せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

罪深き微笑/罪無き冷笑

2009-07-20 05:37:51 | ネタ張
ヴェスペリアが楽しかっただけです。
とても楽しかっただけです(´∀`*)

罪深き微笑/罪無き冷笑
ユーリがぐれたりぐれなかったりする。
エステルとああだこうださせたい←

ぐれなくっても付き合わない。
ぐれちゃったら犯罪者。

…俺の中のユーリが!/(^O^)\

違(たが)う指先へ捧ぐ

2009-07-20 04:46:35 | テイルズ
怖い夢を見た。
雨の中で消えそうに霞むあの人が、知らない女の人の肩を優しく抱いてドアへと消えていく。私の方へは見向きもせず、見たことも無いような綺麗な笑顔を見せて、明るい声のする方へと行ってしまう。私はおいてけぼり。いつだってあの人に背中を押してもらっていた私は一人でなんて歩けなくて、自分で肩を抱いてへたり込むのが精一杯だった。

「ユーリ…」

強い雨音が声を掻き消してしまう。宿屋からもれる笑い声にあの人のものが混じっていて、そこに私が居ないことがとても悲しく思えた。はしたなく地面に座り込んだまま、仕方ないなと言って立ち上がらせてくれる人も居ない。怯える私に手を差し出してくれる人も居ない。くしゃりと顔を歪めたのを誰にも見られたくなくて、俯きながらそっと耳に蓋をした。話し声。笑い声。あの人を呼ぶ声。どれも聞きたくなくて、見たくもなくて、そっと目を閉じた。

「ユーリ…!」

冷たくて寒くて、本当にどうにかなってしまいそうで、必死に叫んだ。届け、届け、届け。胸の辺りがちくちくして、綺麗に整えてきた髪はぐしゃぐしゃ。あの人の隣に一人で立っていられる力も勇気も無くて、ただただ泣くだけ。ここにはフレンもリタも居ない。ジュディスやカロルやレイヴン、ラピードも居ない夢の中では、一人きりになった夢の中では、私は無力すぎるほどに無力だった。この細い腕では、あの人を引き止めることすらできない。この細い足では、後を追うことすらできない。

「ユーリ、すきです、本当に、好きなんです…!」

あの明るい部屋の中には、暗いこちらの声は届かないだろうか。窓から一瞬だけ見えたあの人は笑っていた。ぽろぽろと泣きながら、気持ちに鍵を掛ていた小箱から声が漏れ出して、独りでに叫んでしまう。あの人は、笑っていた。隣の女の人も、幸せそうに、笑っていた。明るい部屋は、何故かとても、遠く見えた。

この声はやっぱり届かなくて、そんな台詞、きっと将来言うことはない。たったそれだけのこと。




ある時ふと思い出した怖い夢。あの人の瞳を覗き込むと、好奇心旺盛に覗き返してきて、「どうした?」なんて問われる。私は「なんでもありません」とゆっくり笑って誤魔化して、後から少し照れくさくなってきて、少しだけ俯いた。

―――
(違う指先へ捧ぐ)
きみをわすれない。


ユーリが好きじゃないならエステルだって好きじゃないもん!!(?)
すみません眠かったんです。なんか、言いたかったのと、ちがう…。

エステルは頭のどっかでユーリが自分の方を向いていないのに気付いていて、けれどそこまで考えは及んでいなくて、問い詰められるほどの勇気もない。ユーリが居ると心に閉じ込めている思いは苦しくて、でもユーリが居ないと、その思いを受け止めてあげることも、口にすることもできない。
ユーリが居ないと、エステルはここで終わっちゃう。そうやって一生もだもだ。

でも最終的に幸せになるのがいいと思(ry

書きたかったのはもっとコアな話だったハズなんだがとりあえず眠ります。おやすみなさい。すみませんでした。




あと私のユリエスにパティの入る余地なんかない。ない。(大事な事なので二回ry)

