この地とともに。
しんくうかん
第252話 「大地の泪」
暮れに仲間とあれこれ話していると「最近“あそこ”へいったかい!」
釣りポイントのことだ。かつてよく通ったところは“あそこ、あの場所”で大体は通じる。
新しい年の朝は、雪のないまるで春のきざし!?を感じさせる雰囲気だった。こんな正月は記憶にない。
運動不足解消にやや遠のいていた“あそこ”へ行ってみた。
ここ数年続いた洪水で、河岸はえぐり取られ上流から流れ着き集まって何ヵ所もうず高くなった流木の間に、厚く積もった泥から瞬く間に復活した草木が絡み合う藪が一帯を覆う。以前は川原の手前まで車で行くこともできたのが、いまでは4輪駆動車でも容易には入ることができない。
堤防下に車を停めて徒歩で入る。と、立ち枯れたエゾイラクサや風倒木が行く手を妨げる。枯草で見えない凸凹の地面を、上がったり下がったりで足の付け根や尻のあたりが痛だるい、明らかな運動不足。挙句、仲間から頂いた真冬の川もへっちゃらの重たいウエーダ―にどんどん体力を使い、上げたつもりの足が全然上がっていなくてつんのめって転ぶ、何とも情けない。
痛む太腿から尻をさすり休み休みようやく河原に立つ。すっかり様相は変わっているが野性っぽい雰囲気・・・なんか良いね。見とれていると突然、ガラガラガラ ドン ドボ~ンびっくりして顔を上げると、対岸の崖から次々と子供の頭ほどの石が崩れ落ちてくる。
崖の中腹は氷柱がカーテンのように横に連なっている。陽がさし気温が上がって少しずつ崩れ出してきているのだ。
崖から染み出た水は流れと一緒に十勝川と合流し太平洋へ注ぐ。
今ではほとんど目にしないが経済魚ではないものの、この辺りも一昔前は浅瀬でさざ波を立てるほどに小魚が群れ、崖の岩間から染み出た清水や氷柱を見つけると良く口にしたものだが今はおいそれと手は出せない。この崖の上の一体は耕作地と牧場が広がりその奥の山間には廃棄物処理施設もある。
何かと話題になる大衆魚だったサケ、シシャモ、サンマ、イカなどはかつてない原因不明の不漁が続く。私たちの、快適で豊かな生活を求めてきた現在の有様の一端だ。
地球温暖化なども含めて人為的なものなのか自然現象なのかはわたしにはわからないが、人間が別格でない限り、すべてが自然の現象なのだろう。
目の前の氷柱は大地が流す泪に想えてきた。
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