諜報員たちの戦後-陸軍中野学校の真実 斎藤充功(みちのり)著 2005年 角川書店 1,600 陸軍中野学校は昭和13年から終戦まで7年間存在し、その間2131名の秘密戦要員を送り出した組織である。終戦後ルバング島で一人で戦っていた小野田少尉もここで教育された。
本書は平成16年の留魂祭に参列した著者が、全国各地の中野学校関係者を訪ね歩き、さまざまな質問をして聞き書きを記したノンフィクションである。その調査行のいたるところで、著者は「中野は語らず」の厚い沈黙の壁に直面する。 しかし、その壁を乗り越え、中野学校の概要、卒業生たちの戦後の生き方、幻の教材発掘など、多くの知られざる事実を明らかにした。終戦間近、命令により米軍捕虜を斬殺した回顧談など、当事者が語るだけに実に生々しい。
中野学校卒業生の中には前歴を生かし、自衛隊や政府の諜報機関創設に携わったり、GHQに潜入した者もいる。進駐軍も彼等の特殊能力を積極的に活用したようだ。下山事件も進駐軍と中野学校出身者が仕組んだ事件らしい。ここでも著者は「中野は語らず」の壁に突き当たり、事件のカギを握ると目した人物と会いながら、告白を聞くことはできない。
戦後半世紀以上過ぎ、自分達も死を目前にしながら、部外者にはあくまで黙秘を続ける姿勢は理解しがたい。これは若いときに刷り込まれたマインド・コントロールが今でも作用しているのではなかろうか?オウム真理教と一脈通じるものがあると感じた。