

  分担の見直しや、業務の点検を行い、業務の効率化を図る

 ⑥ 会社のハラスメント対応に納得しない労働者から訴訟を起こされた場合

  、又は起こされそうな雰囲気を感じた場合は、早急に弁護士に相談する

  → 訴訟に発展しそうな場合や泥沼化しそうな場合はすぐに弁護士さんに

   相談しましょう。

    費用を気にして弁護士さんへの相談が遅れると、状態がより悪化する

   可能性があります!

















 

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(資料)

  厚生労働省 「派遣労働者の同一労働同一賃金」サイト

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

 厚生労働省 「労働者派遣事業関係業務取扱要領(2021年4月)」

 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/all.pdf

 厚生労働省 「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(労働者派遣業界編」

 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000501271.pdf

 厚生労働省 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和2年度適用)」

 https://www.mhlw.go.jp/content/000595429.pdf

 厚生労働省 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和3年度適用)」

 https://www.mhlw.go.jp/content/000685419.pdf





セクハラ対策

2021年06月28日 | ハラスメント関係
今回から企業のハラスメント対策について数回にわたって説明したいと思います。



企業のハラスメント対策としては、

 ① セクシュアルハラスメント対策(すべての企業で義務化)

 ② 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策(すべての企業で義務化)

 ③ パワーハラスメント対策(令和2年6月1日から大企業が義務化。令和4年

   4月1日から中小企業も義務化)

があります。




今回は、

 ① セクシュアルハラスメント対策(すべての企業で義務化)

について解説したいと思います。







ちなみに今回の内容については、下記のパンフレットの内容を解説したものとなりま

す。詳細については下記のパンフレットをご参照ください!



(厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)



今回のブログはかなり長くなりますが、企業にとってハラスメント対策は非常に重要

な内容となるためどうか最後までお付き合いください!





【根拠条文】

職場におけるセクシュアルハラスメント対策については、男女雇用機会均等法

第11条に以下のとおり規定されています

<男女雇用機会均等法>

(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第11条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働
者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言
動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談
に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を
講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対
応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他
不利益な取扱いをしてはならない。
3 事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第一項の措置の実施に関し必要
な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。


<筆者解説>

上記の条文は要約すると、

均等法11条第1項では、「会社は労働者がセクハラの被害を受けないようにする

ため及びもし被害を受けた場合は適切な処置を行うための必要な措置を講じなさい

よ」

均等法11条第2項では、「会社は、労働者からセクハラの相談を受けたことに対

してその相談をした労働者を罰する等の不利益な取扱いをしてはいけませんよ。ま

た、セクハラの事実関係の確認のために関係者から事情聴取を行った際に、セクハ

ラの事実があったこと等をその関係者が証言したことに対して、会社は証言を行っ

た者を罰するなどの不利益な取り扱いはしてはいけませんよ」

均等法11条第3項では、「自社(A社)の労働者等が他社(B社)の労働者にセ

クシュアルハラスメントを行ったとして、B社から事実確認や再発防止に向けた協

力依頼があった場合、A社はB社の依頼にできるだけ応ずるように努めなさいよ」

となります。





【セクハラ対策の対象企業】

 中小企業、大企業、個人事業主、法人等、労働者を雇用するすべての事業主はこ

れから説明するセクハラ対策を講じる義務があります。

 講じていない場合は行政からの指導を受ける可能性があります!






【セクシュアルハラスメントの定義】

では、「職場におけるセクシュアルハラスメント」とは何かというと『職場(※1

)において行われる、労働者(※2)の意に反する性的な言動(※3)に対する労

働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動に

より就業環境が害されること』をいいます。

(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の1)

<筆者解説>

 つまり、職場におけるセクシュアルハラスメントとは、「職場で、労働者が他の

労働者等から受けた性的な言動により被った精神的・肉体的被害及び当該性的言動

に対し不快感や拒否したことによる加害者からの嫌がらせ」のことをいいます。



※1 「職場」とは「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、労働

   者が通常就業している場所以外の場所であっても、労働者が業務を遂行する

   場所であれば「職場に」含まれます。

   (「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2

      (2))


