俺が入院してから一週間後、今度は由紀子が運び込まれた。
手首を切るだとかそういった生易しい自虐行為ではない、ただの自殺未遂だ。うちに一本しかない果物ナイフで腹と喉を割いて、意識がある内に血を流しながら実兄へ遺言に似た電話を掛けたおかげで一命を取り留めたらしい。隣で電子煙草をくゆらす以前俺の腹を裂いた男から短く聞いたが由紀子は掠れ地を這うような声で言ったそうだ、「幸一が痛いのは嫌」その言葉が、一番俺の胃を締め付けた。
集中治療室で管に繋がれた彼女の姿と、飄々とした彼女の実兄を見比べるうち自然と唇が開き、声にならない声が漏れた。
「由紀子、―――――」
自分でも聞き取れなかった声を他人が聞き取れるはずもなく、その場に居た数人が突然立ち上がり実妹を蒼白の表情で眺めながら何事かを呟く俺を怪訝そうに見た。
言わないと。彼女に。今度こそ言わないと。何度も言おうとしてその度に彼女に説得され言えずじまいだった言葉を言わないと。たった一言口にすれば、届かなくともせめて楽になる。開放される。彼女は俺から。俺は彼女から解放される。なのにこの期に及んでこの喉は張り付きまるで音を発してくれない。
「―――――っ」
わかれよう、とは、言えない。
―――
特に意味とかはないんだけど
手首を切るだとかそういった生易しい自虐行為ではない、ただの自殺未遂だ。うちに一本しかない果物ナイフで腹と喉を割いて、意識がある内に血を流しながら実兄へ遺言に似た電話を掛けたおかげで一命を取り留めたらしい。隣で電子煙草をくゆらす以前俺の腹を裂いた男から短く聞いたが由紀子は掠れ地を這うような声で言ったそうだ、「幸一が痛いのは嫌」その言葉が、一番俺の胃を締め付けた。
集中治療室で管に繋がれた彼女の姿と、飄々とした彼女の実兄を見比べるうち自然と唇が開き、声にならない声が漏れた。
「由紀子、―――――」
自分でも聞き取れなかった声を他人が聞き取れるはずもなく、その場に居た数人が突然立ち上がり実妹を蒼白の表情で眺めながら何事かを呟く俺を怪訝そうに見た。
言わないと。彼女に。今度こそ言わないと。何度も言おうとしてその度に彼女に説得され言えずじまいだった言葉を言わないと。たった一言口にすれば、届かなくともせめて楽になる。開放される。彼女は俺から。俺は彼女から解放される。なのにこの期に及んでこの喉は張り付きまるで音を発してくれない。
「―――――っ」
わかれよう、とは、言えない。
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特に意味とかはないんだけど