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円高の心配は必要なし 東京財団政策研究所 主席研究員 早川英男氏

2024年10月10日 20時59分42秒 | 社会

円高の心配は必要なし 東京財団政策研究所 主席研究員 早川英男氏

2024年8月12日   日本経済新聞 (聞き手は大島有美子)

 

はやかわ・ひでお 日銀で調査統計局長や理事を歴任した。富士通総研経済研究所エグゼクティブフェローを経て20年5月から現職

 

日銀が大方の市場予測より早く7月に追加利上げした背景には、作戦の変更があったと考えている。

日銀はこれまで、金融正常化を急ぎすぎるリスクを重く捉え、意図的な「ビハインド・ザ・カーブ(政策が後手に回る)」の状態を作ってきた。金融政策は通常、見通しに基づいて動くが、日銀はデータが出てから動いてきた。

 

その結果、円安が想定以上に進んだ。消費者心理に悪影響を及ぼし、企業の値上げ姿勢に影響を及ぼす可能性すらある。日銀が、これまで意識してこなかった円安に目を向けるようになったのがこの2~3カ月の動きだろう。

7月の金融政策決定会合後の市場は乱高下したが、今後も基本的には円安基調が定着するとみている。裏を返せば円高リスクを心配する必要がなくなったとも言える。かつては米国の利下げ局面で日銀が金利を上げることは難しかったが、今はそうではないという認識に立てる。

 

企業の見方も変わってきた。以前は企業業績が良くても従業員には賞与で報い、ベースアップ(ベア)はしないというのが典型的だった。円高リスクがあったからだ。

企業がベアを実施するようになった理由として、人手不足は当然あるが、1ドル=80円といった超円高はもう来ないだろうという意識があらわれている。

日本の貿易収支は赤字が常態化し、サービス収支でも海外のIT(情報技術)企業に対する支払いで生じるデジタル赤字が拡大している。所得収支は大幅な黒字だが、国内への還流は限られる。一方で個人の海外投資は膨らんでいる。円高が進んだとしても、2024年末で140円台にとどまるのではないか。

 

日銀は段階的に利上げするだろうが、(景気を熱しも冷ましもしない)中立金利の水準はわからない。短期金利で1%に近づいてきたら、利上げして様子を見て、また動くという形になるだろう。

これには米経済がソフトランディング(軟着陸)するという大前提がある。米国の景気が本当に落ち込み、利下げを急ぐことになれば、日銀が簡単には利上げできなくなる。為替相場は円高方向に進む可能性もある。

 

米経済は2~3年前と性質が変わった。新型コロナウイルス禍で一時的な労働需給の逼迫が起きたが、今は労働供給量が増加している。若年層の労働参加率が上がり、移民も流入している。その結果、高い成長率を維持しつつもインフレは鈍化してきた。

今はFRBにとってあまり悩ましい状況ではないはずだ。インフレが落ち着いてきたから利下げしてもよいが、急いで利下げしなければ景気が悪くなるわけではない。

 

米大統領選で共和党のトランプ前大統領、民主党のハリス副大統領のどちらの候補が勝っても、高水準の財政赤字は残りそうだ。トランプ氏は減税を打ち出し、ハリス氏はバイデン政権と同じように比較的大きな財政支出を伴う政策を踏襲する可能性が高い。どちらが勝利しても、インフレがぶり返すリスクはくすぶる。

 



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