羽黒蛇、大相撲について語るブログ

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平成22年・2010年7月場所前 (真石博之)

2010年06月30日 | 相撲評論、真石博之
○若手力士暴行死事件、大麻事件、横綱の暴力沙汰による強制引退に続いての野球賭博事件。昨6日、NHKが「再発防止のための改革の方向性が具体的に見えない」として、テレビで50年以上、ラジオでは80年以上続けてきた生中継の中止を発表し、本7日には警視庁の強制捜査が始まりました。相撲協会と暴力団の関係は、大横綱大鵬が山口組から贈られた化粧まわしをつけたことに象徴されるように、かつては極めて親密で、暴力団が巡業に重く関わっていました。今回は、「うみ」は出しきれるのでしょうか。それにしても武蔵川執行部は、文部科学省の言いなり、外部識者で構成される特別委員会への丸投げと、当事者能力の無さをさらけ出しています。








○協会の経営者である理事(10人)には年寄しかなれない。その年寄には関取(十両以上)しかなれない。その関取はというと、最低でも幕内で年間2000万円、十両で1500万円が協会から支給されているのに、外での食事は後援者が払ってくれる上に、ご祝儀までもらう。『現役時代には協会からの給料に手をつけたことがない』と語った元大関がいました。そして、身のまわりの全てを付け人に面倒みてもらう。こうして、30歳そこそこで引退するまで周囲からチヤホヤされ続けるのです。社会人としての常識を身につける一番大事な時期にスポイルされきっているのです。そういう人たちだけが年寄になり、理事になっていく。だから、相撲協会には常識がないのです。いわゆる「ごっつぁん体質」です。例外として、ともに出羽海を襲名し理事長を務めた出羽ノ花や佐田の山のように、努力をして世間の常識を身につけた経営者がいました。しかし、今はいるとは思えません。








○だとすれば、他の組織でよく行われているように、外部の人の指導や助言を受ければいいのです。ところがです。「『よかた』に耳を貸さないのが、大相撲の世界なんだよ」と言ったのが、理事を長年つとめた北の富士なのですから、実態は、その通りなのです。『よかた』とは「力士出身者ではない人」を蔑んで呼ぶ相撲界の隠語です。「相撲をとったことのない人間に相撲協会のことが分かってたまるか」といった気持が強くあるのです。それが、今回の外部からの理事長代行の選任に対抗して、多くの年寄が放駒を担いで強く抵抗したことにも表れています。








監督官庁である文部科学省からの度重なる要請に相撲協会がしぶしぶ応じて、外部からの理事2人(伊藤滋東大名誉教授と村山弘義元東京高検検事長)と監事(吉野準元警視総監)を加えたのは平成20年の秋になってのことでした。今年2月の朝青龍への引退勧告を主導したのは、これら外部役員でした。そして、今回の野球賭博事件でも、これら3人と特別調査委員会に加わった7人の外部有識者とで結論へと導いたのです。








○結論は、弟子の野球賭博で謹慎となった武蔵川理事長に代って理事長代行に村山弘義氏。野球賭博に深入りした大嶽親方と大関琴光喜は解雇。時津風と阿武松は降格。程度の軽かった(?)幕内の豪栄道、豊ノ島、雅山、豊響、若荒雄、隠岐の海、十両の大道、清瀬海、千代白鵬、春日錦、幕下の普天王、古市らは謹慎処分による出場停止。弟子が野球賭博をした親方は、理事長のほか、理事の出羽海、九重、陸奥をはじめ、八角、阿武松、佐渡ケ嶽、境川、春日野、木瀬、宮城野の11名で、謹慎となりました。








○私を惹きつける大相撲の魅力は「お相撲さん」です。鍛え上げられた並はずれて大きな身体で、裸と裸でぶつかり合う「お相撲さん」です。少年の頃から励んできた長年の稽古の成果を、数秒から長くても数十秒の土俵に賭ける「お相撲さん」です。浴衣に雪駄履き、鬢付け油の香りを漂わせて歩く「お相撲さん」です。やれ「伝統文化」、やれ「神事」、と大相撲を高尚なものと捉える向きもあります。それはそれで結構なのですが、私は単純に「お相撲さん」が好きなのです。そんな「お相撲さん」は、野球賭博はやってはいけませんが、新聞記者がやっているように、仲間内で花札をやっても麻雀をやってもいいのです。でも、その「お相撲さん」が、そのまんま、相撲協会の経営者になってはいけないのです。



