北九州戸畑区の牧山小学校に、在籍する6年生全員がメンバーになり、半世紀以上続く「鼓笛隊」がある。学校行事や地域の催しなどで演奏してきた。年が明け、卒業を控えた6年生は後輩に演奏を引き継ぎ、5年生は練習を重ねる毎日だ。初演奏のお披露目は、3月8日の6年生を送る会になる。

 「よく聞いて、タ、タ、タタタタ。いい?」「じゃあ合わせよっか。行くよ、さん、はい」

 1月中旬。牧山小の音楽室には、大太鼓や小太鼓、シンバルの大きな音と、それに負けない子どもたちの声が響いていた。

 練習しているのは、同小の校歌。別の教室ではリコーダーやアコーディオン、体育館では演奏に合わせる旗やポンポンの練習。6年生52人が手取り足取り、5年生39人に演奏や演技を教えていた。

 「こうやって、自分たちでやってくれるからいいですよ」。子どもの間をゆっくりと回りながら指導する同小の元教諭、吉次福男さん(85)が笑顔で話す。定年退職後、週1回ボランティアで指導に訪れている。何度やってもなかなか合わなかったパーカッションがピタリと合った瞬間、子どもたちも吉次さんも「おぉ!」。歓声をあげ、拍手をして喜んだ。

 牧山小の鼓笛隊は吉次さんが同小教諭だった1961年4月に結成。吉次さんによると鼓笛隊は当時、全国各地の学校でつくられていた。校長から、鼓笛隊を作るよう指示を受けた吉次さんには本格的な音楽経験がなかったが、「自分も必死に笛や太鼓を勉強して、子どもたちと一緒にやってきた」という。

 ログイン前の続き鼓笛隊は翌62年9月、若松区戸畑区を結ぶ地元の若戸大橋開通式をはじめ、地域の祭りやイベントで演奏を披露。当初は高学年の有志でつくっていたが、63年からは6年生全員がメンバーになった。存続の危機があったものの、「やめようとすると、地域の人や卒業生から『残してほしい』と猛反対があったようだ」と山田哲司校長は語る。市教委によると、市内で鼓笛隊が残っている小学校は珍しいという。

 毎年12月の終業式では、鼓笛隊を5年生に引き継ぐ「移杖(いじょう)式」がある。ここで6年生は最後の演奏をして指揮棒や衣装のベレー帽、楽器を引き継ぐ。3学期、5年生は6年生を指導役にほぼ毎日練習し、吉次さんも頻繁に指導に訪れる。

 前指揮者の6年生、山本竜輝(たつき)君(12)は入学式で6年生の演奏を見た時から指揮者を目指した。「引き継ぐのは寂しいけど、5年生との練習は楽しい」。山田校長は「鼓笛隊のおかげか、1年生の時から自然と目標をもって物事に取り組む子どもが多い」と話す。

 兄も指揮者を務めたという5年生の指揮者、樋口歩夢(あゆむ)君(11)は「がんばって練習して良い演奏で6年生を送り出したい」という。