    勤務時間外の「懇親の場」、社員寮や通勤中などであっても、実質上職務

   の延長と考えられるものは「職場」に該当しますが、その判断に当たっては

   、職場との関連性、参加者、参加や対応が強制的か任意かといったことを考

   慮して個別に判断されます(上記のほかにも、「出張先」「業務で使用する

   車中」「取引先との打ち合わせの場所(接待の席も含む)」等)

   <筆者解説>

    人事等のハラスメント対応に当たる方は、プライベートで起こったことだ

   から対応は不要と考えず、基本的には労働者からセクハラの申し出があれば

   対応しなければいけないものと認識しておいたほうが無難でしょう

※2 被害者となる「労働者」とは「正規雇用労働者のみならず、パートタイム労

   働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、会社が雇用する全て

   の労働者」をいいます。

    また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も

   自ら雇用する労働者と同様に、措置を講ずる必要があります。


   (「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2

      (3))

   (労働者派遣法第47条の2)


    さらに、事業主は自社が雇用する労働者のみならず、個人事業主、インタ

   ーンシップを行っている者、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学

   生等
に対する自社の労働者の言動についてもセクハラ防止措置をとることが

   望ましいとされています。

   (「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の7)

   <筆者解説>

    派遣労働者については、就業先が派遣先となるため、セクハラについても

   派遣先で発生する可能性があり、もし、派遣労働者からセクハラ相談を派遣

   元責任者や派遣元の営業担当者が受けた場合であっても、派遣元は派遣先と

   連携し、両社でセクハラ対策を行わなければいけません。

    もし、派遣元・派遣先が後で説明するセクハラ対策を怠っていた場合は男

   女雇用機会均等法違反として行政から指導を受ける可能性があります。


    また、自社の労働者以外の「請負関係にある個人事業主」や「インターン

   シップ制度によって受け入れている者」「取引先の労働者」「就職活動のた

   めOB訪問に来ている就活生」等に対しても、セクハラ対策の対象となる自

   社の労働者ではないものの、自社の労働者がこれらの者に対して、もしセク

   ハラをした場合、当然、自社に対して社会的責任の追及が及ぶ可能性も高い

   ため、自社の責任としてセクハラ対策の対象することが望ましいとしていま

   す。

※3 「性的な言動」とは「性的な内容の発言及び性的な行動」をいいます。

   【性的な言動の例】

    ① 性的な内容の発言

      性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を流布するこ

      と、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な

      性的体験談を話すことなど

    ② 性的な言動

      性的な関係を強要すること、必要なく身体へ接触すること、わいせつ

      図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為など

   (「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2

      (4))


※4 「性的な言動を行う者」とは、事業主、上司、同僚に限らず、取引先等の他

   の事業主又はその雇用する労働者、顧客、患者又はその家族、学校における

   生徒等もなり得ます。

   (「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2

      (4))


    男女とも行為者にも被害者にもなり得ますし、異性に対するものだけでは

   なく、同性に対するものも該当します。

    また、被害を受ける者の性的志向や性自認にかかわらず、「性的な言動」

   であれば、セクシュアルハラスメントに該当します。

   <筆者解説>

    職場におけるセクシュアルハラスメントの加害者は上司や同僚、部下のほ

   か、取引先の営業マンや顧客、病院における患者や学校における生徒等も対

   象となるため、自社の雇用する労働者から例えば「取引先の営業マンからし

   つこくデートの誘いを受けて困っている」という相談を会社が受けた場合は

   、それに対して法に沿った対応をしなければ法律違反として行政から指導を

   受ける可能性があります。

    また、性的志向(恋愛対象となる性。異性愛、同性愛、両性愛)や性自認

   (自分の性の認識。こころの性別)にかかわらず、性的な言動を行った場合

   はセクシュアルハラスメントに該当する可能性があります。





【セクシュアルハラスメントの種類】

「職場におけるセクシュアルハラスメント」は大きく分けると

 ① 対価型セクシュアルハラスメント

 ② 環境型セクシュアルハラスメント

の2つに分類されます。

① 対価型セクシュアルハラスメント

 労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、

 その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象から

 の除外、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けること

 ● 典型的な例

  ・事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否

   されたため、その労働者を解雇すること

  ・出張中の車中において上司が労働者の腰、胸などに触ったが、抵抗された

   ため、その労働者について不利益な配置転換をすること

  ・営業所内において事業主が日ごろから労働者に係る性的な事柄について公

   然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格すること

   (「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2

      (5))

