粗茶淡飯

中国・台湾・日本のお茶に関する色々。執筆者・徳田志保。

国産紅茶②

2016-07-26 00:02:17 | 国産紅茶(和紅茶・日本茶)



私がこの分野に足を突っ込んだ当時、日本の生産者さん達は烏龍茶と紅茶共に注目している状態で、国内で低迷している緑茶の市場に危機感を感じ、新たな分野を模索し始めているようでした。

しかしながら、日本人が緑茶の製造を追求して今日があるように、紅茶や烏龍茶の本場も、同じ様に努力されてきたわけです。見よう見真似でササっと出来る訳がありません。

そこで、まず本場のお茶を沢山見てもらい、国内で試作会のようなものを開催して実際に手を動かしてもらい、自分達が思っているほど簡単ではないことを実感してもらいました。そして、今後も長い目で、継続して勉強出来るかどうかを問いかけてみたのです。

反応は様々でしたが、結果的に烏龍茶も紅茶も勉強したいという方が残りました。

その様子を見ながら、私自身も以下の内容で5ヶ年計画のようなものを立てていました。

場所は…まずは台湾、その後中国。
お茶は…まずは紅茶、その後烏龍茶。

中期的な最終目標は、私が1番懇意にしている鳳凰単叢の産地、広東省潮安県鳳凰鎮ウードン山の優秀な農家へ連れて行くというものでした。





国産紅茶①

2016-07-26 00:01:29 | 国産紅茶(和紅茶・日本茶)


(やぶきた紅茶)

ひょんな事で、数年前から日本産紅茶に首を突っ込む機会が増えてきました。確か3年前位からだったと思いますが、この国産紅茶、良く言えば伸びしろがまだまだタップリあり、逆を言えば製茶技術においては、外(海外)に出しても恥ずかしくないものは、なかなか出現できていないのが現状です。

まず目立つのが業界、つまり生産者から流通関係者、全ての関係者に見える勉強不足です。製造過程での問題点を判断するテイスティング(拝見)の出来ない人がとても多いのです。結局好きか嫌いか、美味しいか不味いか…などの、個人の主観的感覚で判断してしまうため、作る側と売る側の話がかみ合わなかったり、共にミスリードし合う場面が頻繁に起こります。

ダメだと評価を下すのは簡単なのですが、何を見てダメだと思ったのか、その原因が栽培、設備、製造過程など、どこから来るのかを探り、コミュニケーションをとる努力をしなければ、ただ否定論が先に立ち、まともな議論は成立できないと思うのですが、なかなか将来へ繋がるような前向きな流れになりません。

何事も減点方式が当たり前な日本の業界の癖が仇になっているのか、原因はケースバイケースではありますが、とにもかくにも、まだまだ発展途上な分野ではあります。

(続く)


魔都・上海の茶館②

2016-07-25 00:26:44 | 茶館・茶房・茶坊・カフェ



喫茶だけでは経営もたず…

①に書いた上海のツワモノ達が経営する茶館は全て広く、内装にもお金をかけてあり、個室も完備されているので、接待にも使用可能です。そのレベルたるやテレビや映画の撮影にも使われる程です。(上部画像はテレビ撮影の時のもの)

ただ。昨今の日本もそうですが、喫茶だけでは利益が限られてしまいます。ましてや煎のきく中国茶、長居になるのは必至。これではあっという間に立ち行かなくなります。

そこで…

日本のカフェと同じく飲食などのサービスも提供します。ただし出すものは日本のとは拘り方が違い、簡単なお茶菓子から宴会料理まで、幅広くなります。その追求心たるや、日本のカフェなど足元にも及びません。彼らは中国全土はもちろん、必要とあらば海外からも拘りの食材を集め、かなりの人件費をかけて調理師を雇います。



また中国医学の医師を常駐させ、専門スタッフに鍼灸や推拿のサービスを提供しているところもあります。

そして、肝心なお茶。

良茶は当然高いのですが、彼らのお茶は、上海にしてはちょっと掛け率が低過ぎないか?という価格設定なことが多いのです。

なぜならば…

生産者に対し、生産者の宣伝(情報開示)をすることを条件に、卸価格を通常では考えられない位、大幅に下げさせるからです。

彼らの茶館は、ネットで検索すれば一発で様子がわかるような有名店ですし、業界でも一目置かれる存在です。もちろん、優良顧客も多く持っています。そこに認められて納品できたという実績は、生産者にとっては勲章みたいなものなのです。

上海で毎年行われるお茶の展示会を見たことがある方はご存知だと思いますが、毎年その手のイベントには中国各地から物凄い数の製茶関係者が上海へ押しかけ、取引のチャンスを虎視眈々と狙います。その熾烈な競争の中で勝ち抜くのは糸を針の穴に通すより難しいと言われています。

