感染症内科への道標

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医療環境における結核菌の伝播予防のためのCDCガイドライン

2010-07-30 | 感染制御
満田年宏先生による訳・著
2006年10月 発行4200円 

概論 
・結核菌は飛沫咳と呼ばれる直径1-5μmの浮遊粒子(airborne particles)によって運ばれる。
・肺結核や喉頭結核の発病患者の咳ソウ・くしゃみ・発声などにより感染性飛沫咳が発生する。
・結核菌は空気を介してのみ伝播し、環境表面への接触からは伝播しない。
・感染は感受性の高い人が結核菌を含む飛沫咳を吸入し、その飛沫咳が口や鼻から上気道や気管支を通じて肺胞まで到達したときに成立する。 
・飛沫咳が肺胞に入るとまず限局的な感染が成立し、その後リンパ管への散布や血行性散布で全身へ広がる。
・結核性胸水の患者は肺結核か喉頭結核を併発する可能性もある。 
・結核菌の初期感染から2-12週以内に免疫応答が現れ、結核菌感染のための免疫学的検査結果が陽性となる。
・初期感染後も一部の結核菌は体内に留まり年余にわたり生き続け、この状態を潜在性結核という。
・潜在性結核感染の状態は無症候性で、ヒトへの伝染性もない。


クオンティフェロンとは・・・
・試験管内で実施する結核菌のための血液検査の一種である。 
・第一世代のQFTはヒト型結核菌・精製ツベルクリン抗原蛋白を使用していた。(日本には導入されなかった。2004年末で米国への販売も終了)
・第2世代QuantiFERON-TB Gold(QFT-G)は2種類の結核特異的リコンビナント抗原(ESAT-6, CFP-1O)を用いBCG接種に影響を及ぼされないしブースター現象の影響も受けない(2006年1月1日より保険診療点数410点がついた)
・第3世代のQuantiFERON in Tubeでは3種類の結核菌特異的リコンビナント(ESAT-6, CFP10, TB7.7)を使用している。(本書刊行時には日本では未発売) 

QuntiFERON-TB Gold で今後検討が必要な事項
・5歳以下の子供の成績 
・免疫抑制時
・定期的なスクリーニング時の効率
・潜在性結核の検出効率
・暴露時間、感染の成立、陽性者の緊急性 
・ツ反と比較した経済効率 
・潜在性結核と活動性結核時の治療による値の変化
・潜在性結核と活動性結核治癒後の再感染時の診断能力
・移民などのハイリスク集団や摂食者調査 


潜在結核からの結核の発病
・治療を受けなかった潜在結核感染者の5-10%が一生のうちに結核を発病する。
・潜在結核感染から結核の発病へ進行するリスクは感染後の最初の数年間が最も高い
・HIV感染は潜在結核感染から発病へ進行の確率を増やす。
・BCG接種は、曝露後の感染リスクにはおそらく影響しない。乳幼児期の粟粒結核や結核性髄膜炎の発病を予防する可能性がある。

潜在性結核感染
・ツ反検査又は結核菌のための血液検査(BAMT)が陽性で、以前に潜在性結核感染の治療が完了している人に関しては、再治療は不要である。
・結核発病の診断が除外されるため、潜在性結核の治療を始めるべきではない。 
・胸部レントゲン像が不明瞭なために結核発病の有無について不確かならば、痰の培養結果と患者の臨床反応に基づいて、標準的な多剤併用抗結核療法を開始し、必要に応じて調整することが可能である。全ての培養結果が陰性と報告されるまで、潜在結核感染の治療を開始すべきでない。
・結核発病患者に単剤による治療を実施すれば同薬剤に対する耐性抗酸菌症を発症する可能性がある。

潜在結核感染から結核発病のリスクが高い人
HIV感染者
過去2年以内に結核菌に感染した
4歳未満の乳幼児
以下の免疫抑制状態の患者:珪肺、糖尿病、慢性腎不全、ある種の血液疾患(白血病とリンパ腫)、特定の悪性腫瘍(頭部癌、頸部癌、または肺がんなど)、理想体重を10%以上下回る
副腎皮質ステロイドの長期使用、その他の免疫抑制のかかる治療(TNF-α拮抗薬を含む)、臓器移植、末期の腎疾患、腸バイパス形成術または胃切除術、未治療・不適切な治療を受けた・陳旧結核のX線上所見がある人