② 環境型セクシュアルハラスメント

 労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなった

 ため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業する上で看過

 できない程度の支障が生じること

 ● 典型的な例

  ・事務所内において上司が労働者の腰、胸などに度々触ったため、その労働

   者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること

  ・同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的

   に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと

  ・労働者が抗議をしているにもかかわらず、同僚が業務に使用するパソコン

   でアダルトサイトを閲覧しているため、それを見た労働者が苦痛に感じて

   業務に専念できないこと。

   (「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」の2

      (6))





【セクハラの判断基準】

 セクシュアルハラスメントの状況は多様であり、判断に当たり個別の状況を斟

酌する必要があります。また、「労働者の意に反する性的な言動」及び「就業環

境を害される」の判断に当たっては、労働者の主観を重視しつつも、事業主の防

止のための措置義務の対象となることを考えると一定の客観性が必要です。

 一般的には意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、一

回でも就業環境を害することとなり得ます。継続性又は繰り返しが要件となるも

のであっても、「明確に抗議しているにもかかわらず放置された状態」又は「心

身に重大な影響を受けていることが明らかな場合」には、就業環境が害されてい

ると判断し得るものです。また、男女の認識の違いにより生じている面があるこ

とを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働

者の感じ方」を基準都市、被害を受けた労働者が男性である場合には「平均的な

男性労働者の感じ方」を基準とすることが適当です。

<筆者解説>

 セクシュアルハラスメントに該当するかどうかは、被害を受けた労働者が訴訟

を起こし裁判で判決が出て初めて確定します。

 つまり、それまでは行政であってもセクハラに該当するかどうかは判断できま

せん。

 では、セクハラ対策として企業が行わなければならないことは何かというと、

後で説明する「セクハラを防止するための措置」及び「セクハラが発生した際の

対応」について男女雇用機会均等法第11条第1項で定めています。


 したがって、企業が労働者からセクハラ相談を受けた場合はまずは、法律に沿

った対応を行うことが重要となります。

 法に沿った対応の結果、企業が「セクハラはなかった」という結論を出しても

法律違反とはなりません。


 企業の結論に対して納得できない場合は労働者が訴訟を提起してくる可能性も

ありますが、訴訟になった場合は、改めて、企業はセクハラがなかったことを証

明すればいいのです。

 また、訴訟になった場合であっても、企業が法に沿ったセクハラ対策が取られ

ていなかった場合は、そのことも判決に影響してくる可能性があります。

 まず、企業がしなければいけないことは、今から説明する「セクハラ防止措置

を実施する」ということになります。









【企業が実施しなければいけないセクハラ防止措置】

 企業が実施しなければいけないセクハラ防止措置は、大きく分けて次の2つ

に分類されます

(1)今すぐに実施しなければいけない事項

(2)労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなければいけない

   事項



(1)今すぐに実施しなければいけない事項

 企業がセクハラ防止措置としてすぐに実施しなければいけない事項は次の6

項目となります

① セクシュアルハラスメントの内容、セクシュアルハラスメントを行っては

 ならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発するこ

 と

  → セクハラとは具体的にどういうことを指すのか、会社としてセクハラ

   は絶対許さないという意思表示についてチラシ等を作成し、自社のすべ

   ての労働者に周知します。

    周知方法については、就業規則のように、作成したものをファイルに

   入れて保管し「誰でも見ていいよ」というような周知方法ではなく、す

   べての労働者の目に必ず触れるような周知方法(すべての事業所におい

   て、そこに就業するすべての労働者が目にする場所にチラシを貼付する

   方法やすべての労働者にそのチラシをメールで送信する方法等)が必要

   とされています。   

② セクシュアルハラスメントの行為者について厳正に対処する旨の方針・対

 処の内容を就業規則に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発するこ

 と

  → セクハラの行為者に対し厳正に対処する旨の方針及び具体的な処分方

   法をチラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。

    また、実際に行為者を処分するために会社の懲戒規定にセクハラを行

   った者に対する処分内容を規定します

    懲戒規定の記載例については上記、厚生労働省「職場におけるパワー

   ハラスメント対策が事業主の義務になりました!」パンフレットのp38

   を参照ください!