夢の方へ、手引き人

2009-07-20 02:39:13 | テイルズ
迷ったときにはいつも、暗い方から手を伸ばしてくれる人が居た。
どんなに深い闇の中に放り出されても、必ず見つけ出して光の方へ導いてくれた。けれどその人は決して同じ方向へ行こうとしなくて、気付けば手を離されて、また私は迷子になっている。
その時には既に、光の方から手を引いてくれる人が居たけれど、やっぱり私は気になって、暗闇の方へ振り返る。するとその人はいつでも微笑んで手を振ってくれた。「おいでよ」と声をかけると、「ごめんな」と返される。いつも声は聞こえなくて、ああ、心の声なのかな、と少しばかり思う。せめてその人に贈ろうと投げた花は、誰かが横から奪い去ってしまうから、私はその人に何もしてあげられない。

光の方へ引いていく誰かより、闇の方で哀しく笑う誰かを、抱きしめてあげたかった。そんな夢を見た。

―――
(夢の方へ、手引き人)
ゆめのほうへ、てひきびと。


テイルズなんだ。登場人物は3人(+1)なんだ。誰が何と言おうとそうなんだ。
ただ私はその…片思いだと知ってorzしただけなんだ。

例えばそれは、吸血鬼の哀願

2009-07-18 13:15:59 | 小説
森の奥にあるという古びた洋館には、この世で最後の魔女が住んでいる。

背の低い草を掻き分け、突き出した木の根に躓きながら、それでも足を休ませることはしないで走り続ける。
夕暮れに染まり始めた空は世界に警告をしているようで、焦りに心臓は早鐘を打った。橙色の木漏れ日が次第に赤くなり、その色はまるで大昔の大戦で大地に染み込んだ血が吹き出しているかのようで込み上げる吐き気によろめいた。
この森には多くの魔物が棲んでいる。昼間は木や花に化けているそれらも、月が出れば恐ろしい姿を露にするのだ。
だからこそ、闇が落ちるまでにこの森を抜けなくては。魔物と立ち向かうには、この体は無力すぎる。

「は、ぁ…っ」

乱れた息のせいで空気に撫で回された喉が飢え乾く。血が、血が飲みたい。柔らかな皮膚に牙を立て、溢れる生暖かい赤に酔ってしまいたい。その衝動に任せて、手のひらから滲む甘い臭いに口をつけてしまった。
けれど身体がそれを許すはずもなく、途端に強い目眩に形振り構わずしゃがみこむ。

「ぇ…っあ゛、ぅぇ……~~っ!!」

乾いた喉を引っ掻くように通り越し中に流れ落ちた液体を吐き出そうとしたのに、押し出せるだけの何かが残っていなかった。もう何日も食べていない。限界を訴えて軋む体に、不愉快な吐き気だけが残った。それでも、せめて魔女に会うまで死ぬわけにはいかない。
今にも崩折れそうな足に力を込めると、軽い衝撃と同時に景色が傾いて強かに顔をぶつけた。膝裏に感じる不自然な熱さ、そのせいで射たれたのだと解ってしまう。全身の血の気が、一気に引いた。

「見つけたぞ、こっちだ!!」

突き立った矢を引き抜き、弾かれるように走り出す。
夕闇に落ちる森をものともせず荒い足音が草木を裂き弓矢が雨のように降り注ぐ。耳元を掠め頬を擦り足跡を突き刺す雨が責め立てる、化け物、人殺し、吸血鬼。優しかった母上がいきなり俺に冷たい視線を向けてきたその日、暮らしてきた屋敷には火を放たれ追われるままにこの森へと逃げ込んだ。
魔女に会えば、きっと救ってくれる。忌々しい性を取り去って、そうしたらきっと母上にもう一度会える。抱き締めて愛していると言える。母上に、母上に。
疲れて引き摺るように動かしていた足が縺れて、茨の這う茂みに倒れ込む。薔薇の匂いが鼻をかすめて諦めに目を閉じる瞬間、赤い靴と白いスカートが見えた気がした。

