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【書評】新世紀のコミュニズムへ: 資本主義の内からの脱出

2021年05月24日 | 書評



今の20歳前後の若者は少年期の内に、9・11、リーマンショック、3・11、気候変動、そしてコロナ禍と、立て続けに世界的危機を経験している。こうした中でようやく世間も一頃本屋の棚を埋め尽くした「○○資本主義」本のレベルでは、ピントはずれなことを悟り始めた。本書はこれら世界的危機を、資本主義が終焉する兆候として把握し、新世紀コミュニズムの興隆を告げる。問題は我々が国民国家と拡大再生産を前提とする資本主義の死を認め、新社会創造に向けて歩み出すかであり、本書の核心部もここにある。

著者は、資本主義と我々の認識の連関運動が危機に対応する階級闘争を通じ発展することで、精神が同時代を超え〈未来の他者〉と交通し始めることを論ずる。それは過去現在未来に存在する人類という抽象概念への信仰ともいえる際どいもので、確かに人類が死の事実を受け入れる最終段階とはこういうものであろう。皆薄々勘付いてることだが、世界的危機は今後も短い間隔で連続して起る。プロレタリアが〈未来の他者〉を捉え歴史と噛み合った時、コミュニズムの到来は不可避である。

一つ疑問があるとすれば、第3次世界大戦の近接をも予見しているのに、漸進的改良の積み重ねで間に合うのかということである。本書に限らず、最近コミュニズムをテーマにした本が本屋に並ぶようになった。それらは声高に危機を煽りたてるが、処方箋はというと協同組合や福祉、エコ政策の拡充程度。国家の枠内に点在する疑似社会主義を拡大させることで、コミュニズムが実現すると言いたげだ。しかし、こういったものが資本主義の添え木にしかならないことは歴史が証明している。著者たちは、俗世の立場に未練があるビジネス左翼でしかないのか問われる。

とはいえ、日本社会が手応えのない蜃気楼のようにしか感じられず、それを誰とも共有できない苦しみに苛まれている人に特に薦めたい一冊であるのは間違いない。


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