粗茶淡飯

中国・台湾・日本のお茶に関する色々。執筆者・徳田志保。

昔話@鳳凰単叢②

2016-07-31 20:47:43 | 烏龍茶(中国茶・台湾茶)



⚫︎実は…「単叢」という言い方は比較的新しい言葉?


鳳凰単叢の産地である広東省潮安県鳳凰鎮の山村に住む人達は鳳凰単叢のことを2つの呼び方で呼びます。

1つは「単叢」…これは鳳凰単叢に詳しい方ならご存知の通り

2つ目は「香茶」…これはご存知ない方もいらっしゃると思います。

単叢という呼び名は中国建国以降につけられたもので、解放前はその出来によって総茶、水仙、香茶と呼び分けていたそうです。

(現在では総茶、水仙、浪菜、単叢と分け、総茶と水仙は更に級→等と枝分かれします。この詳細については、専門の方に詳細を聞いてみてくださいね。)

今でも地元の村民同士では「単叢」より「香茶」の方を使うことが多いのですが、外部の人との交流には「単叢」を使ってます。

単叢という言葉は地元の人にとっては
どちらかというと、少し改まったよそ行きな感じなのかもしれません。



⚫︎昔、ウードン村には人が住んでいなかった!?

ウードン村に人が住み始めたのは、中華人民共和国建国後のことなのだそうです。それまでは皆さん山の麓に住み、普段は田んぼの手入れをし、お茶の季節になると山へ上がってきていたのだとか。そう言われて見ると…確かに山の麓の街とは違い、ウードン村に保存の価値がありそうな古民居はありません。昨今は新しい自宅兼工場の建設ラッシュですし…。

(続く)


昔話@鳳凰単叢①

2016-07-30 22:09:20 | 烏龍茶(中国茶・台湾茶)
国産紅茶の記事がようやく終わったので、今度はこちら…。↓




以前のブログに書いたもののリメイク版ですが、鳳凰単叢が中国農業文化遺産に認定されたことで、このお茶を巡る全ての条件、環境が激変しようとしている今、改めて当時(2001〜13年)聞いた話を、こちらでも残そうと思いました。これからこのお茶はドンドンよそ行きの姿を確立して行くことになると思います。

私は若くして北京に留学したこともあり、中国語(標準語)の日常会話には不自由しません。上海にも長期滞在したことがあるので、上海語やその周辺の方言(杭州、無錫、宜興の言葉など)もごく基本的なことは聞くだけなら何とかなります。

ところが…潮州語となるとちょっと事情が違います。潮州市内で使われる潮州語は少しだけわかるのですが、鳳凰単叢が作られている地域に入ると、言葉がまるで同じ潮州語とは思えない位違うように聞こえます。私自身の年齢が上がって学習意欲が低下しているせいかもしれませんが、恥ずかしながら15年もこの地域に通いながら、この地域の方言は未だにきちんと習得できていません。(お茶に関する単語位なら辛うじて何とかなりますが…。)

標準語の使用で周囲とのコミュニケーションに障害があまりないことも原因でしょうが、全く皮肉なものです。
近年になって、この地域の言葉が客家語の影響を強く受けていて、それが私の語学の習得を妨げている!?ということもわかりましたが…まぁ、言い訳にしかなりませんよね。(^^;ゞ

…ということで、前置きが長くなりましたが、それでも、色々な方法でコミュニケーションを取ってきたことで、鳳凰単叢というお茶を私自身が外部の人達よりは、多面的に見えていることは確かです。

近い関係にある茶友や、中国茶を勉強中の方々が私のブログに望むことも、地元のエッセンスや臨場感を伝えることにあると思いますので

「昔話@鳳凰単叢」

というテーマで
地元の言葉やその周辺地域の人達とのコミュニケーションからわかった情報を少しずつ書いてみたいと思います。

このシリーズで書くお話は2016年現在、70歳以上になっている方々の証言です。









国産紅茶⑤

2016-07-29 23:07:54 | 国産紅茶(和紅茶・日本茶)
↑台茶18号

長いシリーズになっていますが、もう少し頑張ります。(^_^;)

さて、現在日本の茶生産者が紅茶を作るにあたって、どんな問題があるのでしょう?