「消えなさい、目障りなのよ」

大人びた子供の声で、聞き慣れた罵りが聞こえる。魔術だろう、迫る風音。反射的に身を竦め来るべき衝撃をやり過ごそうとした。
けれどいつまで経っても意識は絶えず、風音は頭上を逆巻いて走って来た方向へ飛んでいく。安全だとは言い切れず、寧ろ芯から冷え込むような恐怖を感じるほど。
それでも目を開けた先には、ワンピースの裾を放った魔術に揺らす、華奢な少女の姿があった。追ってきた人間の行く先を攻撃し、冷たい薄緑の目で怯える男衆を見据えて、威圧的な声を発した。

「…人間が魔女の領土に立ち入ることは許されない。覚悟があるのならお入りなさい、相手をしてやるわ」

右手に添えられた手に、紋様が浮かび上がる。口ずさむ呪文は大昔のもので、おそらくこの辺り一体は更地になるだろう。
誰が始めだったろうか。天を裂く叫びと共に、人間の群れが引いて行く。我先にと林を掻き分け躓きながらも、決して立ち止まらず先ほどの自分のようだと、冷めた頭で考えた。
一刻もかからず森には静寂が戻り、少女と残されたまま呆然とうつ伏せる。人間が居なくなった森には既に闇が落ちていたのに、魔物の姿はどこにもない。ここは本当に、魔女の領土なのだろうか。
魔女。彼女はそう言ったはずだ。目指していたものに、やっと辿り着けたのだと実感した途端身体中の痛みが引いた。
ぱっと顔を上げると、少女の冷たい双眸にぶつかる。それ以上、視線を動かすことができない。人間たちへの問いと同じく、覚悟があるかと訊いているように見えた。
黄緑のツインテールを腰まで伸ばし黄色いリボンを巻いて、膝丈の白いワンピースの袖は長いのか指先が僅かに見えている程度。可愛らしい姿なのに、死神のような雰囲気を纏った少女だ。

「…っおれは、死にたくない」
「そう」

思わず口走った言葉に返される無感情な相槌に、畏怖で掌が震えた。不用心な事を言えば、骨の一欠片も残さず塵になるだろう。このまま、魔女に会えず死んでしまうのだけは嫌だ。少女が痺れを切らす前に、緊張で乾いた唇を舐めて口を開く。

「おれは魔女に、会いたい。どんな代償を、払っても…例えどんな結果が、待っていても」

もう塞がってしまった膝裏の傷口を一瞥して、沸き上がった感情を噛み殺した。この不死の体では得るものが多い分、失うものは大切すぎて、大きすぎる。この気持ちだけは揺らがない、死にたくはない。けれど、魔女には会う。

「…そう」

一瞬、口元が緩んだかと思うと、短い言葉を残して少女は背を向けた。
悠然と歩き去ろうとする背中に急かされてようやっと立ち上がる。けれど一、二歩と進める度に募るのは不安ばかりで、十歩もしないうちに立ち止まっていた。猜疑心が地面から手を伸ばし、足を絡め取っているようで、目眩すら感じる。
ついて行ったとして、魔女は本当に俺を受け入れるのだろうか。そこに、居場所はあるのだろうか?
俯いて地面を睨み付けていると、不意に遠くから少女に声をかけられた。

「…来たいのなら来ればいいじゃない。あなたは覚悟があると言った、それならもう止める理由もないもの」

それから少女はにこりと作り物めいた笑みを浮かべて、ゆっくりと一歩近付いて来る。小さな手のひらが差し出され、気づけば誘われるように手を重ねていた。

「ようこそ、最後の魔女フォレッタの館へ。わたしはエテ、あなたは?」

―――
(例えばそれは、吸血鬼の哀願)

眠れる悪夢

2009-07-16 19:28:43 | 小説
(「優しい悪魔」前提、シュールレアリズム)

