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第201話 「条件が合えば」

す…すごい!!思わず生唾を飲み込む。
車を降りたその足元から赤茶色の傘をかぶったキノコが、目の前に広がるカラマツ林の奥まで散在していてかたまって出ているのも相当ある。

その前の週、町内の仲間と出かけたキノコ採りは全然採れず、両足が攣って一人では歩くこともできないというおまけまでついて、助けてもらったみんなからは「もう一人で山へは…行かない方が良いよ」「そうだね。携帯電話が通じないところへは行かないワ」。
その日もキノコ採りには行くつもりはなかった。“問題は運動不足―少し歩かなきゃ”と、近くの河原で石探しをしながら歩く。でも頭の中はキノコのことばかりで、気付くと森のなかに立っていたのだ。
そこは、柏の中径木が周囲を取り囲むカラマツ林のなか。風は無く少し蒸していて、まして、はじめて見た到底信じられない情景にわたしは興奮のるつぼ、体中の血がたぎっているのか噴き出す汗で手にしているタオルはもうベチャベチャ。
積もったカラ松の葉と小枝でふわふわの地べたに、どっかり腰を下ろし上半身を右、左とひねりながら次々と鋏で切り取っていく。


“あっ写真”と思い出してカメラを出そうとする。と、バックの何処かに引っかかってなかなか取り出せない。もどかしくいらだつ。寝そべってあたふたと写真を撮り終え、またキノコを…あれ!使っていた鋏がない。べストのポケットをあちこち手で探る。キノコを放り込んでいた籠のなかにようやく見つけて汗を拭い、場所を移動してまたキノコを切り取っていく。しばらくして寄り添うキノコを見て“絵になる”と、斜掛けのカメラバックに手をやるがこんどはカメラが無い。また汗が噴き出る。見回し探すと、5,6メートルうしろの重なったカラ松の枝の上にあった。

歳を重ねても、こんな場面に遭うとどうしてこうも焦って我を忘れがちになるのかわからない。誰もいないのに“先に採らなきゃ”と、無意識にこころが早まるのか。ほんとに浅ましい。切り取った、傘の開ききっていないキノコを掌にのせる。濁りのない鮮やかなレモン色、これに魅了されラクヨウキノコフアンが多いのだ。
カラ松は外来種、この松にしか発生しないハナイグチ(ラクヨウ)は明治期、入植者の持ち込んだ苗木に寄生していたらしくこの地に慣らして繁殖してきたのだ。移動の度に持ち上げる籠がどんどん重くなってきた。―もう採りきれない―とその日は踏ん切り付けた。

数日ご、家族とラクヨウのたっぷり入ったシチュウを囲み「実にうまい!!」〈復活衰退は自然条件次第。じっと耐えこの日を待っていたのだろう〉と、すこしだけ、考えをめぐらすが頭で考えることではない。自然に…自然となんだから

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第200話 「つる!!」

オヤ!!さっきから、右足の小指が何度も反り返る。足を延ばし揉むが、またキューッと引っ張られるように攣る―を繰り返すのだ。これまでもたびたび起こる症状でもあるのだが…。

先週まで雨つづきでことごとく川原の流木は湿気ている。しかも昨夜は、バケツをひっくり返したような雨が一時降った。30分もたってようやく火勢を増した焚火に鍋をかけ、キノコ汁だ。仲間と流木に腰掛け取り囲む。プシュー、キンキンに冷えた缶ビールの栓を開けゴクッと一口飲む。右足の小指が攣りだしたのはそんな至福の時だった。
9月9日は町内防災日、なかで例年好評の炊き出しのキノコ汁。でもうひとつ、事前にそのキノコ採りに行くのが仲間の楽しみ、「ボリボリがたくさん採れた」と聞いてきたのにさっぱりない。ペチャっと溶けたのをたくさん見たので、昨夜の雨で大方流れたらしい。
立木が、程よく空いた河原で気持ちよさそうな小陰を作っている。「よぉーし、もう昼にしようや」と、流木を集め火を熾したのだ。


やっとできたキノコ汁に “美味いこれサイコー”そんな仲間の声を聞き、もう一缶栓を開け一口飲む。ふと、何とも言えないいやな感覚が身体を駆け巡った気がした。ピリッとふくらはぎに痛みが走り今度は左足の小指が攣る、そして左手の親指もキューと音がすると思うほど人差し指にくっついて外側にねじれだした。必死に擦る。少し治まったので立って、足の指を長靴のなかで動かしほぐすがぴりぴりと痛む。

「よぉ~し、もう1か所見て帰ろう」と、車で移動。目的地に着き恐る恐る車を降り歩くと少し痛むも然程でない。手分けしてきのこを探すことになった。
“足が攣る”と聞き、「無理するんでないよ―」の仲間の声を背に、〈じき治る〉と思っているわたしは躊躇なく藪に入る。しかし間もなく「あ痛たた。うっー」。
両足の筋肉がねじれ、ぐにゅぐにゅと波打つ激しい痛みに悲鳴を上げ、たまらず地べたに座り込む。筋肉の硬直は太腿、そして胸筋まで上がって来た。「おーいあったかぁー」の叫ぶ声に、悶絶ながら「うっぅぅぅ動けなくなったぁ~」と、やっと叫び返す。屈伸状態で動くこともままならない。木々の間から見える、まったく動かないわたしに異変を感じ皆が降りてきた。二人の肩を借り引きずられるようにしてやっと車に戻る。あまりの痛さに喉はカラカラで声も出ない。
学生時代柔道をしていた仲間が、「椅子の背を倒し長靴、靴下を脱がして―」と手際よくマッサージを始めた。「この硬直は多分急激な筋肉痛だ。血行を良くしないと―」。
痛みが和らぎ気持に余裕が出て、「町内会報のトピックスだ!会長写真、写真」。誰かが「それどころじゃないべサ」。おかげで、何とか危機を脱し帰路に着く。

途中釣り人を見た1人が「副会長(わたしのこと)も大きなものつっちゃったよな」
〈ホントかけがえのないものをまた、つったよね〉

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