③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること

  → セクハラの相談窓口を設置((例)相談窓口:人事課長)し、チラシ

   等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。

    相談窓口が形式的なものしか設置しておらず、実際の相談ができない

   ような場合は、相談窓口を設置していないとして行政から指導を受ける

   可能性があります。

    相談窓口担当者は「人事課」など、組織全体としても構いませんが、

   組織全体とする場合、その組織のすべての労働者が相談対応できない場

   合も、相談窓口を適正に設置していないとして行政から指導を受ける可

   能性があります。

    相談者の個人情報も扱うことから相談窓口の担当者は一定以上の役職

   者としておいたほうがよいでしょう。

④ 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること。

 セクシュアルハラスメントにに該当するか否か微妙な場合であっても、広く

 相談に対応すること

  → 相談窓口担当者が相談者に対し門前払いをしたり、しっかりと話を聞

   かなかった場合は適正に相談対応していないとして行政からの指導を受

   ける可能性があります。したがって、相談窓口担当者は相談者からの相

   談に些細なことでも耳を傾け相談対応に当たる旨を、チラシ等に記載し

   、自社のすべての労働者に周知します。

⑤ 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周

 知すること

  → 相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属

   するものであることから、相談及び事後の対応に当たっては、相談者・

   行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じる旨を、チ

   ラシ等に記載し、自社のすべての労働者に周知します。

⑥ 事業主に相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局

 の援助制度の利用等を理由として解雇その他不利益な取扱いをされない旨を

 定め、労働者に周知・啓発すること

  → 労働者がセクハラ相談をしたこと、事業主からの事実関係の確認に協

   力したこと、労働局の紛争解決援助制度(労働局が実施するあっせん制

   度や調停制度)を労働者が利用したことを理由として解雇やその他の不

   利益な取扱いを労働者にしない旨をチラシ等に記載し、自社のすべての

   労働者に周知します。

上記のチラシ例は以下のような感じになります。



(大阪労働局「ハラスメントは許しません!チラシ例(改正法対応(パワハラ含む)、Powerpoint、イラスト入り)

(令和2年6月更新)」)




(2)労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなけれ

   ばいけない事項

 企業が労働者から相談を受けたとき及び相談終了後に実施しなければいけな

い事項は次の4項目となります

① 事実関係を迅速かつ正確に確認すること

  → 労働者から相談を受けた相談窓口担当者は早急に、相談者及び行為者

   から事情を確認しなければいけません。

    相談者と行為者との主張が不一致であり、事実確認が十分にできない

   と認められる場合は第三者からも事実確認を行う必要があります。

    相談者から相談を受けたにもかかわらず、門前払いをしたり、相談者

   や行為者から事情確認もせず、「セクハラには該当しない」と相談窓口

   担当者が判断することは事実関係を迅速かつ正確に確認していないとし

   て、行政から指導を受ける可能性があります。

    相談者、行為者とされる者及び第三者からの事情確認の結果、「セク

   ハラに該当しない」とする結論を会社が相談者に伝えることは法律上、

   特に問題ありません!