首を締める手に爪を立てて、嘲笑いながら彼女は死んでいく。


かわいそうなこ。いつだって彼女はそういう目をして俺を見る。それがとてつもなく、嫌だった。なのに言葉だけは優しくて、どちらを信じていいのかわからなくなる。信じられたとしても、それは都合のいい甘言でしかなく、単に疑心暗鬼を駆り立てるだけだった。嘔吐に近い不快な息を吐き出すと、それは言葉になって棘をもつ。

「おれ、は、…俺は、可哀想なんかじゃねェ…ッ!」

彼女の顔が一際歪んで、手を抉る爪が皮膚の上をざりりと滑った。それでも彼女は笑っている、―嗤って、いる。その様がどうしようもなく苛立って、口元に亀裂のような笑みが広がるのがわかった。その彼女の全てを握っているのは、自分だ。

「言えよ、可哀想なんかじゃないって。否定しろよ、ほら、早く、お前を壊したく、なるだろ…?!」

触れた指先から甘い毒のような暖かさが広がって、笑いとも嗚咽ともつかない感覚が背筋から這い上がる。もっとだ、もっと、たりない。耳元で囁きかける醜い欲に応じるかのように、指先は彼女のか細い首を強く締める。白い頬に伝う涙は彼女の瞳から零れるものではなくて、ああ、泣いているのは自分だと気づかされた。
暗い部屋に、嗚咽が響く。なかなか答えない彼女にまた苛立って、首を持ち上げようと指先を、

「もう、死んでるよ」

―確かに、引いたのに。
鈍い音を立てて後ろに傾いた彼女の笑みは、色を失った瞳をどこかに向けたまま指先をすり抜けて床へと落ちた。人じゃない、首と躰の継ぎ目。まざまざと見えた断面に底知れぬ感情が溢れ出た。ハラワタに氷を詰められて、中を素手で掻き回されるような感触。
自覚した時には既に、内蔵の中にあるものを吐き出していた。さっきの声の主は、それを凍てつくような無感情で見下ろしているのがわかる。

「なんでだ、」

荒い息に唾液を混ぜて吐きながら、喘ぐように抗議する。

「なんでだ、なんで見てたのに、止めなかった…!!」

度し難いその行動に、背筋すら凍った。餓鬼の姿をした店主はランタンの火すら揺らさず無表情に首を傾げると、一瞬にして淡麗な顔を嘲笑に歪めた。それはどこか、傷口が開くのにも似た笑み。恐ろしいという感覚を覚えるよりも先に、全身が粟立つのを感じた。

「関係ないもの。僕らはお前に興味もないし、苦しいのはお前ひとりじゃないか。僕らには関係ない」

饒舌に、じわじわとその音の羅列は俺を追い詰めて、奈落へとけしかける。やめろと呟いたはずの声は舌の上を滑り落ち、浅い息になって俺の喉を詰まらせた。
餓鬼はその場を動こうとしない。それどころか一歩二歩と近付いてきては、眼前にランタンをつきつけて、嘲笑の色を濃くしただけだった。その全てが俺を追い詰め、掌が恐怖に震える。

「誰もお前を助けたりなんかしないよ」

また無表情で告げられた絶対零度の声色に、刃を腹に刺されたような、そんな心地がした。心臓が大きく一度脈打ったきり体が芯から温度を失って、全身に押さえようのない震えが広がっていく。焦点の合わない視界は濁り、息が上ずって上手く呼吸を整えることができない。喘ぐように開きっぱなしの口からは獣のように唾液が垂れ、目を閉じることすら忘れていた。
襲い来る得体の知れない恐怖と苛立ちにきつく奥歯を噛み締め餓鬼を睨み付けると、頬を切ったのか血の味が広がった。

「黙れ…黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!だまれ、ぇ…ッ!!」

心からの咆哮。弾かれるように立ち上がって餓鬼の首を掻き切ろうとしても、ひょいとかわされまた床に転がるだけだった。最早起き上がる気力も尽き果てて喘ぐ俺を、餓鬼は軽蔑の眼差しで一瞥すると、闇に融けて消えてしまった。
行き場の無い怒りが脳内で燻り、つんと熱くなる。

