http://news.goo.ne.jp/article/sankei/business/snk20131109558.html
2013年11月9日(土)19:17
(産経新聞)
大阪は商店街の街といわれる。大阪府商店街連合会のホームページによると、大阪市内には428の大小の商店街がある。同一市内にこれだけの商店街があるのは日本最大規模だろう。店舗が閉鎖したままのシャッター商店街が全国で問題化する中、なにわの商店街を歩き、その再生を考えた。
■日本一短い商店街の“危機”
大阪のビジネス街である中之島、北浜、堂島浜周辺。大手企業の本社や大阪支社の威容を誇るビルが林立する。
肥後橋商店街(西区江戸堀一丁目は)はこのすぐ近くにある。肥後の名はかつて肥後藩の蔵屋敷があったことに由縁する。
「日本一短い商店街」。30メートルほどのアーケードの入り口には、こう掲げられている。店舗は18軒、そのうち6軒はシャッターが閉まったままになっている。入り口そばには、「日本外史」の著者として知られる頼山陽の生家跡の石碑がある。
大阪の商店街で有名なのは「日本一長い」をアピールしている天神橋筋商店街。一丁目から六丁目まで全長2・6キロ。店舗数は600を超えるという。大阪の元気な商店街の代表格である。
これにかけたのか、「日本一短い商店街」とは。商店街の会長で二代目の飲食店経営の萩原雄二さん(63)によると、ブロガーが書いていたのを見つけ、5年前ほどに「採用させてもらった」ものだという。
おもしろいアイデアだと思い、話を向けると、萩原さんの反応はそうでもない。実は今年初めに、この商店街のアーケードを撤去し、商店街を事実上なくそうと計画していたのだという。
萩原さんは「商店街の維持に参加しているのは10軒だけ。維持費が大変なんだよ。そのため、行政からの支援も受け、アーケードを撤去しようと、資金の積算もしたんだけど、電柱建設の費用が最終的に足りなくなった」という。
6軒のシャッター部分は大手損保会社の所有となっている。萩原さんは「商店街でなくても、商売は十分にやっていける」とあくまで強気だ。
酒店で店番をしていた老女は「大手スーパーも近くにできて、新しくできたフェスティバルホールにも飲食店がたくさん入って、商店街には人がこなくなった」とさびしそうだった。
■クールな「オタロード」と「五階」
大阪・なんばの繁華街近くに、西日本最大の電気店街「でんでんタウン」がある。この一角に「オタロード」(正式名称「日本橋筋西通商店街」)がある。
東京・秋葉原の電気店街にもあるメード喫茶やフィギュアを売る店、ゲームセンターなどがいくつかあるが、思っていたほど多くない。
路上でメード喫茶のチラシを配っていた、自称「ふわふわワタアメ王国」から来た永遠の17歳だという女性によると、最近は外国人の観光客もこの辺りにたくさん来るようになったという。いわゆる「クールジャパン」の魅力発掘なのだろうか。
米国・ミシガンから来たという近くの日本語学校に通うアーロン・レボウィックさん(23)に尋ねると、「以前は東京に住んでいたんだけど、なんか息苦しい感じだった。大阪はリラックスして生活できるから、気に入っているよ」と答えてくれた。
一緒にいたノルウェーから来たというカリン・ブロムベルグさん(27)は、インターネットで調べて、この街に魅せられ来日したという。「雰囲気もいいし、気に入ってますよ。Jポップやアニメが大好きなんです」と話してくれた。
■大阪名物「五階」
「オタロード」から近くの細い路地を入っていくと、工具や台所用品、着物などを扱う店が密集する古いエリアがあった。
その中で目にとまったのが「大阪名物 五階」の大きな看板がある建物。実際には5階建てではない。3階建ての古い建物だ。この周辺は「五階百貨店」ともいわれる。
なぜ、「五階」なのか。
明治時代に近くに「眺望閣」という木造五層八角形の楼閣(高さ約31メートル)があり、眺めが売りの大阪人の人気スポットだった。このため、このエリアは「五階」と呼ばれるようになり、それが現在も残っているのだという。
「五階」の大きな看板がある建物で工具店を営む3代目の大谷光弘さん(45)は、「うちはインターネットでは売らないんです。店に足を実際に運んでくれるお客さんを大切にしたい。店にくると、店内で『ああ、これも買っておこう』と商売に広がりが出るんですよ」と話す。
近くでは、パソコンやモバイルが店頭に並ぶ電気店街の近くで、リアルな空間での商売を大切する。その意気込みが良かった。
■「奥さん、本当はM?」
大阪の古くからのシンボルの一つである通天閣を中心に広がる歓楽街「新世界」。ここに「新世界市場」という小さな商店街がある。
訪れた日は木曜日。20軒ほどのすべての店舗のシャッターが閉まっていて、アーケードの中は暗かった。観光客らが「すごいよ、ここ、本当のシャッター商店街だよ」などと声を上げながら、デジタルカメラのシャッターを押している。
確かに「すごい」と思い、人通りのない商店街で、一人だけ買い物カートを押していた老女に聞くと、「きょうは商店街は全店休業日なの」。安心した。
商店街が開店している日に再訪すると、各店舗の軒先におもしろいポスターがぶらさがっているのに気づいた。
「ねぇ、奥さん本当は、Mなんでしょ」
なんのことかと思ったら、洋品店の前。「M」はサイズのことだった。思わず笑ってしまった。
これだけではなかった。
「パンツの二度はき禁止」は洗濯用品店で、「96時間かけるサラダ」は漬け物店、「自販機なんかに負けへんで」は日本茶店。などなどだ。
これらは、若手クリエイターたちが、この商店街を盛り上げようと、大手広告代理店の協力も得て実施しているのだという。
このミスマッチなコラボ感がたまらない。
この盛り上げにも協力しているメディアプロデューサーの半川伸也さんは、商店街内の居酒屋兼住居で生活する。ギターを弾いていた半川さんに話を聞いた。
「日本の街が画一化していく中で、ユニークな商店街がたくさんあるといいと思う。ユニークな都市である大阪は舞台としてふさわしい。大阪の商店街を少しでも元気にしたい。そのことが、地盤沈下などと長年言われる大阪の底上げにもつながっていく」。
日本の商店街再生には、「なにわの意気込み」に見習うべき策があるかもしれない。(近藤豊和)