 



○経営組織体としての相撲協会の仕事は、ほかのプロスポーツの組織にもあるように、二つに分けて考えるべきでしょう。いまや相撲協会にとって最重要課題のコンプライアンスとか、不正の温床と囁かれる財務、購買、それに事業企画などは、世間の常識を持っている外部からの理事に任せるべきです。力士出身者は「専門職理事」として、弟子の養成、審判、巡業、それに相撲の底辺拡大のための広報などに専念するのです。勿論、理事長も外部の識者に任せる。そんな形に変えないと日本相撲協会は瓦解するでしょう。








○はるか昔のように感じてしまう夏場所のことを少々。



白鵬の強さばかりが目立った5月場所でした。13日目の琴光喜戦では52秒、14日目の琴欧洲戦では1分14秒の長い勝負になりましたが、下半身はまったく揺るがず、危なげのない連続全勝優勝でした。13日目に輪島と並ぶ14回目の優勝を決め、14日目からは輪島ゆずりの黄金の廻しをしめ、千秋楽のインタヴューでは「優勝が早く決まりすぎて、すみません」と余裕を示しました。前回、「落とし穴があるとすれば、それは、おごりでしょう」と書きましたが、先月、ある親方が語ったところでは、「熊ケ谷親方の話を寝そべってきいている」とのこと。25歳の青年横綱はどう成長していくのでしょうか。








○場所前、大関昇進の挨拶回りや行事への参加などに忙殺された把瑠都は、稽古不足の不安を漏らしていましたが、案の定、精彩を欠きました。平幕相手の序盤戦から危なっかしく、相撲内容に見るべき所はありませんでした。それでも初日から何とかかんとか手にした7連勝の貯金で、新大関の場所を10勝5敗と帳尻を合わせました。ところが、他の4大関は揃って9勝止まり。把瑠都が東正大関に座りました。








○野球賭博騒ぎの陰で、学生相撲出身の元小結が二人揃って幕下に陥落しました。幕内326勝の実績を持つ海鵬と同231勝の普天王です。幕下2枚目に下がった29歳の普天王には関取復帰の目が十分あるでしょうが、幕下10枚目まで下がってしまった37歳の海鵬には明らかな衰えが見え、復帰は難しいでしょう。しかも、普天王がすでに年寄株・稲川を取得している(金開山が借りて襲名中)のに対し、海鵬は年寄株を取得していません。同じ八角部屋の北勝力が持つ谷川(一門が違う敷島が借りて襲名中)を借りるか、角界を去るしか道はないようです。年寄株の少ない高砂一門に入ったのが因果か、気の毒な気がします。








○この二人の幕下への陥落に加え、琴光喜の解雇、栃乃洋、玉乃島、岩木山が揃って再び幕内から十両に落ちるなど、学生相撲出身関取の退潮が顕著です。生きのいい若手も見当たりません。学生相撲出身は、最盛時と比べ幕内は9人少ない10人、関取は7人少ない22人になりました。(別紙『学生相撲出身関取』)








○「角聖」の尊称で呼ばれる常陸山が、番付の片側を占領するほどの飛びぬけた大部屋に一代で育て上げたのが出羽海部屋です。理事長制度が出来てからは、常ノ花、出羽ノ花、佐田の山と、歴代の出羽海は欠かさず理事長の椅子に座り、角界一の権勢を誇ってきました。番付面でも常陸山自らが十両に昇進して以来112年間、関取が絶えることがありませんでした。ところが、この名古屋場所では、普天王が幕下に陥落し、遂に関取が消えてしまいました。



今の出羽海(鷲羽山)が平成8年2月に先代(佐田の山)から部屋を継承した時には幕内3人、十両1人と関取が4人いました。以来14年、それを上回ることは一度もなく、今日の事態に至りました。九州場所担当の理事として、他の場所とは比較にならない極端な不入りへの経営努力の不足を指摘されながら、今春の改選でNo.2の事業部長に就任しています。「腐っても出羽海」ですか。



平成22年7月7日



真石 博之

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