「お前に、オレサマの何がわかる…!」

吠えるように闇へと叫んだ。誰も、俺と彼女以外は誰も居ない部屋。静寂に声を吸い込まれて、乾いた目元に自然と新たな雫が伝い、乾いた感情をまた思い出させる。
虚しさに目を閉じて視界を闇に落としたと同時に、冷たく張りの無い膨らんだ指先が首元に絡み付いた。

「――かわいそうにね、カイ」

甘く鈴を鳴らしたような声が響き、閉じていた目を驚きに大きく見開く。可愛いはずの声が今はとてつもなく恐ろしく、一度視界に捉えてしまったその姿から目を離すことができなくなってしまった。
首には指に沿った4つと1つの跡が二つずつ。鬱血して紫陽花色に染まった線は、丁度自身の手と長さが合う。やや長めの黒髪からは木漏れ日の匂いがして、そこには全てが欲しいと手にかけた彼女が居た。朽ちるその一時前と変わらない姿で、挑発的な笑みを浮かべながら。

「やめろ、おれは、かわいそうなんかじゃない」

震える声で、辛うじて否定する。と、今まで首に絡んでいただけの手が唐突に気道を塞いだ。息を詰まらせて空気を吐き出す俺を見て、彼女は満足そうに微笑む。花が咲くように、ふわりと。

「苦しい?カイ。私も苦しかった。すごく、苦しかったよ…」

絡み付いた細い指に、首をへし折ろうとするかのごとく力が込められていく。ただ、変わらない笑みを湛えながら。
けれどそんなことでは死ねない体は、彼女の希望に反していくら息が詰まっても、いくら苦しくても、限界を感じることはなかった。

「ひどい。抵抗できないの知ってて、力加減もしないで、―苦しかった…」

表情は微笑みながら、口からはえもいわれぬ恐怖感を纏った言葉が無邪気に紡ぐ彼女。
ゾッ、と、身体中の血が引いていくのを感じた。彼女の同じ匂い、彼女と同じ声、彼女と同じ姿。それなのに、何故かそこには強烈な違和感が存在した。"これは、彼女じゃない"。妙に確信めいてそう感じた。彼女はこんな笑い方は、しない。これは、彼女じゃ、ない…!!
抵抗を始めた俺を押し倒して、彼女に似た誰かは不愉快な笑い声を溢した。

「あは、ひどいな…私は逃がしてくれなかったのに、自分は逃げようとするんだ?」

耳元で囁かれる甘い声に脳天まで広がって弾けた恐怖は使ったこともない防衛本能を呼び覚まし、しなだれていた手が独りでに女を突き飛ばした。短い悲鳴を上げる華奢な体に覆い被さり、また首を締める。もう何が何だかわからなかった。ただ気づけば無我夢中で、泣きながら女の首を締めていた。
ついさっきまでは確かに彼女だったその女は、自分の首を絞めている俺の手に爪を立てて苦しげに、強がるように笑う、嗤う、晒う。

「可哀想で、馬鹿なひと。どうしてそんなに苦しそうな顔をしてまで、"また"私を殺すの?」

彼女はこんなことを言う人じゃなかった。もっと強がりで、生意気で、怖がりだった。最期まで狂気に呑まれた俺を信じて、愛して――いて、くれたのだろうか、本当に?もしもこれが、彼女の本音だったのだとしたら―?
視線を逸らすと、迷いでほんの少し指先の力が緩んだ。だってこの女は、彼女の姿をしている。
そうして疑っていたから、彼女が笑うのに気がつけなかった。
そっと、暖かい指先が頬を撫でる。

「…でも、愛してる。ずっと、誰が…貴方を見捨て、ても、傍に居る…。…、…大好きよ、カイ」

その暖かさに身を引く前に、頬を撫でていた指が肌を滑り落ちた。
手元に感じるこの感触を、知っている。魂が体からすり抜けて、どこか手の届かない場所へ行ってしまう、その感触。―彼女が事切れる方が、先だった。

