「ここに集まっていただいた皆さんは精鋭部隊です。皆さんにこの店の運命がかかっています。」
毎週、一週間の買い物に行くスーパーで、一人のおっさんが5~6人のおばちゃん
集めて円陣組んで話していた。
おばちゃん達はどこにでもいそうなパートの主婦さん。頭に白い三角巾、着ている
服も割ぽう着。
「精鋭部隊」って、米軍のネイビーシールズじゃないんだし、大袈裟だなぁ。何か店内改装で売り上げでも伸ばすつもりか。
主婦さん達は黙っておっさんの顔を見ていた。
いつもの順路で買い物をしていると、聞いたことないアナウンス。
「自信をもってオリジナルカレーパンをお届けします!」
「周辺のパン屋さんのカレーパンを食べつくし、負けないカレーパンを作りました!」
「買ってください。損はさせません。限定120個!」
「次に仕上がるのは30分後。今しかない。今夜の夕飯に是非どうぞ!」
夕飯にカレーパンって・・・。聞いてるだけで面白い。
そのスーパーのブレッドコーナーに行ったら、さっきのおっさんマイクを持って叫んでる。
スーパー中の人達がどんどん集まって来た。老いも若いも、男も女もどんどんどんどん集まって来る。何だ何だの大騒ぎだ。
おっさんが叫ぶほど、140円のカレーパンが残らず棚から奪われて行く。
三角巾の精鋭部隊は汗まみれ。
「すげー。」
呆気にとられて立ちすくんだ。
家に帰って買ったカレーパンを口にする。
「えっ。普通だぞ。 調査して、どこにも負けないって言ってたけれど・・・」
次の日も、カレーパンを売っているのか覗いてみた。
「今日はほっこり出来上がりました!」
「昨日は曇りでしたが今日は晴れ。湿度が違うから昨日より美味しく出来上がりました!」
おい、昨日買った客の立場はどうなるんだ。
それでも売り場は激戦区。精鋭部隊も顔に力が漲っていた。
・・・。
「これだよ」
どんなビジネス書も吹っ飛んだ。
素直にカッコいいと思った。
天才。
数か月後、その店長はどこかの店に栄転し、嵐のように去って行った。