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朱禪-brog

自己観照や心象風景、読書の感想
を書いてます。たまに映画も。

ある鉄クズ屋でのできごと

2021-09-23 08:03:28 | 雑記
毛馬洗堰(あらいぜき)から天満橋まで
続く大川沿いの遊歩道は春になると桜のスポットとなる大阪でも有数の桜並木です。



しかし、私にはJR桜ノ宮駅から歩いて
祖母に連れられての鉄クズ屋の印象が遥かに濃いのです

桜ノ宮駅近くの大川には
バラックで作られた小屋が点在していました。
主に鉄クズですが、廃品回収を生業とする在日一世達が住んでいたのです。

祖母は数え歳100で世を去りました。
私が小学校時代は祖母が
墓参りに行く、石切さんに行く、
生駒聖天さんに行くなど祖母の行事には
ことごとく一緒に連れられて行きました

その鉄クズ屋に行くことも祖母の行事のひとつでした。

鉄クズ屋には、シャーマン(巫女)と呼ばれる、あの世にいる亡くなった方が憑依し、その言葉を告げる儀式を行う女性が
いたのです。

ハングルではこの儀式を「クッ」と言います。

おそらくその身にふりかかった厄払い的な祖母の行事だったのでしょう。

五色の衣装を着たシャーマンが
銅鑼や鐘、鈴、チャンゴ(朝鮮式太鼓)の音に合わせて祈りだします

銅鑼などの鳴り物のテンポがつぎつぎと早くなってくると、シャーマンは立ち上がり、テンポに合わすのではなく
自分のテンポで踊りだし、その場で軽く軽く跳ね上がっていきます。

鳴り子はシャーマンの踊りに合わして
テンポを変えていくのです。

最後はほとんどジャンプする状態が
続き表情が恍惚としてくると
(多分トランス状態だったのでしょう)
祖母も一心不乱にブツブツと祈り続けています。
私は恐さを感じながらも黙ってみていました
その内にバタとシャーマンが、床にうつ伏せに倒れます。

おもむろにもたげたその顔は
本来のシャーマンの顔ではなく
男性の顔と声に変貌していました。

そして、祖母にハングルで
何かを伝えます
祖母は一切私生活ではハングルを使いませんでしたが、言葉は知っています。

シャーマンの男声音を聞きながら
祖母は普段滅多に見せることのない
涙を流し「うんうん」と頷くのです。

やがて、シャーマンが本来の女性の顔に戻ると祖母の顔は憑き物が落ちたような
顔になります。

そして、「たぁ坊、帰ろうね」言うのです

先日、戦友と大川沿いを通過しましたが
それら鉄クズ屋は全て消え去っていました。

今から思うと、現実的なことではないと
思いますが、祖母にとっては必要な
儀式だったのでしょう。

ここまで読んで頂きどうもありがとうございます。


焼鳥屋④

2021-09-23 03:40:40 | 雑記
おおっ!ドクターイエローか!
前日の夜、後輩から納めた商品の
割れによるクレーム処理の電話を受けた
私は朝一の東北新幹線で人生初の
ドクターイエローをみた。

ドリル、エンドミルと呼ばれる切削工具を保持する保持工具を製作するメーカーに所属していた私は当時、営業でしたが
7割は他の社員のクレーム処理担当を
やっていました。

「おそらく錆からくる材料の劣化やろ、あと切削条件がキツすぎる、社長さんは言わんかったけど、刃物何本も折れてるはずや」
クレームは、こちらに非がないことを伝えるのではなく
相手が何に困っているかに着眼して
問題解決をはかる絶好の機会だ。

丸半日かけて、相手の言い分を聞き
こちらの対案と材料分析をすることで
持ち帰る。

「ほな、帰るで、気ぃつけて運転しぃや」
あー、とりあえず終わった
福島駅から東北新幹線に乗る
「17時か、龍にいけるな」

---

(こんばんは)

「あら、いらっしゃい、どうしたの?
疲れた顔しちゃって」

(ええ、ちょっと東北まで行ってきた帰りなんです)

「まあまあそれは、お疲れ様
瓶ビールでいい?」

(ええ、お願いします)

ママとも親しくしてもらい
ますますホッとするL字カウンターの奥で、キュッとビールを空ける

「朱禪さん、何からにします?」

(あ、そうですね、造り(刺身)はなんかありますか)

「うん、わかった
ちょいとあんたシロがあったでしょ?」

焼き場で炭の火加減を整えていた
親爺に声をかける
「え?あったっけなー?」
「あるわよ。あんたが後で一人で食べてるのも知ってるわよ」

アカ(赤)は鶏肝
シロ(白)は背肝、腎臓だ
取り出すのに手間がかかるが新鮮な
鶏の背肝は生がうまいことを親爺は知っている

「アカもシロも出しちゃいないさ
まったくもう…なんだって自分の酒の肴にするんだから」

「へいへい、わかりましたよ(笑)」

親爺はママにベタ惚れなのだ
元山男の峻険な風貌もママにかかれば
孫を見つめる好々爺に変わる

「あいよ、お待ち」

鶏肝は何度か食べたが、背肝の造りは
初めてだ
刺身用の醤油とおろし生姜と極薄にスライスしたにんにくが添えらており、
かたわらには削った岩塩があった。

岩塩を少しだけネタにつけ食べる
塩の甘みとネタの甘みが見事にマッチし
生臭さはなく、口の中プツっと弾けてはとろける…

(ははぁ、そら親爺も自分で取り込むわな)と思いつつ、くろうまで舌を洗いながら食べる

「どうですか?お口にあいますか?」

(ええ、いま親爺も店で出したないわなと思いながら食べてました(笑)おいしいですよ。ありがとうございます。)

「そうよかった。ゆっくりしていってくださいな」

あんなにおいしい鶏の内臓はもう食べれない。

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43から47まで丸3年酒を断ち
いまでは格段に酒量が落ちましたが
相変わらず、仕事が終われば毎日飲んでいます。

ふとした時に親爺とママを思い出すのです。

ここまで読んで頂きありがとうございます。