カディスの緑の風

スペイン、アンダルシアのカディス県在住です。

現在は日本の古い映画にはまっています。

天皇陛下の『お言葉』の重み

2016-08-08 18:53:17 | 日記


天皇陛下の『お言葉』が発表されたのは、日本時間の午後3時であった。

スペイン時間ではまだ朝の8時。

BBCニュースは英国発信だから、一時間遅れで午前7時。

しかし『お言葉』発表してまもなく、ニュース速報のかたちで

テロップで流れ、そして天皇陛下のご映像入りで、

ニュースキャスターが、「ご譲位を仄めかされた」という表現で

発表していた。


「日本の天皇は終身制で、ご譲位に関する法的な記載がない」

そして「天皇は2500年ほども続いている伝統である」とも

言っていた。


日本の天皇陛下は世界各国でつねに注目されている。

国民に対して直接お話になるのは2011年の東北大震災直後の

お言葉以来のことである、とも報道している。


ネットにあがってきた動画を3度拝見し、

お言葉全文をじっくり拝読して、わたしは深い感動を覚えた。


まず、陛下は「天皇という立場上、現行の皇室制度に

具体的に触れることは控えながら」とおっしゃり、

また最後のほうでも「憲法の下(もと)、天皇は国政に関する

権能を有しません」とおっしゃられたうえで、ご自分の「個人」と

してのお気持ちをお述べになっていらっしゃる。


しかし、憲法や皇室典範に直接にはお触れになっていないけれど、

内容としては実に深いところで、現行の皇室制度や天皇のありかたの

見直しをかなり具体的に国民に問うておられる。


まず気づくのは、陛下は『天皇制』というお言葉はご使用になって

いらっしゃらないことである。

『天皇制』という言葉は非常にバイアスのかかった

政治的な言葉であるから、

やはり『皇室制度』とわたしたちは言うべきであろう。


陛下は天皇の役割は、まず国事行為を行うこと、そして

日本国憲法下で象徴と位置付けられた天皇の望ましいあり方、

また『伝統の継承者』、という三点を挙げられている。


わたしが感動したのは、「日々新たになる日本と世界の中にあって、

日本の皇室が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、

人々の期待に応えていくか」というくだりである。


『いきいきとして社会に内在する』

このお言葉そのものを、陛下は皇后さまとともに

天皇の務めとして、国事行為とは別に行っていらしたのである。



私が天皇の位についてから,ほぼ28年,この 間 かん私は,我が国における多くの喜びの時,また悲しみの時を,人々と共に過ごして来ました。私はこれまで天皇の務めとして,何よりもまず国民の安寧と幸せを祈ることを大切に考えて来ましたが,同時に事にあたっては,時として人々の傍らに立ち,その声に耳を傾け,思いに寄り添うことも大切なことと考えて来ました。天皇が象徴であると共に,国民統合の象徴としての役割を果たすためには,天皇が国民に,天皇という象徴の立場への理解を求めると共に,天皇もまた,自らのありように深く心し,国民に対する理解を深め,常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じて来ました。こうした意味において,日本の各地,とりわけ遠隔の地や島々への旅も,私は天皇の象徴的行為として,大切なものと感じて来ました。皇太子の時代も含め,これまで私が皇后と共に 行 おこなって来たほぼ全国に及ぶ旅は,国内のどこにおいても,その地域を愛し,その共同体を地道に支える 市井 しせいの人々のあることを私に認識させ,私がこの認識をもって,天皇として大切な,国民を思い,国民のために祈るという務めを,人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは,幸せなことでした。



このお言葉の重みは胸にずっしりと響く。

国民にとって天皇はあたりまえに存在するのかもしれないが、

皇室という限られた世界に生まれ育った方々にとって

国民、という全体的な存在が、一人一人の個人としての

存在として認識されるには、長い間の全国行脚があったのだ、

そう思うと、天皇皇后両陛下のご努力がいかにたいへんなものであったか

想像するだけで目頭が熱くなる。



そして、摂政、という対処についてもこうお話になっている。


天皇の高齢化に伴う対処の仕方が,国事行為や,その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには,無理があろうと思われます。また,天皇が未成年であったり,重病などによりその機能を果たし得なくなった場合には,天皇の行為を代行する摂政を置くことも考えられます。しかし,この場合も,天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま,生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変わりはありません。


「天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、

生涯の終わりに至るまで天皇であり続けること」


陛下が最もおっしゃりたかったのは、この部分である、とわたしは思う。

つまり、そのような天皇の存在は、象徴天皇としてふさわしくない、と

陛下はお考えなのである。ご自分はそうはなりたくない、と。



そして皇室のしきたりとしての行事についてもふれ、

「こういう行事と新時代にかかわる諸行事が同時に進行することから、

行事にかかわる人々、とりわけ残される家族は、非常に

厳しい状況下におかれざるを得ません」とおっしゃっている。

やはり昭和天皇ご崩御の際のご自身の経験をふりかえって

おられるのだろう。


そしてご自分のご家族にはそのような重責を負わせたくない、

というお気持ちがおありになる。



このたび我が国の長い天皇の歴史を改めて振り返りつつ,これからも皇室がどのような時にも国民と共にあり,相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう,そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく,安定的に続いていくことをひとえに念じ,ここに私の気持ちをお話しいたしました。


陛下は天皇と国民の関係をきちんとご説明になったうえで、

そして日々変わっていく世界情勢もしっかりと認識されたうえで、

これからの皇室の安定的な存続を望んでいらっしゃることを

お気持ちとして明言なさっている。



つまり、摂政や、一回限りの措置として、この「ご譲位」の意向を

受け止めるのではなく、今後の天皇のありかたとして、

定着させていく方向で、制度や法を整備してほしい、と

願っていらっしゃるのである。


政府は今後、有識者会議を設置して具体策を検討するようであるが、

今回の陛下の率直なお発言が、さまざまな既得権益にしばられた

政治に利用されることは、絶対にあってはならない。



外国と安易に比較することはできないが、世界に国王を元首として

いただく国はいくつもある。

その多くの場合、元首である国王は「国の象徴」であり、

直接政治に関与することはない。

英国のエリザベス二世女王も、元首であるが

象徴としての存在であり、国政には口をださない。

現在の憲法下では『元首』の記載はない。

だから天皇は『元首』ではない。



ただ、日本の天皇、という世界のほかの国には例をみない

歴史的存在については、日本の国民が一過性の感情だけでなく、

これからも続いていく皇室という大きな視野から、

そして世界と日本の関係についても客観的に

考え、議論していかなければならないだろう。




お言葉の全文はこちら↓


http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/12





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