感染症内科への道標

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劇症肝炎の診療ガイド 

2010-11-24 | 消化器・肝・胆・膵
厚生労働省(難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究)編集
文光堂より2010年10月出版1800円

劇症肝炎とは、肝炎のうち初発症状出現後8週以内に高度の肝機能異常に基づいて昏睡II度以上の肝性脳症をきたし、プロトロンビン時間が40%以下を示すものとする。そのうちには症状出現後10日以内に脳症が出現する急性型、と11日以降に発現する亜急性型がある。

・先行する慢性肝疾患が存在する場合は劇症肝炎から除外する。ただし、B型肝炎ウイルスの無症候性キャリアからの急性増悪例は劇症肝炎に含めて扱う。
・肝性脳症の昏睡分類は犬山分類(1972年)に基づく
・成因分類は難治性肝疾患に関する研究班の指針(2002年)に基づく

劇症肝炎から除外する疾患
・薬物、化学物質による中毒
・虚血性肝障害、うっ血肝
・妊娠脂肪肝
・Reye症候群
・血液悪性腫瘍の肝浸潤による肝不全
・wilson病など代謝性疾患による肝不全
・肝切除後ないし肝移植後の肝不全

ウイルス性
・A型 IgM-HA抗体陽性
・B型 HBs抗原、IgM-HBc抗体、HBV-DNAのいずれかが陽性
・C型 肝炎発症前はHCV抗体陰性で、経過中にHCV抗体ないしはHCV-RNAが陽性化した症例、肝炎発症前のHCV抗体は測定されていないが、HCVコア抗体が低力価で、HCV-RNAが陽性の症例
・E型 HEV-RNA陽性
その他(TTV,EBV等)
・自己免疫性
・薬物性:臨床経過又はDLSTより薬物が特定された症例
・成因不明:十分な検査が実施されているが、I-IIIのいずれにも属さない症例
・分類不能:十分な検査が実施されていない症例

・遅発性肝不全は発症から8週以降24週以内に昏睡II度以上の肝性脳症が出現する亜急性型の肝不全と定義される。症例数は劇症肝炎の約1/10のまれな疾患である。内科的救命率は低率である。
・北海道地区では成因不明例と診断するためにはHEV-RNAも測定することが望ましい。
・自己免疫性肝炎は急性発症ではANAは陽性でも抗体価が低くIgGも正常のことが多いため注意が必要である。

疫学
・年間推定発生数は約430人である。
・男女比は1対1
・ウイルス性47%, 成因不明27%, 薬物性15%, 自己免疫性10%
ウイルス性の87%はB型肝炎ウイルスに関連する。
・急性感染例は急性型、キャリア発症例は亜急性型を呈する傾向にある。
・背景に基礎疾患が約45%、薬物服用歴が60%にみられる。
治療
・劇症肝炎およびLOHFに対する治療では1998年以降は血漿交換が90%以上、血液濾過透析が70%以上の症例で実施されているが、薬物治療では副腎皮質ステロイドと抗凝固療法が多く、いずれも60-80%の症例で実施されている。
HBVキャリア例ではラミブジンを投与するが、その効果発現には時間を要するために、インターフェロンを使用した抗ウイルス療法を実施することが望ましい。

予後
・内科的治療による救命率は急性型55%, 亜急性型24%, LOHF30%である。


免疫抑制・化学療法によるHBV再活性化・de nobo B型肝炎

HBVキャリア(HBs抗原持続陽性者)にステロイドなどによる免疫抑制・化学療法を実施するとHBVが急激に増殖、すなわちHBVが再活性化され、さらに免疫抑制・化学療法終了後に免疫学的な均衡の破綻によって致死的な重症肝炎が発症する場合がある。
一方、臨床的には治癒状態(既感染)と考えられていたHBs抗原陰性でHBc抗体ないしHBs抗体陽性例において、強力な免疫抑制・化学療法後にHBVが再活性化して発症するB型肝炎をde novo B型肝炎という。
・HBV再活性化の場合では劇症化率27%, 劇症肝炎の死亡率100%
・de novo B型肝炎は劇症化率20%, 劇症肝炎の死亡率は100%
・基礎疾患として血液悪性腫瘍が約70%で、その殆どが悪性リンパ腫のリツキシマブとステロイドの併用療法を受けている。そのほか、関節リウマチ、肺癌、乳癌などでもHBV再活性化による劇症肝炎が報告されている。
・de novo B型肝炎の劇症化例は全例亜急性型で、きわめて予後不良(死亡率100%)である。
・de novo B型肝炎劇症化例は約80%が悪性リンパ腫の化学療法後に発症したものであり、その全てにおいてリツキシマブが投与されている。
・de novo B型肝炎の多くは化学療法終了後に肝炎が発症する。
・肝炎の発症に先行してHBV-DNAが増加し、HBs抗原が要請化する。HBs抗原陰性例のHBV再活性化では、HBV DNAが陽性化し、肝炎が発症するまでに12-24週を要する。
・肝炎発症後には核酸アナログ製剤を投与しても十分な効果は期待できず、余語不良の症例がある。


スクリーニング
・免疫抑制・化学療法施行前に、全ての症例でHBs抗原だけでなく、HBc抗体及びHBs抗体検査を実施する。
・HBs抗原, HBc抗体及びHBc抗体の測定にはできるだけ感度の高い測定法(CLIA法)による測定が推奨される。
・スクリーニング時に既に免疫抑制療法を受けている場合は、HBc抗体あるいはHBs抗体が検出されないことがあり、HBV DNA定量検査まで実施することが望ましい。

HBs抗原陽性例への対応
・HBe抗原、HBe抗体、HBV-DNA定量検査を実施する。
・HBs抗原陽性例では、無症候性キャリアだけでなく、慢性肝炎、肝硬変が含まれている可能性があること、また核酸アナログ予防投与の適応を検討する必要があるため肝臓専門医に症例する。
・HBs抗原陽性例では再活性化のリスクが大きいので、基本的に核酸アナログの予防投与を実施する。
・若年HBe抗原陽性無症候性キャリアでは、悪性疾患以外のステロイド治療によるHBV再活性化のリスクは少ないため、核酸アナログ製剤予防投与の適応は慎重に判断する必要がある。
・HBV キャリア例の急性増悪では発症後早期の核酸アナログ投与が有効であるが、HBV再活性化による劇症化例は発症後早期の核酸アナログ治療では予後不良であり、発症前の予防投与が必要である。

HBs抗原陰性で、HBc抗体あるいはHBs抗体陽性例への対応
・HBV DNA定量検査を行い、HBV –DNA陽性の場合はHBVキャリアと考えられ、再活性化のリスクも高いため、肝臓専門医に紹介の上、核酸アナログを投与する。
・HBV DNA陰性の場合は、月1回、AST, ALT及びHBV DNAを測定し、HBV DNAが陽性化した時点で直ちに核酸アナログを投与する。
・リツキシマブ・ステロイド使用例、造血幹細胞移植例は再活性化のリスクが高いので慎重な対応が必要である。
・HBV DNA陽性から肝炎発症までには12-24週(平均18.5週)の期間があり、HBV DNA陽性化時点で、核酸アナログを開始することが重要である。

核酸アナログ予防投与
・核酸アナログ製剤はB型慢性肝炎の治療ガイドら委員に準拠して、エンテカビルが推奨される。
・核酸アナログの投与期間に関する明確な基準はない。
・現時点ではその投与終了基準に準じ、免疫抑制・化学療法終了後12カ月は投与継続することとし、投与終了12か月は厳重に経過観察する。


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