「…っ、ぁ…」

絶望が情けのない声になって口から零れ出る。

「嘘、だろ?…――…ッ!!」

どうしようもない喪失感に忘れたはずの名前を叫んで、泣いて泣いて泣いて、物言わぬ彼女を恐れて後ずさる。

「あぁぁあぁあッ!」

頭を抱えて目を、耳を塞ぎ全てを拒絶した。解らない、解りたくもない。彼女は物言わぬまま微笑んで、そしてそのまま―。



「…、…また信じて、やれなかった…」

目を開いた先に彼女の亡骸は無く、まだこの手にはリアルな感触が思い出されるようだった。手を伸ばしては、いつか彼女の魂が消え去った虚空を掴んで目を覆う。

最期まで彼女は、笑っていた。

―――
(眠れる悪夢)
君を殺したこの部屋で、終われない悪夢を見ている。

ほろりほろ、ひらひらり。

2009-07-16 15:11:55 | 小説
咳き込んだ指の隙間から、はらりと赤い花が落ちる。いつこうなったのかはこの体が忘れさせてしまった。人ならざる僕らが覚えていられることなど、結局そう多くはない。

「ほろ、ほろり。ひら、ひらり」

そう言って、記憶の中の誰かは笑いながら歌う。障子と襖に仕切られた、暗い部屋で歌う。

「灯火消えたる殻繰は、ほろりひらひら華になる」

-けれどその先を、僕は聞いたことがない。

「忘れないでと、花になる。ほろりひらひら、ほろりひら」

---
(ほろりほろ、ひらひらり。)
一番目おもちゃは、華になり。


携帯だと書きたいこと忘れる…(′・ω・`)

優しい悪魔

2009-07-04 03:26:27 | ネタ張
壁際まで追い詰めて、もう逃げられないと紡いでは、心が壊れるまで弄ぶ。狂って可笑しくなってしまうまで、何も感じなくなってしまうまで。そうして壊した心を食むたびに、ふと目の前が真っ暗になるのだ。そこではいつも、「俺」が「彼女」の首を絞めている。彼岸花の咲き乱れる暗い部屋。「またわたしをころすの?」まるでいつかのように彼女は鮮明な声を響かせて口を開く。彼女は笑って嗤って哂って、彼女は最期の最期まで俺を哀れむような目を見開いていた。

―――
(やさしいあくま)

本当は寂しくて、けれどこの手は、「彼女」を殺したことがある。
人の細い首がだんだんと温度を失って、魂がこの手からすり抜けてゆく感覚。
こびりついたあの笑い顔。哀れみの目。床に散らばった黒い髪。

「お気に入りは壊すしかない」
だって、いつかはどこかに行ってしまう。自分を置いて、どこか遠くへ、消えてしまう。

微笑む「彼女」をころして、心を食んで、そうして彼は孤独になった。
イレモノと化した「彼女」は彼の言うことをなんでもきいた。
けれど主の魂を失ったイレモノはもう、ただの操り人形と違わない。

愛せといえば微笑み空の口付けを(けれど瞳はわらわない)
泣けといえば目から硝子を垂れ流し(それは涙とはよばない)
消えろといえば、いつでも霧の様にきえてしまった(彼女はそんなこと、しないといった)

彼は泣いて泣いて泣き続けた。
やがて涙は枯れて、そこには悲しみだけが残った。

本当は寂しくて、けれどこの手は「彼女」を殺したことがある。

大切なひとを、殺人鬼の傍になんて、おいておけるわけがない。
大切なひとを、殺した男の傍になど、おいておけるわけがない。
大切なひとを、ふたりきりの部屋に、おいておけるわけがない。

本当は寂しくて、けれどこの手は「彼女」を殺したことがある。

けれどこの孤独の独房では、君も寂しいだろう?
けれどこの孤独の独房では、君は壊れてしまうだろう?

だから彼は、泣いて泣いて泣き続けた。
やがて涙は枯れて、そこには悲しみだけが残る。

君を殺したこの部屋で、終われない悪夢を見ている。