ご飯好きなら美味しい漬物も探します。
買い物ついでに漬物専門店があったものだから
「掘り出しモンのいい漬物に出会えるか」と、タダでご利益を得よう
とする、浅ましい性根でその店の敷居を跨いだ。
べったら漬けや、奈良漬けやら、美味そうに並んでいるが
もう少し珍しいものはないだろか、とあちこち目移りしながら
店内散策していると、「早く買えよ」と言わんばかりに
「これ美味しいいよ!」とか「珍しく入って来たから食べてって!」
とプレッシャーの声をかける店員さん。
うんざりしたので店を出ようとしたら「ネギの浅漬け」のような
珍しい漬物に出くわした。
一瞬立ち止まったのが運の尽き。
「食べてって、食べてって」
このチャンスを見逃さなかった若い店員さんは
親指ぐらいの小枝のようなネギを皿に盛って差し出して来る。
「こんな太いネギ、味見出来ないでしょう」
「食べて、食べて!」
売ろうとする気がはやるのか、楊枝がネギに刺さりません。
「もういいから。刺さんないじゃんつま楊枝。この漬物、ご飯に合うの」
「合います。お酒にも合います。焼いて食べても美味しいですよ」
「・・・。はぁ、何か見たことないな。」
別の夫婦もどうやらネギ好きなようで、このやり取りをずっと見ていた。
「ご飯に合うんだね」
「合いますよ。美味いです」
「それじゃ、100gで」
「えっ、100g・・・。」
「はい、220円」
あの楊枝の仕草からして、どうも胡散臭い。
「それじゃ家は400g。家はネギ好きなんです」
あの別夫婦は見たこともない丸太ネギの浅漬けに一発投資
してしまった。
「辛っ! 何だこれ」
鼻がジンジンしてきた。
追い打ちをかけるように、食いちぎった丸太ネギにしみ込んだ
辛汁が、どんどんご飯に染込んで行く。
「ご飯がべちゃべちゃになっちゃたじゃないか。
辛汁茶漬けだ! ダメだこりゃ」
最小単位買いだけは正解だった。
美味いものに出会うには下調べが必要で
物珍しさで買うのなら、恥ずかしくても最小単位で。
おい、兄ちゃん、「美味いですよ」と言うのなら、少なくとも
自分が食べてから言ってくれ。
あの別夫婦も今頃、悶え苦しんでいるだろう。