オー、捨てないと!

隠れオタクな会社員の買い物や感じた事

熱処理の話 その1

2009-09-22 22:42:16 | 仕事
私は金属熱処理業を仕事としているわけだが、
熱処理というのは一般の人にとってはあまり馴染みがないらしい。

以前にも書いたが「お仕事は?」と聞かれて「熱処理屋」と答えた時の反応で
相手の大まかな傾向を知ることができる。
「大変ですね」と返ってくれば少なくとも工業系の知識・経験のある人。
不思議そうな顔をしていれば工業系になじみのない人だ。
後者の場合、「金属の焼入れですよ」と付け足したりしてみるが、
「焼入れ」の単語で理解できない場合はこちらもお手上げである。
一から説明するのも面倒なので話題を逸らした方が得策だ。

そんな熱処理について簡単に説明してみよう。
金属全般で言うとややこしくなるので鉄についてのみ解説。

・熱処理の基礎
世間一般で言えば「鉄=硬い」かもしれないが、
工業系をかじった人にとってこれは鼻で笑ってしまうようなものである。
適当な熱処理を施していない鉄は柔らかく、使い物にならない。
こういう状態を「なまくら」という。
切れない刃物を「ナマクラ」というのと全く同じ意味である。
逆に言えば鉄に適度に熱処理を施せば様々な目的に応じることができる。

・熱処理の種類
そんな熱処理だが、簡単に言って以下の4種類がある。
・焼き入れ
・焼き戻し
・焼きならし
・焼きなまし
である。

・焼きならし
「焼き均し」とも書かれる事から分かるとおり、目的は金属組織の平均化である。
例えば加工用に鉄(S45Cあたり)の丸棒を買ってきたとしよう。
機械構造用炭素鋼であるS45Cは良質なキルド鋼であるが・・・いかん、難しくなった。
簡単に言うと丸棒は引き抜き材であるため内部の金属組織が均一でない。
それを均一化し、機械的性質ならびに被削性(加工のしやすさ)の向上を狙うのが焼きならしである。
機械加工前に素材の状態で行なうことが多いが、これを素材調質と言う。

・焼きなまし
「焼き鈍し」とも書かれる事から分かるとおり、目的は金属組織の軟化である。
焼入れなどにより硬くなりすぎた場合には焼きなましを行えば軟化することができる。
ただしこの場合、焼きなましてから再度焼入れする必要がある。
また焼きなましには種類があり、溶接やプレス加工による内部応力を除去する「応力除去焼きなまし」、
炭素工具鋼(SK材)においてじん性を向上させる「球状化焼きなまし」などがある。
金属組織の標準化、完全軟化が必要な場合には「完全焼きなまし」を行なう。

以前、ネット上で製鋼関係者(?)とやりあって平行線になったのがこの焼きならしと焼きなましだが、
我々熱処理屋から見て「焼きならし=組織の標準化」「焼きなまし=組織の軟化」が目的である。
なぜか向こうの見解は逆だった。

焼き入れ、焼き戻しについては次回。
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 祭日 | トップ | 熱処理の話 その2 »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
CCSCモデルファン (姫路流通)
2021-05-29 21:31:30
大物の特殊鋼の熱処理になると島根大学の久保田邦親教授の言うような半冷曲線が特殊鋼では使われますね。
返信する

コメントを投稿

仕事」カテゴリの最新記事