書感とランダム・トーク

人間の本質を根本原理から追求研究する内容さらに遡っては生物・植物その他をサイエンス的原理から考察する。どうぞ御寄稿を!

「日本人だけが知らないアメリカ世界支配の終わり」 書感:智致望

2008年05月13日 | Weblog
カレル・ヴアン・ウォルフレン著 徳間書店 1600円
サブプライム問題による信用不安が持ち上がり、世界経済における資金のだぶつきに注力していた私にとって、この本の表題「日本人だけが知らないアメリカ世界支配の終わり」が、疑問に答えてくれるであろうと期待して読み始めた。

著者は、オランダの高級紙の記者として日本に永く滞在し、日本の社会状況を熟知し、日本研究についての多数の著作がある。

アメリカ経済が世界をリードしていることは既に既成の事実として捉えられていることから、表題にある現象を薄々感じつつあるのは私だけでは無いと思う。著者はあらゆる角度から解析しデーターをもとに結論に導くもので、現状解析から始まる本書にハウツー的に結論を求めるのは無理である。論旨の骨格は、グロバリゼーションを厳しく批判し、反グローバリズムの大潮流が押し寄せ今やグローバリゼーションは崩壊したと言っている。そもそも、WTOのルールが裕福国にのみ有利であり、途上国にとって良い事は何も無い、それに気が付き途上国は業を煮やし反発して力を付けてきていると解説している。

第五章の「地殻変動を起こす地球経済」の章は圧巻で、グローバリゼーションの崩壊によってアメリカがあらゆる分野でシェアーをおとしている現象を具体的事例を以って説明しているところは読んでいて目から鱗である。それは、世界共通言語が英語になったと言う環境下で、全ての情報はアメリカのメディアによってアメリカのフィルターを通って世界に配信されているからと言うのも、納得させられる根拠と思う。

具体例として、いまや世界経済は日本を含めた東アジアとEUにシフトしているとの下りに付いてである。アメリカは毎年1100億ドルの割合で赤字を出し続けている。早晩、終わりがくるだろうという認識ではみんな一致している。

次に世界のエンジンの機能を果たすのはヨーロッパとアジアである、その根拠は05年EUの総輸入額は、1兆1750億ユーロであり、これは2001年から毎年5%の増加、金額にして600億ユーロの増加、更に拡大ヨーロッパの国々がこれにプラスし、東アジア地域の増加を合計すると1450億ユーロが毎年増加することになり、アメリカの輸入増加の割合と比べて相当大きい規模となる。

更に、アメリカが債務を増やし続けるのに対して東アジアとヨーロッパは債権国の地位にあり、アジアからの資金供給が無ければアメリカ経済は崩壊するであろうとの事である。

本書は、これ等の現象をデーターをもって克明に説いている、近い将来の生活を守る基礎的な考えを構築するのに大変役立つ書であると思う。

天皇のものさし    書感:藤田

2008年05月13日 | Weblog
由水常雄著 麗澤大学出版会 平成18年2月  正倉院撥鏤(ばちる)尺の謎

最近、古代の測量や計測に興味が向いていた折、本書を知った。この撥鏤(ばちる)尺は象牙を15年間染料に浸した後、彫り上げていく手法で、天皇専用の物差しであったようで、メートル原器のような存在であったと推定されるそうです。
時代と共に、長さも微妙に違っており、その違いは中国での年代にも符合しているようで興味あるところです。なぜ違えたかは知る由も無いが何か理由があったものと思われます。

しかしながら、著者が問題にしていたのは、明治になって正倉院の宝物調査が行われた直後にこの象牙尺が7つなくなっていたことである。
調べていくうちに、当時持ち出せたであろう人間がこっそり持ち出したのかも知れないと・・・・。そして、時代が経ち相続され、古美術商を経て、本来国の財産であったものが、多くは個人所蔵になっているようである。
だれも見ていないからと、ほんの出来心であったかもしれないが、「お天道様が見ているよ!」という昔からのことばを大事にしたいと思った次第です。藤田昇