以下はオーソドックス製法に当て嵌めた話になります。

✳︎栽培

施肥についてはネット上で色々言われていますので省略します。
個人的な意見としては私も窒素や硫安に頼るような施肥の習慣は感心しません。ですが「有機肥料だから良い」「無施肥だから味わい豊か…」という話も、概念としては理想ではあるものの、それを実現するには幾つかの先天的な前提条件が必要で、時と場合によることを皆さんに理解していただきたいと思っています。くれぐれもネット情報などに惑わされず、現場の考えも聞いていただきたいです。

中華圏では、どんな作物に対しても「肥料要施对。」(肥料は正しく施すことが大切。)と言われており、何でもかんでも無施肥にすれば素晴らしい味わいのお茶になるかと言われればそうではなく、有機肥料なら良いかと言われれば、その作物が求める成分と量が合っていなければ何の意味もありません。これらの事をバランスよく理解することが肝要かと思います。

✳︎品種

当然ですが、紅茶向きの品種とそうでないものがあります。

✳︎摘採

これは…技術の高い摘み手の手摘みなら最高ですが、日本ならではの問題もありますね。(^_^;)

✳︎萎凋

ここが結構勝負の分かれ目になります。施肥に問題があれば萎凋も上手く行きづらいですし、萎凋がキチンと出来なければ、次の揉捻→発酵に影響します。日本の気候で安定した紅茶を作るには、「萎凋槽」はあった方が良いと思います。何人かの生産者さんは費用はそうかからずに、DIYで、加温機能、風量調節可能なものを作っています。

↑こんな光景は日本ではあまり見られないかも?

✳︎揉捻

葉を傷つけることで、酸化発酵させる訳ですが、これにもコツがあります。ただ圧をかけて揉めば良いというものではなく、揉む速度や時間も、生葉の条件やその日の天候によって違ってきます。私の中国の友人は、揉み始めてから完了するまでに、お茶の香りが6回、明らかに変化すると言います。でも毎回のそれがいつなのかは、一様ではないそうなので、余程年季が入って慣れている人でない限りはタイマーセットしてその場を離れる…というのは不可能でしょう。

✳︎発酵

正山小種、白琳工夫、宜興紅茶、祁门紅茶、日月潭紅茶の産地を見てきた経験からすると、発酵の設備は空間が小さ過ぎると何かしらの不具合が生じます。湿度、温度は勿論のこと、その出入り口、対流のバランスを考えなければなりません。

✳︎乾燥

少量の時は棚型乾燥機でも良いと思いますが、量がある程度増えてきたらやはり、それ用に自動乾燥機があった方が良いですね。緑茶のとは分けた方が賢明だと思います。

さて、ザックリ、大雑把に書きましたが如何でしたか?実際にお会いして、工場で話をすればもっと具体的なお話が出来るのですが、ユーザーから業者の方まで幅広く読んでいただいているらしい!?こちらでは、こんな感じで書くのが精一杯です。

もっと詳細を知りたい方は個別に質問していただきますようお願い致します。

最後に、日本の生産者にとって、国産紅茶はまだ発展途上の分野で、誰でも1番になれる可能性があります。また煎茶ほどの綿密な仕上げも必要ないので、小売をしたい方には扱いやすい面もあるかもしれません。引出しの1つとして、技術を習得しておいて、決して損はないのではないでしょうか?

10年後の国産紅茶の姿がとても楽しみです!

国産紅茶④

2016-07-28 23:23:44 | 国産紅茶(和紅茶・日本茶)



台湾での研修を持ちかけた理由はいくつかあります。

・インド紅茶を目指しても、不利な条件が多い。

まずはコスト。あちらは以前より上がっているとは言え、まだまだ安いです。そして茶樹(品種の違い)。日本が緑茶品種の開発を重視するように、あちらは紅茶をより良く作るための品種改良が進んでいて、日本とはあまりにも違う。

・中国紅茶は時期尚早?

