ドミニカ共和国での重症ヒストプラズマ症のアウトブレイク

CID 2018:66(15 May)　Armstrong et al

背景
Histoplasma capsulatumは鳥やコウモリの糞と関連し、アメリカやカリブ海沿岸に存在する。土壌などを耕した後に真菌の胞子を吸入することで感染し、37℃で酵母に変化する。平均潜伏期間は1-3週間、無症候性から重症播種性まで多彩。急性肺ヒストプラズマ症が多く、特に健康な人ではself-limitedなことが多い。

2015年9月にドミニカ共和国の保健省からCDCにトンネル労働者で重症な不明熱患者の調査依頼があった。当初はこの地域で流行していたレプトスピラの治療をされていたがペニシリンで改善しなかった。一人のBAL液から酵母を検出したことから、ヒストプラズマ症が考慮されたが、確定できなかった。3人が死亡し、25名が入院していた。

方法
ヒストプラズマ症の臨床的定義は発熱と2症状（悪寒戦慄、盗汗、筋力低下、関節痛、咳嗽、頭痛、全身倦怠感、呼吸困難感、筋肉痛、下痢、嘔吐）とした。
2015/7/30-9/2の間、トンネルで作業した人を対象に、スペイン語の質問票でインタビューした（既に亡くなっていた3人には家族にインタビューした）。
血清と尿サンプルをCDCのラボで検査した。Histoplasma capsulatum抗原検索はヒストプラズマモノクローナル特異抗体を用いたEIAで、カットオフ値≧0.5ng/mlとした。

結果
36名全員男性、平均年齢32歳（18-62歳）、喘息が5人（15％）、喫煙15人（43％）。30/36人（83％）がヒストプラズマ症の基準を満たした。28名（93％）が入院、9名（30％）がICU入室、6名（20％）が挿管、3名（10％）が死亡。死亡したのは21-36歳で、併存症はなく、非喫煙者だった。3人ともVRCZとステロイドの静注をうけた。19人がWBC上昇あり、10人がAST>120だった。HIVは15名に検査されたが陰性。23名にレプトスピラの検査を行われたが陰性。28名が抗真菌薬を投与され、平均治療開始は6日（0-11日）。22名がVRCZ、14名がITCZ、9名がFLCZ、8名がアムホテリシンBを投与された。26名（87％）がステロイド、4名（16％）は抗真菌薬の治療の1日以前にステロイドを投与された。

34名に血清、29名に尿を採取した。発症から検体採取までの期間は5～33日で、中央値14日。血清で18名（53％）、尿で13名（45％）がH.capsulatum陽性だった。更に免疫拡散法を用いたところ、11/31（35％）血清が陽性となった。合計22名/34名（65％）が検査上陽性となった。

Cohort Studyでは年齢、併存症、作業内容、トンネルでの作業、トンネル内で作業した期間、サージカルマスクの使用は発症の有無とは関係せず、発症から抗真菌薬開始までの期間、症状、検査値は重症度と関連していなかった。

Discussion
ドミニカでは輸入感染症としての診断しかされたことがなく、なじみがなく、確定診断する手段もなかった。これまでも不顕性感染はあったかもしれない。今回、ヒストプラズマの認識と抗真菌薬の投与が遅れ、重症な肺ヒストプラズマ症に対してはアムホテリシンBが投与されるべきだが、多くの場合はされず、されたとしても遅れた。これらは医者がガイドラインになじみがないことや薬剤へのアクセスを欠くことなどによる。診断キャパシティ不足も確定診断と治療の遅れに関与している。高用量のH.capsulatumに暴露し、換気が不十分で防御もなかったことが関係していたと思われる。トンネルに滞在した期間が長いほど重症度が高くなる傾向にあったが有意差はつかなかったのはサンプルサイズが小さいためか。
抗体や抗原の検査は限られた施設でしかできないので、もっと便利な方法の開発が必要。

今回のトンネルは閉鎖されていないので、さらなる発症の予防が大切で、保湿することが粉塵の拡散を予防するかも。NIOSHは労働環境でヒストプラズマ症を予防のレコメンデーションとしてN95が最低限必要としている。
リミテーションとしてはリコールバイアスと症状を過剰に報告している可能性。小規模スタディだったこと。