安倍政権は、大学生らを対象とする奨学金制度について、返済不要の「給付型奨学金」を来年度に導入する方針を固めた。民進党などが参院選の公約として、同制度を創設する方向で進んでいることから、これに対抗するものと見られる。27日付各紙が報じた。
奨学金制度は、文部科学省が所管する「日本学生支援機構」が行う国の事業。その延滞期間が3カ月を超える延滞者数が、2014年度末で17万3千人いるという。これが「貧困化する若者」というキーワードで議論されている。
マスコミは、17万人という数字に焦点を当てて、奨学金制度を問題視。奨学金返済のために、風俗で働く人もいると伝える媒体もある。こうした報道に触れると、「国が何とかしないといけない」とついつい思ってしまいがちだが、果たして、実態はどうか。
延滞債権者の割合は低かった
実は、全体の割合から見れば、延滞者数は減少傾向にある。
数字は、奨学金の総貸付残高に対する3カ月以上の延滞債権比率。日本学生支援機構の資料より編集部作成。
学生支援機構トップの遠藤勝裕氏は、「延滞債権者の比率は2~3%。メガバンクもだいたい同じくらいなんですよ。無審査で貸与しているのに、この数字は本当にすごいことだと思います。日本人はやはり真面目な国民性なんだなと」と語っている(東洋経済オンライン2016年1月28日付)。
大学の進学率が高まった結果、経済的事情で奨学金を借りる人が多くなり、それに伴い、延滞者数が増えるのは自然なこと。延滞者数が増えてはいても、全体から見れば、その割合は減っていると言える。もちろん、延滞者が存在することは問題だが、マスコミの報道は、こうしたバランス感覚を欠いている。
大学の質も問うべき
経済的な面よりも大きな問題と言えば、大学教育の質の低下だ。
例えば、国際大学ランキング。最も権威があると評される「世界大学ランキング」では、2014年度に23位にランクインしていた東京大学は、15年度に43位に後退。シンガポール国立大学にアジア首位の座を明け渡している。
こうした評価はもともと、英語能力や外国人留学者数など、日本の大学が不利になりやすい設定があると指摘されている。だが、そうした事情を加味しても、日本の大学が国際競争力を増しているとは言い難い。
質の低下が進む大学教育の改善なしに、ただ補助金を投じるのはいかがなものか。「投資に見合った成果が出ているのか」という視点がなければ、日本の教育が向上することはない。
(山本慧)
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