明治初年の菅谷
1870年(明治3)4月、名主伊左衛門から韮山県役所宛差出した「武蔵国比企郡菅谷村戸籍」(根岸豊氏寄贈文書)によると、菅谷村世帯数は39、人口は、男95、女98、計193名となっている。伊左衛門さんは1866年(慶応2)10月から名主として村を支配し、1900年(明治33)には33才の青年村長であった。関根ちよさんの祖である。
この戸籍に記載された人々が古い菅谷の住人である
現在のどこの家々の祖であるか、不明のものもあるが、根岸宇平氏の記憶と今回の調査により、次の程度まで判明した。百姓のこととて苗字がないし年令も60才以上のものが多いので当主との関係を探るのに苦心した。次のとおりである(敬称略)。
名主 伊左衛門 33 農業 関根ちよ
組頭 与兵衛 83 農間穀商売 根岸忠与
同 一郎左衛門 56 農業 関根かめ
同 柳七 60 農業 根岸宇平
百姓 五右衛門 51 農業 木村智昭
平右衛門 66 農業 根岸幸作
政左衛門 68 農業 根岸義次
文左衛門 66 農間木挽職 中島源之
長左衛門 70 農業
甚兵衛 43 農業 根岸秋夫
孫右衛門 65 農業倅農間大工職 関根昭二
簑助 50 農業 松浦亀之助
平兵衛 51 農間旅籠屋 中島元次郎
久右衛門 49 農業 根岸巷作
善兵衛 46 農間旅籠屋渡世 奥野近蔵
与治右衛門 70 農間大工職 米山宗吉
庄九郎 53 農業 中島正男
平六 73 農業 関根勘造
与八 64 農業 山岸松次
栄蔵 68 農業
八助 60 農業 田島実造
弥十郎 33 農間鋳懸渡世 中島仙太郎
留造 20 農業 山岸一利
徳太郎 74 農業 根岸善吉
歌次郎 36 農業 中島宣顕
和吉 41 農業 中島勝哉
倉吉 74 農間旅籠屋渡世 根岸治三郎
さよ 11 農業 関根常次郎
喜兵衛 63 農業 (米山?)
栄蔵 61 農業
初太郎 55 農間旅籠屋渡世 関根長倭
六兵衛 42 農業 中島六郎
十右衛門 25 農業 中島光太郎
福次郎 25 農間大工職 中島喜市郎
要七 75 農業 笠原伝吉
丈右衛門 56 農業 高野孝吉
角左衛門 65 農間桶屋渡世 米山忠夫
九兵衛 60 農間木挽職 木村朝光
たよ 52 農業
以上の39軒が、今の県道をはさんで、上から下に点在した。これが幕末から明治初年の菅谷の姿である。
1870年(明治3)に、田が3町3反2畝、畑が57町2反9畝、山が14町7反9畝、馬が18頭と記載されてあり大部分の住人が農業を経営して生計を立てたが、交通の発達しない自給自足時代であったから、現在の屋号や呼び名が示すように、商業・工業の兼業も行なわれていた。
笠原伝吉さんは、1891年(明治24)生れである。笠原さんの子供の頃、最も古い記憶から、菅谷の街の姿を、思い出して貰った。10才の頃として、1901年・1902年(明治34・35)頃の菅谷の家並みである。戸数は46で、1970年(明治3)以来殆んど変っていない。これを図に画いて見た。目を開いて、今の菅谷を眺め、眼を閉じて、この図面を頼りに、昔の菅谷を想像するとうたた今昔の感にたえぬものがある。笠原さんの語る家々は次のとおりである。
旧役場の隣、松田文造さんと区長の根岸寅次さんの家があったが、その当時の住人は他に移って今はない。
菅谷の番地は家の順につけられその一番が木村智昭氏の家であったが、岡村定吉氏の家もその頃すでに存在していた。
当時の家を上から順にあげる。
(注=数字は図の番号。カッコ内は屋号・通称。敬称略)
1 岡村定吉 (鍛冶屋)
2 木村智昭 (横町)
3 中島源次 (角屋)
(この隣、今の島本薬局の辺に隠居家があった)
4 関根ちよ (本家)
5 木村朝光 (山のうち)
6 根岸宇平 (本家)
7 根岸忠与 (穀屋)
8 高野孝吉
9 笠原伝吉
10 中島光太郎
11 中島六郎 (油屋)
12 中島喜市郎
13 関根長倭 (小島屋)
14 米山仙造
15 米山忠男 (桶屋様)
16 根岸冶三郎 (川越屋)
17 関根常次郎
18 根岸善吉 (現在岡松屋の場所)
19 中島宜顕 (当時卯之吉・菓子屋)
20 中島勝哉 (中島屋)
21 中島高次 (隠居)
22 沼 作松 (沼田屋)
23 山岸一利 (隠居)
24 田島実造 (屋根屋)
25 中島綱吉 (桶屋)
26 山岸松次 (虎屋)
27 関根由平 (小川屋)
28 山野周吉 (現在根岸友次郎の場所)
29 米山永助 (炭屋)
30 キリヤ (現在福島秀雄の場所)
31 関根 勘造
32 中島正男 (中宿)
33 関根かめ (一郎さん)
34 米山宗吉 (大工)
35 中島長太郎 (鋳掛屋)
36 中島仙太郎 (中屋)
37 奥野近蔵 (豆腐屋)
38 根岸巷作
39 中島元次郎 (紺屋)
40 関根昭二 (樫の木)
41 関根子之助 (新宅)
42 松浦亀之助
43 根岸秋夫 (きし屋)
44 根岸義次 (下駄屋)
45 山岸宝作 (よろづ屋)
46 根岸幸作 (大かさ)
小林博治さんの原稿(『菅谷村報道』140号、1963年1月掲載)を、田幡憲一さんの再調査(1998年)により一部改定。