② 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に

 行うこと

  → 事実確認の結果、当該セクハラ行為が事実であった場合、会社は被害

   者と行為者を引き離すための配置転換や、行為者の謝罪、被害者の労働

   条件上の不利益の回復等の適正な措置を講じる必要があります。

③ 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと

  → 事実確認の結果、当該セクハラ行為が事実であった場合、会社は行為

   者に対し、会社の就業規則に沿って必要な懲戒その他の措置を講じる必

   要があります。また、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者を引き

   離すための配置転換や、行為者の謝罪等の措置も講ずる必要があります。

④ 改めて職場におけるセクシュアルハラスメントに関する方針を周知・啓発

 する等の再発防止に向けた措置を講ずること

  → 事実確認の結果、当該セクハラ行為が事実であった場合、または事実

   が確認できなかった場合であっても、労働者に対して職場におけるセク

   シュアルハラスメントに関する意識を啓発するための研修、講習等を改

   めて実施することが必要となります。













【まとめ】

 最後に、今回説明したセクハラ対策として企業がしなければいけないことを

まとめると、

 ① ハラスメント全般に対する相談窓口を決定する(至急)

 ② ハラスメントチラシを作成し、すべての職場の職員が目にしやすい場所

  にチラシを貼る(至急)

 ③ 就業規則の懲戒規定にセクハラ(次回、次々回で説明するマタハラ、育

  児ハラスメント、パワハラについても規定)をした場合の懲戒処分を規定

  する(速やかに)

 ④ 相談窓口の担当者に相談者から相談があった場合の対応方法の研修を実

  施する(遅滞なく)

   対応方法としては、以下の内容をしっかりと担当者に説明する

    ・決して相談者に対して門前払いをしない

    ・相談者から必ず話を聞く

    ・行為者から必ず話を聞く

    ・関係者から話を聞く(場合によって)

    ・事情聴取の結果を相談者に伝える(セクハラがなかったと会社が判

     断した場合はその旨を伝える)

    ・セクハラが事実と会社が判断した場合、被害者に対する配慮措置を

     行う(被害者の配置転換等、出来るだけ被害者の希望に沿うように

     する)

    ・セクハラが事実と会社が判断した場合、加害者(行為者)に対する

     懲戒処分等の措置を行う

    ・再発防止に向けた措置(ハラスメント研修等の実施)を行う

 ⑤ 会社のハラスメント対応に納得しない労働者から訴訟を起こされた場合

  、又は起こされそうな雰囲気を感じた場合は、早急に弁護士に相談する


  → 訴訟に発展しそうな場合や泥沼化しそうな場合はすぐに弁護士さんに

   相談しましょう。

    費用を気にして弁護士さんへの相談が遅れると、状態がより悪化する

   可能性があります!





 今回は、セクハラ対策について説明しましたが、次回の「妊娠・出産・育児

休業等に関するハラスメント対策」「パワーハラスメント対策」も殆ど同じ内

となります。詳細は次回・次々回で説明します!















『労働者派遣契約の結び方』をご購入いただいた方は今回の改正後の様式をダウンロードしていただけます!

拙著「労働者派遣契約の結び方」をご購入いただいた方につきましては、令和3年1月と4月に行われた派遣法改正に対応した派遣関係書類を税務経理協会様のホームページからダウンロードしていただけます。

本書は、3年間、大阪労働局の需給調整事業部(派遣法の指導監督を行っている部署)で需給調整事業専門相談員として派遣会社や派遣先の企業、社労士や弁護士の方からの相談業務を担当していた筆者が、労働者派遣法のことが全く分からない方や派遣業務が未経験の方でも簡単に派遣関係書類が作成できるよう、記載例も掲載しわかりやすく解説させていただいています。

派遣元の担当者の方や派遣先の担当者の方、社会保険労務士の先生方など派遣業務に携われる方は是非、ご一読ください!

本書は専門書のため、ジュンク堂書店、紀伊国屋書店等の大型書店にてお買い求めいただけます!






https://haken-higashitani.com/




(資料)

 厚生労働省 「派遣労働者の同一労働同一賃金」サイト

 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html

 厚生労働省 「労働者派遣事業関係業務取扱要領(2021年4月)」

 https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/haken/youryou_2020/dl/all.pdf

 厚生労働省 「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(労働者派遣業界編」

 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000501271.pdf

 厚生労働省 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和2年度適用)」

 https://www.mhlw.go.jp/content/000595429.pdf

 厚生労働省 「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準(令和3年度適用)」

 https://www.mhlw.go.jp/content/000685419.pdf