感染症内科への道標

研究学園都市つくばより感染症診療・微生物検査・感染制御の最新情報を発信しております。

原発性胆汁性肝硬変(PBC)の診療ガイド 

2010-11-03 | 消化器・肝・胆・膵
厚生労働省(難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究)班編集

文光堂より2010年10月出版1800円

1. PBCの概念
・代表的な自己免疫性肝疾患であり、中高年の女性に好発する。
・皮膚ソウ痒感で初発することが多い。 
・黄疸は出現後、消退することなく漸増することが多く、門脈圧亢進症状が高頻度に出現する。PBCは臨床上、症候性PBCと無症候性PBCに分類され、皮膚ソウ痒感、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく自他覚症状を有する場合は、s PBCと呼ぶ。これらの症状を欠く場合はa PBCと呼び、無症候のまま数年以上経過する場合がある。 s PBC のうち2mg/dl以上の高ビリルビン血症を呈するものをs2 PBCとよび、それ未満をs2 PBCと呼ぶ。 

症状
・疲労 30%
・皮膚ソウ疼感 20-30%程度
・黄疸(出現後は予後不良 Tbil 2mg以上で5年生存率54%)
・食道胃静脈瘤
・肝不全徴候

血液・生化学的所見
・血清ALP/γ GTPなどの胆道系酵素の上昇は必発で、胆道系酵素の上昇時には必ずAMAを測定する。
・ALP/ γ GTPのどちらか一方しか上昇しないこともある。PBC診断時、約20%の症例でALPは正常値である。
・PBC患者の約50%は、ALT値が50IU/L以下に留まっている。
・PBC診断時のALP/γ GTP値とPBC進行度は関連がない。しかし、UDCA治療後のALPの低下と長期予後は相関する。PBC疑いの患者でALTが正常上限の5倍を超える場合には、自己免疫性肝炎を合併している可能性があり、抗核抗体・抗平滑筋抗体を測定すると共に、肝生検を行う必要がある。
・抗ミトコンドリア抗体:ミトコンドリア内膜に存在する2-オキソ酸脱水素酵素複合体と呼ばれる酵素群の中のいくつかの酵素を自己抗原として認識する抗体である。感度90-95%、特異度98%である。測定は感度・特異度に優れたELISAにより測定すべきである。ただし、AMAの中には自己抗原蛋白の一次構造ではなく二次・三次構造を認識する抗体が存在しており、遺伝子組み換え蛋白ではこのような高次構造が十分に再現できないこと、あるいは各施設における測定手技の違いなどのため、ELISA法が陰性であっても間接蛍光抗体法では陽性となるPBC症例が数%程度存在する。(逆に間接蛍光法では、真の自己抗原以外のミトコンドリア抗原に反応して陽性となる偽陽性症例がわずかながら存在する)。現在のELISAキットは抗ミトコンドリアM2抗体測定キットとして、PDC-E2, BCOADC-E2, OGDC-E2の3種がセットされており、特異的に反応する。
・抗核抗体は約60%でANAは陽性となる。抗セントロメア抗体陽性のPBCは門脈圧亢進症を合併しやすい。 

診断
次のいずれか1つに該当するものをPBCと診断する。
1) 組織学的にCNSDCを認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの
2) AMAが陽性で、組織学的にはCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない組織像を示すもの
3) 組織学的検索の機会はないが、AMAが陽性で、しかも臨床像及び経過からPBCと考えられるもの

合併症
・骨ソショウ症:発症リスクは同年齢成人に比べて4倍高い。
・Sicca syndrome: 70%に認められる。
・高コレステロール血症・黄色腫
・肝細胞癌

治療
・ウルソデオキシコール(UDCA ウルソ)の投与をまず行う。
・1日600mgの投与が標準とされ、効果が弱い場合は900mgまで増量できる。
・投与基準は胆道系酵素が正常値の1.5倍を超える、あるいはALT値が異常値であれば、UDCAを投与する。胆道系酵素が正常値の1.5倍以下の場合、3-4カ月に1度経過観察し、胆道系酵素が正常値の1.5倍を超えるようであればUDCA投与を開始する。
・UDCA抵抗例にはベザフィブラート(ベザトール)の投与が試みられている。


フォローアップ
・症候・身体所見(3-6カ月毎)(乾燥症状、関節痛、引っかき傷、黄疸、肝腫大、脾腫、腹水)
・血液検査(3-6カ月毎)(TBIL, ALT, ALP, γ GTP, TCHO, ALB, 血小板, PT)
・甲状腺機能 年1回(慢性甲状腺炎)
・骨密度 年1回(骨ソショウ症)
・超音波検査 AFP, PIVKA-II 年1回
・上部消化管内視鏡検査 年1回(食道胃静脈瘤)

専門医への紹介のタイミング
・診断の確定、特に非定型例は肝臓専門医に依頼した方がよい。
・症候性になった場合は、その時点で一度コンサルトする。
・総ビリルビンが5mg/dl以上を呈する症例は肝移植を考慮し、専門医に相談する。

肝移植
・成人対する肝移植2571例の15.1%を占める。
・生体肝が大部分で健康で、原則として3等親以内であることがある。

移植医へのコンサルトの時期
・総ビリルビンの持続的上昇(5mg/dl以上)
・難治性胸腹水、食道胃静脈瘤、肝性脳症の合併
・強い皮膚ソウ痒感によりQOLの著名な低下

・PBCは現在特定疾患治療対策事業の対象疾患に指定され、公費支給の対象となっている。公費支給されるのは症候性PBCのみであり、無症候性PBCは対象外である。
・現在PBCと診断される症例のおよそ70%以上は無症候性PBCである。
・無症候性PBCの5年、10年生存率はそれぞれ98%、93%で、症候性PBCの79%,65%に比べ予後が有意に良好である。 
・PBCの臨床経過の予測因子として、核膜孔の構成成分のひとつであるgp210蛋白に対する自己抗体(抗gp210抗体)が有用である。AMA同様PBCの約20-30%に出現する特異的な自己抗体である。抗gp210抗体陽性症例は、陰性症例と比べてinterface hepatitisの程度が強い。経過中あるいは治療後も抗gp210抗体価が持続高値の症例は予後が不良である。
・鑑別:AIHは慢性活動性肝炎の像を特徴とする。急性肝炎様の発症を示し、小葉中心部に帯状壊死を示す例もある。まれに肝炎型の胆管障害がみられ、PBCとの異同が問題となる。PSCは肝外胆管や肝内大型胆管に硬化性病変を認め、PBCとは鑑別される。



コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 女性におけるMycoplasma geni... | トップ | 縁日 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (肝移植について)
2010-12-15 16:10:00
腎移植や肝移植についてブログをリサーチしていたところ、貴サイトへたどり着きました。
臓器移植に関して様々なブログを読み歩いて勉強をしています。
助かる命がそこにあるのなら、少しでもお役に立ちたいと日々考えています。
こちらのサイトにありました意見や情報は色々参考になりました。
ありがとうございました。
返信する
Re:はじめまして (管理人)
2010-12-18 22:56:20
コメントありがとうございます。
私の役割上、PBC等については早期発見、予防、他疾患とのバランスを踏まえた上での啓蒙となりますので紹介もそちらに偏りますが、参考になりましたら幸いです。
返信する

コメントを投稿

消化器・肝・胆・膵」カテゴリの最新記事