今日は明日の前日だから

わたしはおもう。わたしはつづる。あなたにみてほしいのは、あなたがあなただから。

イブの夜。

2004-12-24 15:48:57 | Weblog
 表参道のイルミネーションはもうやっていないときいた。
 そのとき思い出した、小さなお話。

 いくつだったかなあ、忘れちゃったけど、わたしはイブに家族でイルミネーションをみにいった。
「きれいだね」
そんなやさしい声が飛び交う街。わたしはサンタクロースなんてもう信じていなかったけど、サンタがくれるプレゼントに思いを馳せていた。
「きれいだねえ、エリノ」
お母さんが云う。
「それにしてもすごい人だな」
お父さんが云う。
 ヒカリヒカリヒカリ。
 ものすごい数の豆電球がわたしに語りかける。
「ほーら、今日はクリスマス。今年一年いい子にしてたかな」
 比喩ではない。本当に語りかけたのだった。
 わたしはあわてて両親を見た。
 二人はイルミネーションに夢中。わたしのほうなど見てもいない。
「だれ?」
わたしは心のなかでつぶやく。
 すると、また声がする。
「イルミネーションなんかより、ずっときれいなもの、みせてあげる」
「なに?」
「秘密」
みせてあげるっていってるわりに秘密だなんてけちだなあ、っておもいながら、また上を見る。
「ほら」
ほらほらほらほらほら。
 声が響く。
「だから、だれなの?」
Sの子音が聞こえたつぎの瞬間、わたしは倒れてしまった。
「エリノ?どうしたの?」
ぐわんぐわんにゆがんだお母さんの声。
「熱でもあるんじゃないか?」
むかし医者になりたかったくせに適当なお父さんの診断。
 おでことおでこをくっつける。
「熱があるわ」
お母さんはそういうと、お父さんにおんぶをするよう促した。
 わたしはおぶわれて、原宿を後にした。

 たった一瞬のイルミネーションの美しさ。
 そしてなぞの声。

 わたしは熱でぼーっとする頭で考えた。

 あれは、だれ?
 
 翌朝目覚めると、案の定わたしの枕元にはおもちゃがあった。
 サンタなんてもう信じてないのになあ。そう独り言を云う。
 ところが、そこには去年やその前とは違うものがあった。

 きらきらと光る砂のようなものが散らばっていたのだ。
「おかあさん、サンタさんきたよ」
子供のふりってつらい。
「でも、なんか砂みたいなのがばら撒いてあったよ」
え、とお母さんは振りむく。
「砂?そんなの知らないわよ」
ほら、サンタは自分だって云ったようなもんだ。
 お父さんに聞いてもすっとぼけている。

 こんなにうそつくのうまかったっけ、と考えても、思い当たらない。

「ほら、エリノ、来てごらん」
そういったお父さんのもとに急ぐ。
 なんだこれは。まさか、本当に…。

「ホワイトクリスマスだね」

 窓の外には雪が舞っていた。

 わたしに声をかけたのは誰だったんだろう。
 そしてあの砂は?
 それは今でもわからない。
 ただ、わたしはそれ以来前よりもクリスマスが好きになった。

 メリークリスマス!