糖鎖のチカラは自己と他との識別、そして有害な異物を除去すべく
幹細胞(ES細胞)にその状況を伝えることでした。
ネコのひげ、かな?細胞ひとつひとつが持つセンサですね。
しかもその情報量たるや遺伝子DNAもかなわない。
すごいですね、糖鎖って。
血液型も実は赤血球の表面の糖鎖の構造の違いです。
異なる血液型が体内に入ると凝固しちゃいます。
一部、輸血OKの型の組み合わせもありますが、
今は同じ型しか輸血しないそうです。これも糖鎖の働き。
でもこれらは細菌やウィルス、毒物とは違って、
完全な異物というわけではありませんね。
今回は分かっているようで分かってない血液型のお話、
その血液型と糖鎖の役割についてです。
そもそも血液型ってなんだ血液型が発見されたのは
100年ほど前のことです。
ABO式の血液型が知られるようになりました。
でも、血液型ってご存知の通り、これだけではありません。
RHマイナスとか? そうそう、でももっと複雑なんですよ。
血液型とは、『血液内にある血球のもつ抗原の違いをもとに決めた血液の分類』
と定義されます。
抗原とは免疫反応を引き起こす物質ですね。
血液中の抗原としては、赤血球・血小板・白血球・血漿などに
数百種類もの存在が知られています。
その組み合せによって決まる血液型は、膨大な数(数兆通り以上という説もあり)になります。だから、あなた
と同じ同じ血液型の人は
この地球上に一人としていないのだそうですよ。
そんな血液型の中で、ABO式の血液型だけが特によく知られているのは、
これらを誤って輸血すると、凝集や溶血が起きるため、
血液型を合わさなければならないからです。
糖鎖が決めるABO式血液型
さて、1990年代に入って、ABOの遺伝子が詳しく解析され、
その結果、糖鎖との関係が解明されました。
A型とB型はそれぞれを特長づける糖鎖がついています。
A型の糖鎖にはN-アセチルガラクトサミン。
B型の糖鎖にはガラクトース。
どちらもついていないのがO型。
AB型は両方がついています。
えっ、血液型の違いってそれだけ?
そんなんですよ。ABO式の血液型の違いはたったそれだけ。
N-アセチルガラクトサミンもガラクトースも単糖でしたね。
前回でご説明した8種類の単糖のひとつです。
こんな簡単な違いで血液型は決まっているのです。
このわずかな差で、輸血を誤ると生死にかかわるわけですから、
う~ん、糖鎖はすごい!
血液型の役割は?
そもそもなぜ血液型が存在するのかよく分かっていません。
それなら、血液型遺伝子がなくなってしまっても、
不都合は生じないのでしょうか? 必ずしもそう言えないようです。
血液型は生物が多様性を求めるひとつのアプローチではないかと
推定されています。
例えば、胃潰瘍の原因の1つと考えられている
ヘリコバクター・ピロリという細菌は、H型物質
(N-アセチルガラクトサミンやガラクトースがくっついている
土台になっている糖鎖)を足がかりにして胃壁に潜り込むといわれています。
つまり、H型物質に何もくっつかないO型の人は
この細菌にやられやすいと考えられます。
もし人類の血液型がO型だけだったら、
世の中に胃潰瘍の人があふれていたかもしれません。
つまり、糖鎖によって細胞を多様化させることで、
細菌やウイルスの感染を防いできた可能性があります。
現時点では仮説ですが、研究が進められています。
生物が性を持ち、互いのDNAを交換して子孫を多様化していくのも、
多様化の中から進化(その環境に適した個体が現れる)を遂げてきたのでしょう。
また、環境が激変しても種が絶滅しないようにする
リスクヘッジだとも考えられます。
血液型もそのような生物の種の保存のための保険なのではないでしょうか?