彼らはそれを逆手に取り、気に入ったお茶を見つけると、上記の条件で取引を持ちかけるのです。

基本的には3年位、最高級品を安価に納めさせ、その生産者の名前が有名になって来た頃(生産者自身に販売力がついてきた頃)には、また次のターゲットへ…というサイクルになっているようです。

彼らはその3年間の間に、店舗での小売、卸販売を集中的に行い、特に贈答用として企業や団体組織などから大量注文を請負ます。通常の、贈答用は最高級品ではなく、所謂普及品ですから、ここで量も稼げ、かなりの利益が見込めることになります。

またこれも「茶縁」の延長でしょうか。顧客と顧客を繋ぎ、新たなビジネスを生みだす橋渡し的なことを担っている茶館もあります。これはあくまで偶発的に始まることなのでしょうが、この手のチャンスが星の数ほどあるのも上海ならではなのだと思います。

上海の経営者達は、この経営の手法は中国国内でも上海が一番早く始めたと認識しているようで、最近は北京やその他の沿海部の大都市の茶館にもこの手法が徐々に広がっていると話していました。

さて今回はあくまで「個人オーナーの茶館」を対象にしたお話しになりましたが如何でしたでしたか?

上海で、一見さんとしてこの手の茶館で喫茶する際は、「少し高くても構わないので、オススメのお茶はありませんか?」と伝えた方が、美味しいお茶に出会える可能性が高くなると思います。お試しあれ!



魔都・上海の茶館①

2016-07-24 00:54:40 | 茶館・茶房・茶坊・カフェ




中国語で「魔都」と書くと中国人が思い浮かべるのは上海、今回は上海の茶館事情の一端をお話します。

上海も日本と同様、若い人のお茶への関心度は低いし、ケチで有名な上海人のお財布をこじ開けるのは、なかなかの至難の技。彼らは自分の自尊心を満足させる、相当たる理由がないもの以外の出費はトコトン抑えます。

上海は物価もテナント料も東京と変わらない、お茶の商売をするには大変厳しいビジネス環境です。魔都・上海で、「個人オーナー」として10年以上茶館の経営をしてきた…となると、ある意味ツワモノの仲間入りではないでしょうか。
上海で常に良質なお茶を取り揃え、顧客を満足させ、経営的に維持・持続して行ける人材は、本当に限られています。

では、上海で比較的長く経営を維持できている個人オーナーの茶館は、どんな手法で経営をしているのでしょうか?



正山小種(ラプサンスーチョン)②

2016-07-22 20:43:16 | 紅茶(中国茶・台湾茶)

①にも載せた「青楼」と呼ばれる木造の建物です。↓



正山小種、ラプサンスーチョンと言えば、必ず話に出てくるのが、この建物の話だと思います。

巷では、この木造の建物の話になると、独特のスモーキーフレーバーの着香の話ばかりがクローズアップされますが、果たしてこの「青楼」の使用目的はそれだけなのでしょうか?紅茶の始祖と言われているこの正山小種、ラプサンスーチョン。中国紅茶に限らず、世界中の紅茶にとって、その存在意義とは何なのでしょうか?

それにはまず紅茶の製造工程を頭に入れ、この青楼の構造を知ることが肝要かと思います。

紅茶の製造工程を極力シンプルに記すと…

①摘採→②萎凋→③揉捻→④静置(発酵)→⑤乾燥

となります。
一方、青楼ですが、これを上記の工程に合わせると

◉まず1階部分。↓



ここで松を焚きます。熱と煙が上階へ上がります。

◉2〜3階部分↓





ちょうど稼働中なので煙い状態でした。ここでは床から熱、レンガで造られた穴から煙が出てきます。そして棚のようなものが何段かあり、揉捻が終わり、少し発酵が始まった茶葉(✳︎)を並べます。(紅茶製造工程の④と着香にあたります。)

◉4階は↓





このような竹板を張り巡らせた床に、ゴザのようなものが敷かれ生葉が静置されています。(紅茶製造工程②)

この青楼というものは、とても良く出来ていて、建物1つの中で萎凋、発酵、着香が一定量出来るようになっています。当時としては画期的なものだったのではないでしょうか。

つまり、この青楼は紅茶の歴史上、最も原始的な大型製茶機械であり、今となっては正山小種・ラプサンスーチョンも含めて、そこに最も大きな存在意義があるのではないかと、私は考えます。

意外と半世紀後には、上記のような話が見直され、昨今ブームになった金駿眉ではなく、旧来からあるこの地のお茶に再び歴史的付加価値が付くのではないでしょうか。そうであって欲しいと願います。




✳︎この時の茶葉の色は、書籍には「古銅色」と書かれていますが、地元では「緑豆色」と呼ばれています。