『奇跡の丘』
原題: il vangelo secondo matteo (マタイによる福音書)
監督・原案・脚本: ピエル・パオロ・パゾリーニ
1964年イタリア、モノクロ映画
パゾリーニは1963年にロッセリーニやゴダールなどの監督作品との
オムニバス・コメディ映画で、『ラ・リコッタ(意志薄弱な男』という題の短編で
イエスの生涯を描いたが、イタリア当局の検閲で、
「 . . . 本文を読む
女の情念、情欲の世界を描いて秀逸なのは成瀬巳喜男監督である。
結婚も離婚も、再婚も経験した成瀬はまた、
林芙美子の熱烈なファンであった。
脚本も女性に手がけさせて、
女の気持ちに近づこうとした。
成瀬の映画には成瀬自身の影は見えない。
まあわたしはそれほど多くの成瀬映画を見ていないから、
一概には言えないのだろうけれど、
少なくとも成瀬巳喜男の女の描き方は
そ . . . 本文を読む
小津映画はすでに何本も見ていて、どの作品もそれなりに楽しんでみていたのだが、
この『東京暮色』を観た後の後味の悪さは格別だった。
その前に『早春』をみて、小津が女の行動は描けても、深い内面の葛藤や苦悩は
描けない監督だな、と思ったのであるが、『東京暮色』はもっとひどい。
まるで和食の板前さんが、何を勘違いしたか、濃厚な中華料理をてがけ
化学調味料たっぷり使って仕上げ . . . 本文を読む
小津監督のメロドラマ特集として、英国アマゾンで売られているセットには
『早春』『東京暮色』そしてサイレント映画の『東京の女』(1933年)が
収録されている。
『東京の女』はまだ見ていないのだが、『早春』と『東京暮色』、二本
続けてみてみた。
まず『早春』。この映画は不思議な光景が多い。
毎朝、蒲田駅8時28分発(だったかな?)の電車にのるために、
若い男女がぞく . . . 本文を読む
これも子供たちを主人公にしたお話である。
時代は1959年、もはや戦後の暗い雰囲気はなく、
おそらく1964年の東京オリンピック開催が決定していて
東京が変わりつつある時代だったのであろう。
東京の下町の川沿いにある新興住宅地、
建物を見ると都営住宅のような画一的な平屋だての長屋のような
家が密集している住宅地で暮らすサラリーマン家族の日常を描いている。
新興住宅 . . . 本文を読む
小津の映画にはよく子供たちが登場する。
多くの場合、男の子の兄弟、あるいは一人息子である。
その子供たちはやんちゃで、腕白で、学校をさぼったり
親に口答えしたり、とても元気な子たちである。
そういう子供たちを主役にした小津の作品、
戦前のサイレント映画『大人の見る繪本 生まれてはみたけれど』と
戦後のカラー映画『お早う』の二本が、英国アマゾンからとりよせた
DVD . . . 本文を読む
成瀬巳喜男監督の映画、『浮雲』『女が階段を上る時』『晩菊』
という三本の作品を見たのにはわけがある。
それはこの三本がワンセットになって、英国アマゾンで販売されていたからである。
成瀬監督の映画は、『乱れる』も見ていたのだが、それはわたしがまだ
高校生の頃で、はるか昔のことだ。成瀬巳喜男、という名前も知らなかった。
ただ、加山雄三は当時、若大将として一世を風靡 . . . 本文を読む
原作は林芙美子の小説、『晩菊』『水仙』『白鷺』を
一つにまとめて映画化したもの、ということで、
昔芸者仲間だった四人の中年女性の零落した姿を描きながら、
感傷におちいることなく、ユーモラスで、また
ペーソスあふれる作品である。
脚本は、田中澄江、井出俊郎。
枯れ残る晩菊にも似て
四人のおんなが辿りゆく
哀感の人生旅路
映画のポスターにはこのような言葉が入 . . . 本文を読む
『浮雲』とはうって変わって身持ちの固いバーのマダムを演じている
高峰秀子が実に美しい映画である。
衣装も担当した、という高峰は、地味だが江戸好みの縞模様や、
肩身替わりの粋な着物姿で、上手に客をあしらう。
映画の筋は単純である。
秋も深くなった銀座のあるバー。
その階段を女が上る。上がってしまえば、その日の風が吹く。
銀座のバーの雇われマダムをしてい . . . 本文を読む