京都デモ情報《ブログ版》

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【書評】オートメーションと労働の未来 (アーロン・ベナナフ 著)

2022年11月30日 | 書評



新自由主義はこれまでに、労働組合潰しから民営化と福祉削減を進め、中国、ロシア、東欧という新たな市場へ進出し、金融規制緩和と金融投機を拡大させ、インターネットで世界を繋げた。このような中、ロボットやAIは労働をオートメーション化する技術として急速に発達している。そのため近い将来、労働者を必要としない世界が実現するのではないかと言われるまでになり、ベーシックインカムといった、賃金制度に変わる労働を介さない富の分配方法も取りざたされている。

本書はオートメーション化による大量失業を、新自由主義に幻惑された説として退ける。事の真相は、ケインズ主義的福祉国家の時代から問題とされていた、過剰生産による製造業の経済成長鈍化と過少投資に新自由主義も絡め取られているため正規雇用が減少し、条件の悪いサービス業に流入する労働者と、半失業状態の非正規労働者やギグワーカーを増大させているということだ。ロボットもAIも、飽和状態の市場で企業が生き残るためのコストカッターという役割を当てられ、生産力向上は一義的な目的とされない。この辺りは、何となく肌感覚で理解できるのではないか。本書はそれを明快にする。

製造業に変わる成長エンジンが存在しないため内部留保だけが積み上がり、過剰生産を起点とする恐慌を国の借金や金融バブルの拡大再生産で凌ぐやり方も限界を迎えている。こうなると、三度目の世界大戦で在庫処理と公共工事を図ろうかという支配者も出てくる。不安定な雇用と混乱する社会情勢に苛まれる我々は、ベーシックインカムやシンギュラリティがやって来るのを気長に待つ余裕もなさそうだ。支配者は資本を死蔵し、生殺与奪の道具に貶めることしか出来ない。民衆が資本を握りロボットやAIを自ら運営することで、戦争も借金も環境破壊もない豊かな社会を早く産み出すしかない。これが本書の古典的ともいえる結論だが、結局ここに立ち返るしかなさそうだ。


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【書評】中間階級の蜂起 (ジョナサン・H・ターナー著)

2022年11月04日 | 書評



本書は、社会には感情を充足させる制度と回路がいくつも張り巡らされており、それらが機能している限り幾ら経済的に困窮しようとも中産階級は決起しようとはせず、むしろ旧体制を保守する側につくことを論じている。肯定的感情を発現させるものとして、民族、性別、親族関係、宗教、、教育、スポーツ、芸術等々挙げられており詳細にそのメカニズムを説明している。個人的に、近年ではインターネットが感情を生みだす小社会として、その機能を受け持っているのだろうなと感じた。いわゆる芸能界も、応援を通じた慰撫感情や一体感の供給源となっている。人間にとって経済的困窮も行動の動機として重要だが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に肯定的感情を供給されることに意義を感じていることを、本書から理解できる。中産階級にそれは特に当てはまり、社会変革期は、労働者階級が経済的困窮を理由に起ち上がるより前に、感情の欠損感からくる中産階級の怒りによって始まるだろうという指摘に納得させられた。そこで、中産階級の要求する社会は修正資本主義的なものにとどまるというのが、著者の見立てである。ヴィルムヘルム・ライヒの「ファシズムの大衆心理」を合わせて読まれると、“社会変革期における中産階級の行動とその動機”というテーマがより深掘り出来る。

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