1つの品種から、緑茶と紅茶を作る産地があるので、先々アテンドをしたいと思っていましたが、生産者として中国のお茶に正面から向き合うには、技術面以外のことで、いくつかのステップを踏む必要があると考えていました。

・台湾の日月潭紅茶なら…

まず、台湾という国に知日派が多いこと、この紅茶が日本人と深い縁があること。そしてここの作り方ならば日本人が無理なく導入出来るものがあること。

私がお茶に関連した専門用語も含め、中国語の通訳が出来ることもありました。

品種の違い、施肥の違い、栽培に対する考え方の違い、畑に関するありとあらゆることは、気候風土が違えば、何から何まで違います。

工場の設備もです。道具(機械)はもちろん、技術も大まかな動作から、小さな動作まで、出来る人の仕事には意味があります。

まずは、身体や五感を使ってお茶の作業を習得している生産者同士を会わせて、直に話を聞かせ、畑を見て、茶葉に触ってもらい、経験豊富で確実な技能を有した人材と交流させた方が早いと思いました。そしてすぐとは行かないまでも、生産者として、なるべく早く結果を出して周囲に理解してもらうには、この選択が1番の近道ではないかと考えました。

参加者には特段条件を出すことはありませんでしたが強いて言えば…助成金など他人様の懐をアテにして欲しくなかったので、「自分のお金で来るように」とだけ伝えました。(^_^;)

台湾側の人材選定も私なりの指針がありました。台湾紅茶の技術の習得は単なる通過点の1つと考えていたからです。そこで、日本語や英語が達者だったり、日本人に慣れ過ぎた台湾茶生産者は除外しました。
当時私が白羽の矢を立てた劉さんはその私の狙いに十分過ぎるくらい、応えてくれたと思います。参加者は保守的ではあるけれど柔軟な中華思想の持主である劉さんと、やりたい放題!?の私に振り回されながら、紅茶の製造に関する技術や周辺情報を順調に習得し、その動きは劉さん自身の訪日にも繋がり、最終的に2年連続の日台交流となりました。

次回⑤は、製造の話です。

国産紅茶③

2016-07-27 23:35:40 | 国産紅茶(和紅茶・日本茶)


さて話を国産紅茶の製造のお話へ移します。

①でも触れましたが、当時、生産者さんは自分達が作っているそのものに満足している訳ではありませんでした。情報が少ない中、模索して作っているので、自信もありませんし、逆に他者からの有用性の高い情報を求めてもがいている状態だったと思います。

そこで私は心の中では、彼らを紅茶産地へ連れて行くことを決め、その前に彼らに1度頭の中を整理するよう提案しました。

A.紅茶を作るのなら、どこの産地のものを目標にするのか?

ダージリンのようなものが良いのか?
それならファーストフラッシュなのか、セカンドフラッシュなのか?

インドの紅茶にはアッサム、ニルギリもありますし、スリランカにもあります。

それとも紅茶の始祖である正山小種(ラプサンスーチョン)や、キーマン、その他台湾の紅茶なのか?

B.リターンが欲しいならリスクも払わなければならないということ。

どの仕事も同じですが、農業も、新しい分野を始める際は学びながら、トライアンドエラーを繰り返し、そのための時間とお金と、忍耐力が必要になります。
農家さんは家族一緒に働くところがほとんどなので、やってもお金になるかわからない懸案に、1番の働き手である彼らが研修や勉強会に年に何日も出かけ、出費も…というのは、出来れば避けたいはずです。更に世代によって意見も違うでしょうから、ご家族は当然ながら容易に首をたてに振れません。
ここを説得するには、やはり本人の固い意思と、周囲の理解を得るための努力と忍耐が必要になります。(もちろん、私も彼らに対して責任があるので、時に居心地悪い思いをするのを覚悟しなければなりません。)

試作会、勉強会、上記のような話し合い…このような事をしばらく各地で繰り返し続けて、ようやく次のステップへ進んだのでした。