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侵略にも三分の理(2):エマニュエル・トッドの見解

2024-02-01 05:59:40 | 歴史
 2023/05/20の記事で紹介した、ウクライナ戦争におけるプーチンの立場を擁護しているエマニュエル・トッドの家族システム論などは面白そうなので、堀茂樹(訳)『我々はどこから来て、今どこにいるのか? 上 アングロサクソンがなぜ覇権を握ったか』を読んでいるのですが、なかなかに歯ごたえがありすぎます。そして当然とも言えますが、この本にはウクライナ戦争の記載はありません。ウクライナ戦争に関する彼の見解は大野舞(訳)『第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)』などに詳しいようですし、ウクライナ侵攻(2022/02/24)の数か月後に日経ビジネスのサイトでインタビューに応じています[*1]

 とはいえ、概要的な情報だけでは使っている言葉の定義自体がよくわからないことが多くて真の論理構成がよくわからないのですが、ひとまず私の理解できた限りでのトッド氏の考えをザックリとまとめてみます。

1) 世界の国々やその人々は多様な考え方を持っていて、いわゆる西欧民主主義的な考え方を彼らに「正義」として押し付けるのは、(世界に戦争をもたら原因になるという意味で?)間違いである。
2) 大まかには世界の国々(民族、社会)は家族システムの違いから3つに分けられる。
   家父長制 ロシア、中国、アラブ諸国、など
   核家族 西欧諸国
   中間  日本、韓国、ドイツ、など
 そして、家父長制の家族システムの集団はいわゆる権威主義的国家を作りやすく、核家族制の家族システムの集団はいわゆる民主主義的で個人主義的な国家を作りやすい。
 =>これはトッド氏の民俗学者としての研究結果です
3) ウクライナ戦争の原因(責任)は米国や西欧側、より具体的にはNATO側にある。
 ・プーチン政権が「ウクライナのNATO化は許さない」とメッセージを出していたのにNATO側は無視した。ロシアが自国防衛しようとするのは当然である。ウクライナについては、もともと国家の体をなしていなかった。

 最後の「国家の体(てい)」発言は文脈不明なので真意はわかりません。そもそも国家の体をなしている状態の定義がわからないので意味も曖昧です。さらにもし万が一、「体をなしていない国家だから侵略されて崩壊してもやむを得ない」とかいう論理を意図しているのではあれば、現在の国際関係における倫理観としては言語同断でしょう。そんな論理が通れば、内戦等で混乱している国家を周辺諸国がよってたかって分割しても許されることになります。
 もちろん「軍事的政治的状況により、事実上容認されてしまう」ということはあり得ますし、これまでもありました。
  スターリンとヒトラーとのポーランド侵攻による分割とかね。

 でも、そういう事態が今後は起きないようにと努力しているのが現在の国際関係における倫理観というものです。「それが現実だよ」とか言って放置するのは、疫病蔓延や地球温暖化を「それが自然なことだよ」とか言って放置するのと同じです。

 トッド氏の言説は、事実としては確実で、解釈としてもかなり正しそうな上記2)の話から出発してつなげられると、ともすれば説得されてしまいそうなのです。が、上記3)は単にロシア側の動機だけを正当化しているに過ぎません。上記2)から導かれるのは、上記3)のような動機をロシア側が持つ理由だけです。対するウクライナ側の論理、西欧や米国の論理、も同様に、そういう考えを持つ理由はあります。結果として対立している2つの動機のどちらが正当であるかの判断は、また別の物差しが必要でしょう。

 時間があればもう少し続けましょう
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