濃厚接触者と結核疑いの患者の定義 
・濃厚接触者:長時間(日や週単位で)、肺結核の発病患者と家庭その他閉鎖的環境で空間を共有する人
・結核疑いの患者:抗結核療法の開始に関係なく結核発病の診断が考慮される人

伝染性のリスクの高い結核発病患者の特徴
・咳ソウが見られる、胸部レントゲンにより空洞化が観察される、喀痰塗マツ検査で抗酸菌陽性、喉頭に合併した気道病変のある場合、肺・胸膜に合併した気道病変、咳ソウをする際に口と鼻を覆わない、不適切な治療を受けた結核患者、咳ソウを誘発しエアロゾル産生するような処置(気管支鏡検査、咳痰誘発、エアロゾル化された治療薬の投与など)

結核菌の伝播リスクを高める医療環境の因子
・狭い閉鎖空間での結核菌への曝露
・局所的または全体的な不適当な換気(感染性飛沫咳の不十分な希釈や除去)
・感染性飛沫咳を含む空気の再循環
・医療用具の不適切な洗浄や消毒
・不適切な検体の取り扱い

結核菌の医療関連伝播の原因となりうるエアロゾルを発生する処置とは
・気管支鏡検査・喉頭鏡検査
・気管内挿管
・気管内吸引処置
・喀痰誘発処置
・咳ソウを誘発するようなエアロゾロウ療法(ペンタミジン療法、ネブライザー療法)
・その他の呼吸器系の処置
・胃内吸引・経鼻胃チューブの留置
・開放性結核膿瘍の洗浄
・組織のホモジネートや凍結乾燥
・未治療の結核発病患者の遺体の病理解剖
・その他結核菌を含む可能性の組織処理や結核の臨床検査手技 

結核菌による感染アウトブレイクの要因
・結核発病の診断の遅れ
・空気予防策の開始の遅れと不適切な運用
・咳ソウ誘発時の空気感染隔離室運用の実践と予防策の失敗
・呼吸器防護の不適切な運用

結核の空気予防策
・空気予防策は、医療環境の中で結核発病の症状や兆候のある患者や、伝染性結核の発病が記録され、抗結核療法が終了していない患者すべてに対して開始する。
・空気感染隔離室の解除基準
→伝染性結核の発病ではなさそうであると判断されたとき
→臨床症状を説明する別の診断がなされたとき
→抗酸菌喀痰塗マツ検査の結果が3回連続陰性であったとき
3回の喀痰検査検体は8-24時間の間隔で採取
1回は早朝の検査材料で実施する
喀痰塗マツ検査が陰性の患者は2日以内に空気予防策から解放される。


空気清浄法:HEPAフィルタによるろ過
・AII室の空気の再循環が避けられない場合は再循環前にHEPAフィルタでろ過する。
・ポータブル・タイプの室内空気再循環システム使用の適応:①部屋に全体換気システムがない場合②システムがあっても十分なACHが得られない場合 ③気流の効果を増大させる必要がある場合
・HEPAフィルタの除去効率は99.97%以上(平均粒子0.3μm)
・HEPAフィルタはアスペルギルスの芽胞を検出限界以下に低減する。 
・結核患者の感染性飛マツ咳は1-5μmであり、HEPAフィルタで除去される。
・HEPAフィルタ&N95呼吸器防護に補足された生菌の抗酸菌が再度エアロゾル化される可能性低い。
・結核菌に汚染されている可能性のあるフィルタ保守・交換を行うものはa呼吸器防護具 b 眼防護具 c 手袋を着用すべき
・可能ならHEPAフィルタは除去前に10%漂白剤溶液またはその他の適切な抗酸菌殺菌剤で消毒する。

空気清浄法:紫外線殺菌
・単独で使用しても許容可能な質を確保できない。
・UVGは再循環のためのHEPAろ過の代用にはならない。

患者ケアのための器具及び病室の清掃・消毒・滅菌
・結核発病患者に使用される医療器具及び設備は結核菌感染に関与しない。
→環境表面からは感染しない。
・適切な換気により退院後のAII室の最終清掃には個人防護具の着用は不要


