それほど前のことではないが、
ある晩、私の窓の下を一組の男女が通って行った。真夜中のことだった。
二人はあるシャンソンを歌っており、私には題名はわからないが、
一度、生涯でただ一度だけ、
私が幸福だった時期に聞いたことがあるように思われた。
拍子のはっきりした曲で、
古いロンドのリフレインみたいなリズムと音調をもっていた。
(マルグリット・デュラス『戦争ノート』田中倫郎訳 P314)
実に20年ぶりほどのパリだった。
3月の気候としては60年ぶりの寒波、ということで、
実に寒く、そして断続的に雨も降って、
ようやく探し当てたサン・ブノワ通りも
雨にぬれていた。
『戦争ノート』にはこのサン・ブノワ通りの
アパルトマンに住んでいたデュラスが、
作家としてデビューするまえに書いた
短いスキットがいくつも載っている。
フランス語原文の”Cahiers de la guerre"からの抜粋を、
暇に任せて、
これから少し自分なりに翻訳してみたい、と思っている。
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