医療環境における結核感染制御の3つの階層構造とは?
・下層:管理面での感染制御
・中層:環境面での感染制御
・上層:呼吸器防護

管理面での感染制御の内容
・結核感染制御の責任の所在を明確にする。
・結核のリスク評価の指揮をとる・
・対策のプランを開発・策定
・結核の発病が疑われるか確定した人の迅速な発見
・空気予防策と治療を確実にする。
・タイムリーな検査の処理・実施・検査結果報告
・結核の発病が疑われるか確定した患者の管理に効果的な作業手順 
・器具の正しい洗浄・消毒または滅菌方法の確立
・医療従事者の結核に関する研修と教育
・発病のリスクか曝露した可能性の医療従事者のスクリーニングと評価
・データの利用と疫学に基づいた防止基本策を適用する。 
・呼吸防護と咳のエチケットを促すため適切な看板の掲示を行う
・衛生局との協力体制を確立する。

環境面での感染制御の内容
・局所的な排気装置での感染源となる患者の管理 
・汚染空気の部屋全体的な排気装置による希釈と除去
・空気感染隔離室の空気汚染を防ぐため気流を管理する。 
・HEPAフィルタによるろ過・紫外線殺菌のいずれかで空気を洗浄する。

特別な状況や医療環境への配慮:手術室
・結核発病疑いか確定患者の緊急ではない外科処置は可能な限り非伝染性であるか結核ではないと判断されるまで延期する。 
・手術の延期ができない場合は、換気の制御ができる手術室で実施すべきである。 
・結核発病疑いか確定患者の手術はその日の最後の順番とする。 
・手術区域または手術室に前室がある場合、その前室は、
→通路と手術部門または手術室どちらと比べても陽圧に
→通路と手術区域または手術室どちらと比べても陰圧に
・前室がない手術室のドアは閉めておき、出入りは最小限にする。
・紫外線殺菌など、不可的空気清浄化技術採用も考慮する。 
・術後の汚染を最小限にするため空気清浄機を配備することがある。 
・手術室の換気は汚染された空気が他の区域へ流れることを防ぐ一方、手術現場の無菌的な医療環境を作るよう設計する。 
・結核患者の手術中、人員に関する措置が取られるべきである。
・結核患者の外科処置は呼吸器防護具を着用し、
→医療従事者の呼気から無菌野を
→患者が発生する伝染性飛沫咳から医療従事者をそれぞれ守るようにする
・呼吸器防護具は弁付き・陽圧式の呼吸器防護具は使用しない。
・弁なしのろ過式顔あて型の微粒子ろ過呼吸器防護具(N95)を使用する。
・結核患者の手術後の回復期はAII室に入れるべきである。
・手術や手術後の回復期に空気感染隔離や同等の部屋が利用できない場合は、相等ACHの数を増やすために空気清浄化技術(HEPAフィルタ、紫外線殺菌など)を使うこともできる。

特別な状況や医療環境への配慮:病理解剖室
・病理解剖の特定の手順(胸骨正中切開など)により伝染性のエアロゾルが発生するので、特別の空気予防策が必要である。 
・結核の発病が疑われるか確定した遺体の病理解剖を実施者の十分な防護体制なしに行ってはならない。
・病理解剖が行われる医療環境はAII室の条件を満たすべきである。
・空気は建物の外へ排気すること
・空気浄化技術を用いて相等のACH数を増やすことも可能
・局所的な排気による換気の使用も伝染性エアロゾルへの曝露を減らすために考慮する
・結核発病疑いか確定例の解剖を行う際はN95以上の呼吸器防護具を着用する。 
・N95タイプの呼吸器防護具よりもレベルの高い呼吸器防護の使用も考慮する。
・汚染した室内の空気は十分に換気する。


透析室
・管理:医療従事者、他の患者ができるだけ少ない時間、当日の最終
・環境:空気感染隔離室基準を満たす部屋で実施
・呼吸器防護:医療従事者はN95, 患者はサージカルマスク

救急隊
・環境:救急車は非再循環モードとし空気を速やかに薄める。エアフローは運転席から患者のいる場所を通って後部の排気ファンからできるようにする。
・呼吸器防護:医療従事者はN95, 患者はサージカルマスク又は処置用マスク

長期ケア施設
・管理面での感染制御:疑いあるいは確定患者に対する治療を行わない。
・環境面での感染制御:感染制御体制が整っていない限り、エアロゾルを発生する作業は行わない。
・呼吸器防護による感染制御:搬送中、待合室あるいは他者がいるときにはサージカルマスク、処置用マスクを着用


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